『センセイの鞄』『博士の愛した数式』若い女の子を好きな老先生

川上弘美著『センセイの鞄』

小川洋子著『博士の愛した数式』


この二作品の主人公は、

世事に疎い浮世離れした人

社会性に乏しい学究肌

どこまでも礼儀正しい謹厳実直な人柄

美しい言葉遣い

これらを合わせ持った先生です。


私の心にしみ入る作品です。


『センセイの鞄』

行きつけの居酒屋があるという少々オジサン化した37歳のツキコさんと、かつて彼女を教えた国語のセンセイの二人が静かに恋する話。

センセイはもう70歳近いのですが、彼からツキコさんに声を掛けます。


男というものは歳を重ねるほど「若い女の子」好きになる生き物だと今になって分かります。

私の夫が65歳ですがAKB48好き。

テレビ番組で彼女らの選挙を観るのには、呆れてしまいます!

「ばっかじゃないの!」と罵ってやりますがお構い無し。「乃木坂46も好きや」と、臆面もない。

それでも男の子の可愛さが垣間見える時があるのは、私がお母さんの気持ちになるからです。


なのでセンセイがかつての教え子の若い女性が傍にいれば近づきたい気持ちは分かります。


父子ほどの年の差が、男女の緊張感を無くしています。心も時間もゆるゆると力が抜けたものになり、心地よさが二人の間に生まれます。「食の好み、人とののとり方が似ていれば」尚更好ましい関係になって当たり前。


時には父への甘えの様な、時には恋人への甘えの様な、と変化するツキコさんの気持ちをセンセイは受け止めます。


センセイは、子供か教え子に躾をするような気持ちと抑制の効いた恋人への熱い気持ちで胸が高鳴り、時をさかのぼって青年に帰った心地よさでしょう。


最後まで互いの言葉遣いが馴れ馴れしさに落ちず親しみのある謹み深いやり取りなので、恋に落ちても生々しさは感じず美しいまま終わります。


奥付を見ると2001年6月の出版です。3か月後の9月には、はや5刷りされベストセラーになっています。


製本がペーパーバックの様で、数年ぶりにページを開くと紙の四隅が黄色く変色しています。


『博士の愛した数式』

80分しか記憶が維持出来ない高次脳機能障害を持つ「博士」と、彼の住む“離れ”へ家政婦として通う「私」とその息子が交流する物語です。


老数学者の博士は、10歳の息子をルート(√)と呼びます。博士とルートは阪神タイガースファン。かつての名選手村山や江夏の背番号や「私」の誕生日の日にちが、博士の手にかかると美しく神秘的でロマンあふれる数式に変わります。


1992年セ・リーグのペナントレースが並行してストーリーが進みます。クライマックスシリーズはまだまだ無い頃です。


ここでも老博士はやっぱり男で、若い女の子を好きだと分かる場面があります。


三人で阪神戦を観戦するため球場へ出掛けます。

観客席からジュースを買おうとする「私」を制して博士は「ジュースを買うなら、あのお嬢さんからにしなさい」「あちらのお嬢さんが、一番可愛らしいからです」なんてのたまうのです。


博士は10歳のルートに対して、それはそれは大切に丁寧な態度で接します。

「博士はルートをほめるのに労力を惜しまなかった」

「私」は実の母親を亡くしているので、博士とルートが祖父と孫の様に見えて嬉しいのです。

「子供の心配をするのが親に課せられた一番の試練」と博士が言います。

物語からは子供の育ちに大切な親の心得を教えられます。

2003年8月初版、その1ヶ月後の9月には早3刷。

165万の大ベストセラーになりました。


この本を読んだのが出版された2003年で、この年18年振りに阪神タイガースがセ・リーグ優勝を果たします。

なんという巡り合わせ!

著者は筋金入りの阪神タイガースファンです。

偶然とはいえ、タイガース優勝の密かな悲願を作者がこの本に込めて、その念願が通じたかもしれません。


幼稚園児の頃からのタイガースファンの夫も言わずもがなの喜びよう。


この二冊は私が40歳代後半の頃に発表されています。二十歳代の私ではまだ鈍感で、この作品を受け入れる感性は持たなかったでしょう。


波乱はなく、クライマックスで感情が高ぶる派手さのあるストーリーではありません。


日常が繰り返される中で、静かに綴られる信頼と愛情が読者の心に染み渡り、静かに心震わせ静かに涙します。


それにしても男性は歳を重ねても女性への興味は尽きないようで、性欲も衰えない。一緒に歳をとっていく夫婦ですが、妻は歩調を合わせるのが苦労です。


女性は生まれた時に卵子の数が既に決まっていて一生涯増える事は無いそうです。

男性の精子は歳に関係なくどんどん作り出すとか…💦

女性を求めて出したくなる⁉のも仕方ないのかもしれません。

こう書くと動物的なオスを感じてちょっとコワイ。

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