3.

「カレーごちそうさまでした」

「久々のサエグサ家仕様はどうだった?」

我が母君の作った夕飯を食べたキリエを見送るべく、僕は自宅の前まで出て来た。

「美味しかったけど、前より辛かった気がするし、一杯だけでお腹いっぱいになった。やっぱ身体変わったせいかな」

「今日のカレーは母さんがスパイスの量間違えたらしいし、皿もキリエが家で一番大きいサイズ出されてたよ」

「あっは」

時刻は八時半を回っている。キリエの自宅まで徒歩で20分、自転車なら10分程度だろうか。帰宅が9時近くなるのは間違いないだろう。

「今日は楽しかったよ」

自転車を押して、キリエは道路へ向かう。

「これからも、時々こんな風に構ってくれたら嬉しいし。むしろ構われにいくよ。いいね?」

決めた。腹をくくろう。

「じゃあ、早速その期待に応える」

「ん?」

「家、近くはないだろ?俺、送ってくから」

キリエが立ち止まった。今度は自転車を倒さず、スタンドを立てた。

「キリエは女の子になった。俺は今日やっとそれを受け止めた、受け止めなきゃって思った、他でもないキリエ自身の言葉で」

だから

「今日から俺は、キリエを女の子扱いする」

華奢になってしまった身体を奮い立たせ、友人は一大決心をし、それを僕に打ち明けてくれたのだ。他でもない僕がそれに付き合わないで誰が付き合うというのか。

「ひとり危ない夜道を女子中学生ひとりで歩かせちゃいけない。だから、俺が責任持ってキリエん家まで送る。反論は認めない。行くよ」

きっとこれが今僕の出来る、今僕のしたい精一杯だろう。

ここぞとばかりに捲し立てた。こちらに背を向けていて、キリエの顔色を伺うことは出来ない。

「ごめん、めんどくさい」

僕なりの一大決心をバッサリと斬り伏せると、キリエは一呼吸おいてから、先ほど立てたばかりのスタンドを元に戻す。

「ぶっちゃけちゃえば緊張の連続だったし、体力もろくに回復してないのにサエん家まで歩いたしで、もうクタクタでさ。お腹いっぱいで眠いし、ちんたら人と歩くのは正直ダルいね」

自転車の向きを変えて僕の前まで来ると、ハンドルを僕の手に握らせるキリエ。

「だからさ、代わりにサエが自転車乗って、私を家まで乗っけてって」

そう言いながらキリエはさっさと荷台に跨る。

「さ、帰るよ。出来ないとは言わせないから」

女の子扱いするって宣言したもんね。

こっちを向いた彼女は、どこか挑戦的な笑みを浮かべている。

僕は少なからず緊張する。同じ緊張を、彼女もしていたらいいのにと思いながら。

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