海野と資本主義
海野は、なぜ資本主義が終わりなのかを、身近な例を挙げながらわかりやすい言葉で説明してくれた。おそらくはそうした論調のネット上の記事や新書のベストセラーなどから、ピンときた部分をつなぎ合わせて理屈を作り上げたのだろうが、全体としては上手くまとまっていて、なるほどそうかもしれないと納得させる内容だった。
「君は頭がいいんだね。それにすごく魅力的でもある」
「あーまた、やめてくださいよー。ほめてもなんにも出てこないからね」
「アミーゴちゃんのことも?」
「アミーゴ? ああ、ゴトちゃん、後藤亜実っていうんだよ。そういえば、あの子のことが聞きたいんだったよね。何か悪いことでもしたとか?」
「いや、そうじゃないんだ。ある人が、後藤さんに、あることをしてもらって、そのことでお礼をいいたいらしいんだ。ところが、どこの誰かわからないから、私が探し出すことになった。メールアドレスを頼りに、ネット上を色々探っていくうちに、もしかしたら君が彼女と仲のいい一人じゃないかと思ったんでね」
「確かに、私はあの子と仲がいいけど、親友ってわけじゃないよ。でも、あの子は友達付き合いとか積極的じゃない方だから、結局私が一番仲がいいってことになるかも」参考書の横に置いてあったスマートフォンを取って「そういえば今日、ゴトちゃん学校休みだったよ。こんなメールが来てるし、ホラ」
海野が私の顔にぶつけそうな勢いで突き出したスマートフォンのメール画面は、送信時刻が今日の午後二時と表示されている次のような文面だった。
スマホ置いて、二、三日遠出します!
ではでは!
「今日は金曜日でしょ、だから月曜日には戻ってくると思うんだけど、あの子、かなり変わってるんだよね」
「なんだか、ふらりと旅に出たって感じだけど、こんなことよくあるの?」
「時々いなくなるっていうのは、割と多いよ。彼女、一人暮らしだしね」
女子高生で一人暮らし。またもやユニークな人間の登場だ。しかしよく考えてみれば、親の事情などで一時的に高校生が一人暮らしをすることは、それほど特殊なことではないのかもしれない。確かに私の高校時代にも、そういう友人がいた。その友人は、親の仕事の都合だったが、そのわずかの期間に女友達を家に連れ込んで童貞を捨てた。
「高校生が一人暮らし。何か事情があるようだね」
「ゴトちゃんのママは、彼女が小さいころに離婚して家を出ちゃってて、パパと二人で暮らしてたんだけど、パパの仕事がね、ちょっといろいろヤバい系らしいのね。大きくなってそれを知った彼女が、すごく嫌がってさ、今度は彼女も家を出ちゃったってわけ。ヤバいことで稼いだお金で育てられるのが耐えられないんだって。それで、自分でお金を稼いで自立を目指しているんだけど、やっぱりそうはいかないから、結局マンションの家賃はパパに出してもらってるみたい。パパにしても、家出されたりするよりはまだマシって感じらしいよ」
「コンビニでアルバイトでもしてるの?」
「それがね、あの子も行こうとしてるの、いい大学に。だから、コンビニのバイトじゃ勉強する時間がないから、すごく効率のいいバイトしてるんだよ。私はゼッタイやんないけどね」
海野の思わせぶりな表情から、私はそれが援助交際のことだろうと察した。もし海野もそれをやっているんだったら、今の私ならエントリーしてしまうかもしれない。人間、いつの時代でも妄想するのは自由なのだ。
「なんとなくわかるよ、君たちがエンコーと呼んでいる、アレだね。でも、それだってヤバい仕事なんじゃないか?」
「そうだよ由名時さん。ゴトちゃんは頭がよくて、自由だけど、やっぱエンコーはヤバいと思うんだ。でも、私がいくらいっても聞かないし。だから、彼女に会って、やめるように説得してくれない?」
「トライしてみよう」本筋からは外れているが、女子高生の役に立つのも悪くない。
「後藤亜実の連絡先を教えてくれるんだね」
「うん、教えるよ。マンションと実家の二つとも」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます