オオカミ男の円舞曲

雨道

第1章 悪魔と姫の契約

ep.1

世界の平和を象徴とする国、「ギイセ国」。

かつて、多くの国が戦いを挑むもその破られ

ない平和に誰もが絶対の正義だと唄った。


そんな国の中心にそびえたつ「ギイセ城」。

だがある日、黒い煙が城を包み込んだ。

夜も深い時間に庭園から火が上がったのである。


突然、訪れた事態に城の兵士達は、

慌てて対応するも炎の勢いは増すばかり。


多くの兵士が火消しへと庭園に集まる中、

静かになった城内にこそこそと動き回る

一人の少女が現われた。


煌びやかに輝く純白のドレスに、腰まで

流れた長いブロンドの髪を揺らしながら

辺りを警戒している。


向かった先はとある一室。通路の角に隠れ、

扉の前に立つ二人の兵士を伺った。


少しくすんだ銀色の甲冑に手には長い槍を持

ってその部屋を守っている。何やら火事が起

きた庭園について話していた。


少女は小さく息を吸い込むと

兵士達の元へと飛び出した。


「ちょっと大変よ!あんた達!!」


静寂の中に飛んできた少女の声に二人の

兵士は慌てふためいた。それが彼女のもの

であると気づくと安心した顔を浮かべた。

彼らと少女は顔見知りであった。


「これは、リズン殿。どうなさいました!?」


「向こうの方で怪しい奴を見かけたの!」


「怪しい奴?」


「黒いローブの格好をしていたの。もしかし

 たら、庭園の火事を起こした犯人かもしれ

 ない!」


リズンと呼ばれた少女は、自分が出てきた

通路を指さし、見てくるように促した。

しかし、二人の兵士は互いを見合わせ、

眉をひそめた。


「さ、さようですか?しかし我々はこの

 部屋から離れられない身でして…」


二人の兵士が彼女の指示に渋ると、リズンの

表情が険しくなり、声を荒げた。


「今そんな事言ってる場合!?早くしないと

 逃げられちゃうのよ?逃げられたらアンタ

 達の失態よ!そんな報告していいわけ!?」


「ハッ!申し訳ありません!直ちに!」


リズンの言葉に背筋を伸ばした二人の兵士。

逃げるように長い廊下の奥へと消えていった。


それをリズンは見送ると、二人の兵士が守っ

ていた部屋へと入っていく。


部屋の中は真っ暗で何も見えない。そんな暗

闇の中、彼女は着けていたレースの手袋を取

り、ひっくり返すとマッチの箱が出てきた。


それを一本擦り火をつけると、机の上に置か

れたランプが見えた。火をそのランプに移し

替え、周囲を明るく照らしだす。


その時何かが反射した。リズンはランプを

持ち上げ、反射された方に向けると、

大きな黒い塊があることに気づいた。


「どうやら、これのことのようね」


それは、リズンが見上げるほどの大きさで、

どこか重たくも禍々しい黒い「水晶」だった。


リズンは近づき、中央の辺りを凝視すると、

小さな穴を見つけた。それをリズンは確認す

ると胸元から鍵を取り出す。


「南無三…」


小声で祈りを呟き、その小さな穴に鍵を

差し込んだ。鍵から伝わる手ごたえに

リズンの口元が思わず緩む。


すると、黒い水晶は自ら光を放った。


だんだんと光は強くなるとともに、ヒビが

入っていく。やがてパキンッと鋭くも弾ける

音が鳴り響くと水晶は割れて崩れていった。


「ふふん、成功のようね…」


嬉しそうにするリズンの先には、一人の男が

立っていた。彼は崩れた水晶の中から、姿を

現したのだ。


黄色いマフラーに膝丈まである長いコート、

くせっ毛のある銀色の髪が特徴的な成年だ。


一見、人間のようにも見えるが、顔の横から

は獣のような大きな「耳」が飛び出している

。それは人ならざるものの証。


成年は目を開けると、自分の状況が分かって

いない様子だった。辺りをキョロキョロと見

回すばかり。そして、リズンと目が合った。


「お嬢さん、今俺はどういう状況か説明して

 くれたりするかい?」


「お嬢さんじゃないわ!ギイセ国、国王の娘

 にして姫君!リズンよ!!」


リズンは人差し指を勢いよく突き出し、

意気揚々に名乗った。


「ああー…そうかい。じゃあ、お姫様。

 俺は今どういう状況だい?」


「封印されていたのよ!覚えてない?」


「ああ、脳みそがちょいとまだ寝てるようだ…」


成年の意識は混濁していた。何か思い出そう

とすると頭の中に靄がかかったように映し出

されない。対して、リズンは成年のことを知

っているようだった。


「貴方は今から一年前、憲兵によって捕まっ

 たのよ」


「捕まった?何故?」


「それは貴方が特別な存在だったからなん

 だけど…それも忘れてるのかしら?」


成年は少し考えると、大きな耳に気づき、

ピョコピョコ動かした。


「ああ、そうか。俺は悪魔…。

 ”悪魔のフェンリル”か」



悪魔…。それは人の世界とは反対の空に存在

している、力と術に長けた世界、「魔界」の

住人である。人間から最も恐れられている存

在であり、その力の差からお互い相容れない

ものとされている。


フェンリルはそれを思い出すと

力なく笑った。


「そ!貴方は悪魔。悪魔だったから捕まって

 封印されたわけ」


「理不尽な話だな…。だが、こうしてお前さ

 んは俺を出してくれたわけだが……助けて

 くれたってわけじゃなさそうだな」


「あら!一応助けたつもりよ。でもお礼の

 内容によっては気が変わるかもしれないわ」


その時のリズンの黒い笑顔にフェンリルは

嫌な予感を感じた。


「ほう…、飯でも奢ればいいのかな?

 美味いカニの店とか思い出すかもしれん」


リズンは首を小さく振ると、腕を大きく広げ

、天井に向かって高らかに答えた。



「アタシと協力してこのギイセ国を

 メチャクチャにしてほしいのよ!」



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オオカミ男の円舞曲 雨道 @amamiti

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