宮嶋茂樹著『不肖・宮嶋 死んでもないのに、カメラを離してしまいました』

宮嶋茂樹氏は、「写真界のジョージ・クルーニー」(歳が同じらしい)と自称する報道写真家です。

東京拘置所の麻原彰晃の撮影に成功し、アフガニスタンやイラク等の紛争地域へ赴き、命の危険を顧みずスクープ写真を発表されてきました。


彼を知るきっかけは、今は無い雑誌『編集会議』を書店で手に取った事でした。

2004年3月号の記事「不肖 宮嶋青春記」が3回にわたって連載されます。

そこには、兵庫県明石生まれ、名門校の白陵中学・高校出身とあり、秀才です。

彼の書く文章は関西弁のくだけた言葉で、ダジャレにボケとツッコミ満載、読者を笑わせます。すっかりお気に入りになっていました。


するとたくさん本を刊行されているのが分かります。写真とルポルタージュです。


2003年3月イラクで始まった湾岸戦争を写した本が手元にあります。

『不肖・宮嶋 死んでもないのに、カメラを離してしまいました。』

その内容は、戦場の惨状を写し、戦下で暮らす市民やアメリカ兵と交流するイラクの子供達を写しています。


宮嶋氏自身も命の危険にさらされます。

「アメリカ連合軍のB-52の総攻撃に目が飛び出た」と書きます。

「死んでもカメラを離さない、とコイていた不肖・宮嶋も、情けないことにカメラを投げ出し防空壕に逃げ込んだ」


4月、ホテルの15階でカメラを構えていた時の事。そこに写る戦車の砲身が、音も無くこちらを向き、火を吹きます。彼の部屋から10メートル横の窓に「米軍が戦車砲をブチこんだのである」

「二人のカメラマンをバラバラにし、その大量の血の海の中で、立ち尽くすだけ。

カラシニコフの狙い撃ちにスッ転んでケガまでして、不肖ならぬ負傷・宮嶋に成り下がってしまった。ヤングからドンくさいおっさんやと後ろ指さされるようになったら、消え去るのみ」とすっかり、弱気になります。


それでも、根っからの戦場ジャンキー、精力的に取材します。

「米軍の破壊より、市民の略奪と放火による破壊が遥かに大きくなり、イラク人は図書館の本まで放火したのである」

「略奪者の運び出す車両で渋滞が出来上がる始末」


「イラクの人民たち…エエカゲン略奪やめて、悪いことをアメリカやフセインのせいにするのはやめよ。ついでに勇敢なアメリカ兵の諸君!戦車砲で同業者を吹き飛ばした恨みは一時忘れてやる。戦を憎んで人を憎まずや。これからかの地に行く自衛隊員たちをよろしく頼むで。」と結びます。



『不肖・宮嶋 金正日を狙え!』

今の北朝鮮委員長の父親の話です。彼が現役だった頃、ロシアを訪問します。その時の『将軍サマ』と自らの動向を活写していて、面白く読めます。

ロシアの通信社が公式日程を発表すると、宮嶋氏は彼の行く先々に先回りし、隠し撮りするための方策を練ります。

何せロシアの警備は特殊部隊のスナイパーがライフルを構えていて「疑わしきは罰せずどころか疑わしきはとりあえず撃つという方々なのである」

その上北朝鮮のSPが取り囲み、とうてい正面から写すなど、とんでもない事です。


宮嶋氏を含め四人が、若いお姉さんの部屋に押し入り⁉、「将軍サマ」が駅に降り立つところを写真に撮るため、彼女に窓を開けて貰います。

警備員に締めろと命令されますが、彼女の巨乳と「暑いから少しだけ開けさせてね❤」の言葉で警備員は鼻の下を伸ばしちゃう。


朝鮮語で叫んでいる人がいたのですが、その朝鮮語も正しい発音をあえて書かず

「ハンナレ、チョンギレ、カルピスミダ?」

と面白半分の言い回しで文章に落とし、笑わせてくれます。

ロシアの作家トルストイの小説「アンナ・カレーニナ」に掛けて

「アンタ・カエリーナ」と言ったり

「ポケットから手を出せ!」とロシア語で命令されると

「へ?ロシア語ゼンゼンダメーノフ」

「ワカリマセンノフスキー」

などと、緊迫した場面でさえ、おどけた言葉で表現します。


読者を楽しませてくれる彼の文章は、サービス精神旺盛。

同行した「喜び組」を撮影したスクープ写真を週刊誌に発表するや、読者からの反響が大きかったといいます。

「一発当たれば大きなシノギになる。ついでに名声と女までついてきたら、言うこと無し」


「わが命を削りながら撮影し続けた貴重な写真を、名ばかりのフォトジャーナリストは目をひんむいて見よ。どや、これがプロの報道写真や。」「近くに寄って、目にも見よ‼」

と胸を張ります。


「この世で最も尊いと日本人だけが思っている人間の生命のやりとりをする場所…それが戦場」

「私も四十路すぎ。髪は真っ白。歯はボロボロ。一夜3度のセックスが1度になり…トホホ…。いやいや、イカンイカン。ガキカメラマンが、のさばるのを見たくない」


つくづく男性というのは「戦う、争う」遺伝子が体に埋め込まれている、と思えます。

原始の時代から獲物獲得のため、命がけの争いをしてきたヒトの男子に、否応無く代々伝えられてきたのでしょう。


大きな危険を冒してでも、華々しい称賛と莫大な利益を狙う戦略は、男子の体に内包するものです。

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