第四話 死なば諸共





 仕方ないからガンッガンに音楽をかける。最近のお気に入りは脳漿が炸裂しちゃってる女の子の曲インストセッションヴァージョンだ。いやなに、クソかっこいいのよこれが。キーボードの連打といい、ギターのかき鳴らしといい、テンションぶち上げたい時に聴くのは最高だね。延々とリピートできる。


 テンションぶち上げすぎて冷や汗がやばいけど。


 吸ったことないけれど、こういう時こそ煙草を吸うべきだと思う。何かしてなきゃ気は紛れないし今は紛らわせるべき時間だ。この学校はいい加減すぎるくらいだから煙草なんてきっと許してくれるだろ。そういうのに限って規制厳しいかもしれない…本当考えれば考えるほど意味不明になっていく学校だこと。


 ま、俺が今からしようとしてることも一般人からしたらかなり意味不明だろう。

 模試の問題を盗むって…どこぞの煮詰まっちゃったガリ勉くんじゃあるまいしって思わんでもない。

 ところがどっこい。俺に武器を託していった本郷くんに聞いただけだから正直嘘の確率が高いある噂があった。

 何と今回の模試、そのまま一学期の成績に反映されるそうだ。その割合なんと7割。

 これが何を示すかって、つまりは後期に受ける授業の内容が変わるってこと。


 うちの学校、何を考えてんだかシステムがちょっと大学みたいになっている。必修科目が多いものの、成績のいいやつ順に何かと自由な授業を選ぶ権利が与えられるシステムだ。いい奴らのが放任とまではいかないけれど半ばそれに近い状態の授業で生徒の自律にかかっている感じ。

 反対にやばい奴らのは授業は夕方6時半までとかザラ。そこはかとない自由があるだけであとはヒィヒィ言ってる感じ。逆効果では?と思ったりもするが、その授業で一番の成績を取ると無条件で倒会議の挑戦権と食堂一ヶ月優待券が与えられるそうだ。


 あれ、やばい奴らの方がいいのでは?って感じだけど、まぁもちろん氷山の一角。普段の待遇はもちろんいい奴らの方がいいに決まっていた。


 この振り分けに、今回の模試の結果が含まれちまうと。


 もちろん俺は上のクラスに行きたい。下のクラスは中西が担当するって慣例らしいし、俺はあいつの授業は好きだけど人が嫌いだからなるべく受けたくない。だいたい人に向かってチョーク投げてくる先生とかどうやって好きになれっていうのさ。人に物投げちゃいけませんって教わらなかったのかね。普通の常識すら危うい学校だから中西は先生でいられるんだろうな…


 とまぁ、延々とこんなことを考えていたらいつの間にか集合場所にたどり着いていた。安倍と織田はさすがに煙草を吸っていなかった。煙草の火って意外と目立つんだよね。それをわかっているあたりさすがとしか言いようがないだろう。




「やぁやぁ、お昼ぶりだねぇ。元気してた?」



 意外と元気ハツラツゥな声の主は安倍晴明。動きやすさを重視してのことか、狩衣モドキではなく普通のシャツとパンツを着ていた。そういうの別に気にしないのかと尋ねれば「順応が特技さ」と胡散臭い笑顔付きで返ってきた。

 先祖返りには特に多いんだが、自分の本当に生まれた時代の服しか着れない人たちがいる。曰く、自分が自分で無くなるかのようだと。


 そんなことなんて気にしちゃいなさそうなのが織田信長だが、やっぱり普通に真っ黒のシャツとパンツで、一つ気になる点といえば後ろにキャッツア◯みたいな女の人がいるところだ。



「さて、行こうかね」

「いやいやちょっと待てよ。そいつ誰」

「貴様と同じ一般人だ。気にするな」



 いやなおさら気になるんだけども。

 織田の目が怖いからもう何も聞かないけど。


 暗くて顔はよく見えないけれど、長髪でスタイルめっちゃいいことだけはわかった。きっと可愛いんだろうなぁ、お近づきになりたいなぁ、という目線を送ってみると物の見事に気づいてくれない。意図的に気づいてないような雰囲気もするけど、めげちゃいけない。このくだらない盗みが終わったら声をかけてみよう。

 一般人ってことはきっと有名だろうしね。


 で、どうやって忍び込むのか気になった。

 安倍に聞こうとしたけれど、その安倍が物騒なもの構えて俺の背後を見ていた。物騒なものが何かって?どこから取り出したのか気になる和弓だ。ちなみに矢はもうつがえてある。



「今回はさすがに学習したようだね」



 低い弦音とともに矢が高速で俺の後ろに飛んで行った。慌ててそっちを見ると、華麗に安倍の矢を避けたスーツの人影があった。

 背負った矢筒からもう一本取り出してすぐにつがえ、某アシタカよろしく矢を放つ。すれば今度は避けずに素手で止めた。


 安倍は嬉しそうに笑う。



「二人とも、ちょっと行こうか。あれは一旦付き合うと長いからねぇ。まだ本調子じゃなさそうだから今ならまだ校内に入れる」

「そうだな。ハルアキ、どこの窓の鍵を開けておいたんだ」

「ここからすぐさ。案内するよ」



 織田もつられて嬉しそうにする。俺だけ意味がわからないけれど、ひとまずはしたがっておいた方が良さそう。


 俺たちが走り出してもスーツは追いかけてこなかった。


 無事に不法侵入できたところで、一応職員室に向かいつつさっきの人物について聞いてみた。これで知らないって言われたら俺は何を信じればいいんだ。

 もちろんそんなことはなく、安倍は弦の調整をしながら答えてくれる。



「あれは俺の直系の子孫、土御門晴獅賀はるしがだよ。俺に会いたくてこの学校の教師になったんだ。術の軸は全て俺が作ったし管轄は未だ土御門家だしね。そういうのもいろいろあって俺を追いかけてきたのさ。可愛いだろう?」



 だけどその笑みはどっちかっていうと〈いじめて楽しい〉の笑顔に近い気がするんだけど。





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