第三話 あてどなき旅





お前はどうする、と織田に聞かれ、俺は真っ先に英語の担当である飯塚先生の席を指差した。何を隠そう俺は英語がほんっっっとにできないのである。その壊滅ようと言ったら…本気で卒業ができないくらい…


中三の時の担任に言われたもんな、『なんでその英語のできなさで高校受かったの』って。いやそれは俺が一番聞きたいから。学調ほぼ10点未満だったんだぞ。でも日本人だから英語できなくったっていいじゃない!



「ていうか一人一教科なのか?」


「…お前が全部の金庫を開けれるというのなら全部やってもいいが」


「え、全部の金庫?一つの金庫にまとまって入ってるんじゃないのか」


「それが難儀なことにの、奴ら先生中々どうして我らの心内を理解してきたのよ。いい加減知らぬ存ぜぬで通せなくなったんだろう、学校中にセンサーを張りめぐらせ金庫をバラバラに隠しおった」



てことは最初の何回かはキレーに成功したってことですか。それってどうなのよ。問題になったりしなかったのかね、純粋に疑問だわ。


で、数分後に決まったのは俺が英語を盗み、織田が国語、安倍が数学だった。あれ、得意とか言ってませんでしたかさっき。俺がそっちをジト目で見ればふいっと顔をそらし「模試は無理」と小さくぼやいた。あ、了解です。


それでは、と織田が俺に紙を渡し



「各自結構時間まで大人しく!決して気取られるでないぞ」



解散ということになった。

意外とノリが軽かった…なんだろう、もっと、こう、不穏な雰囲気に包まれたダークな感じかと思ってたら、教科確認して終わった。まぁフラグの紙は俺の手の中にあるわけですが。


見たくない気持ちと見なきゃっていう気持ちがせめぎ合いつつ、俺は二つ折りの紙に目をやった。そこには箇条書きで色々書き連ねてある。初っ端から「怪我しても責任は当方問わず」って書いてある時点で不穏なんだけどね。


その下には「拷問されても他人の名を吐くなかれ」とか「己よりも問題用紙を優先せよ、何があろうとも必ず郊外へ持ち出すべし」等々人権無視しまくってて草しか生えない。やりたくなくなってきたな…



「あぁ、そうじゃ、くれぐれも術は使うでないぞ」


「その点において心配はないっすね。俺、まだそこらへんの登録終わってないんで」



まぁこの紙の一番下に書いてあるしね…

『術を使用したる者切腹すべし』って。





そんなこんなで俺は安倍と織田と分かれて教室に戻った。そう、チャイム聞くまですっかり忘れてたけれど今は昼休みだ。しかも俺の勘が正しければこれは始業のチャイムだ。あと俺の記憶に間違いがなければ次の授業は日課変更で…



「世界史だ…」



つまり、仲原。





□□□□


ご丁寧に半殺しにされて五時間目が終わり、ついで六時間目も体育で無事にしごかれ満身創痍で寮の自室に帰ってきた。江戸川は外出届を出しているらしく今週は部屋に帰ってこない。だからこのだだっ広い空間にのびのびとできるわけだが…


今日は寝れない。


織田にもらった紙の裏に集合時間と場所がクッソ綺麗な字で書いてあった。時間は夜中の十二時、場所は本校舎隣の喫煙所。目立たない服で来るようにとのことだ。ベッドの上でゴロゴロしながらヤベェなと実感が湧いて、冷や汗をかいているとチャイムがなった。


ドアを開けると本郷がそこにいた。



「どーもっ、お届け物でーす」



紙袋をそう言いながら掲げ、中身を確認するように言う。

見れば真っ黒い剣道の道着だった。



「いやなんでこれ渡してきた?」


「どうせ今日盗みに入るんでしょ?だったら目立たなくて動きやすい服がいると思って」


「…いろいろツッコミたいのは山々だけどこの際おいといてだな、とりあえず中入れよ」




やっぱ本郷怖ぇえわ。察する能力高すぎだし俺に剣道のやつを渡してくるあたり…将来敵にまわしたくない人間ナンバーワンだな。


なんで気づいた?と背中越しに聞けば「所作と筋肉のつき方かな」と返ってくる。その洞察力は小説家だからだと思いたい。ほら、小説家って目ざとそうじゃん、いろんなことに気がついていろんなこと推測しそうじゃん。ね!?



「ま、織田先輩に呼び止められてる時点で、時期的にもだけど、盗りに入るのは気づくしね。あと中に折りたたみ式の木刀入ってるから使っていいよ、ていうかあげるよ」



…折りたたみ式の木刀って何。俺初めて聞いた。


袋を漁れば確かに入っている。なんか、ヌンチャクみたいだな。いやでも…えぇ…ほんとツッコミの要素しかねぇな。


本郷は勝手にソファに座り、俺はその向かいに座る。お茶が出ないとか文句いうな、この部屋そういうの全部ないんだよ。あっても江戸川が全部飲んじまうか食っちまうんだよ。



「あとねー、アドバイスとしては金庫にこだわらないほうがいいよ。あの人ら僕らを騙すことに必死だからね。金庫はほとんどフェイクだと思ったほうがいいかも」


「…どーも」


「それと本校舎4階の一番奥は僕が物置に使ってて、そこにいろいろ溜め込んでるから使いたかったら使っていいよ」


「…うん」


「英語狙うんだったらまずは職員室の隣の給湯室行ったほうがいいかも。そこの右上の茶箪笥の下から三番目の棚の奥のカップに鍵隠してある可能性が高いんだ。飯塚先生あんまり危機感持っ…」


「ストップ!」



俺は思わずそう叫んだ。キョトンとするけど俺の頭はさっきから置いてけぼりだ。まるでマッハの車をママチャリで追いかけてるくらいには置いてけぼり状態だ。


一旦落ち着け、俺。ここはそういう学校でそういう人しかいねぇ。だから、落ち着け慣れろ(暗示)。



「なんで、お前は、そんなに詳しい?」


「なんでって、そりゃあはいったことがあるからさ」



だよね



「僕んときは人が集まんなくてね。織田先輩は骨折してたから無理だし、安倍先輩は定例会議で京都だったから…結局僕が全教科盗ってきたんだ」



だよね。もう予想はできてたから俺ちゃん何も驚かないんだ…






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