『ノルウェイの森』が人生の支えになった若者とNHK100分de名著『苦海浄土』(石牟礼道子著)宗教は苦悩する人のために

全国紙の日曜版の記事に、記者自身の若かりし頃の苦悩が書かれています。


「…学生の頃、どう生きてよいかさっぱり分からなくなった。入信はしなかったが、オウム真理教の前身を主宰していた麻原彰晃に会ったこともある。そんな最中の1987年、『ノルウェイの森』が刊行され、私は貪(むさぼ)るように何度も読んだ。彼の作品は私を現実に踏みとどまらせる小さな、しかし確実なフックの一つになってくれたと思う。」


彼は、幸運にもたまたま出逢った村上春樹著『ノルウェイの森』のお蔭で人生を間違えずに済みました。

彼の作品は圧倒的に若い人の支持を得ていて、海外の人々の心にも響くたぐいまれな小説です。

残念ながら、その良さが私には分かりません。村上春樹氏は団塊世代にもかかわらず、今の若者の心に寄り添える鋭い感性を持ちます。誰も真似できない生まれながらの才能でしょう。


今も昔も変わらず共通するのは、若者の多くがこれからの人生を思って苦しみをかかえているという事です。


救いの言葉を求めて本を探す人には、心にヒットする作品を提供出来る仕組みがあれば人生を救う一助になります。


また、日本には10以上の仏教宗派があります。

宗教は苦悩する人の為に本来あったはず。

僧侶は庶民の為の哲学者


日本の宗教界は、エリートと目される若者ばかりが傾倒し入信するオウム真理教に危機感を持たなかったのでしょうか。


苦悩する若者を惹き付けるその教えは何だったのかを分析し、悩み多き人々の求めるものを探求します。


仏教宗派の総本山のトップの方々は、節目の時期に社会における仏教の立場や考え方を説く声明を広く発表されたら良いのに、と思ったりします。

特に地震で身内を亡くされた人、被災された人に言葉を掛け、死者を慰める読経は大きな慰めになります。


社会で起こるニュースに仏教はどう寄り添えるでしょう。


核家族になり無宗教の家がある一方、墓や仏壇を持つ家では、宗派を代々継ぎます。


総本山のトップ(貫主)の言葉は重みがありますし、その宗派であることが家族の誇りにもなります。無宗教の家族は宗教を見直します。


水俣病患者を書いた本『苦海浄土』を解説したNHKテキスト『100分de名著 苦海浄土 石牟礼道子』(『苦海浄土』の本は読まずにテキストで省略してしまいました)

ここにも日本の宗教について書かれています。

石牟礼道子さんが2018.2.10他界されました。


『水俣病が起こったとき、日本の宗教界は沈黙しました。宗教界が力を合わせて患者と家族の魂に呼びかけることはなかった。東日本大震災のあとにも、遺族が亡き人を渇望していた時、例外的な宗教者を別にすれば、宗教界は死者をめぐって語ることはありませんでした。


水俣病の少年少女をジャーナリズムは「植物的な生き方」と書きます。

少女の母親は

「木や草と同じになって生きとるなら、それほどの魂なら、ゆりにも魂の無かはずはなか」

と語ります。

この感性は、仏教の涅槃経(ねはんぎょう)の教えと同じです。草木だけでなく大地にふれる全てのものに仏の働きが生きている、というものです。


また少年の祖父は語ります。

「孫は言葉を奪われている。しかしその分だけ魂が深い。賢者の魂が育っている。」


少年を残して先に逝かなければならない。

祖父は海から拾った石に焼酎をかけ「魂が入った。これがお前の守り神だ」と少年に言います。

ここに信仰の原点があります。』


患者のやむことの無い懊悩と悲哀から深い知性と理性、情愛、祈り、その後から許しへと変化する心。

これを著者は「人の悲しみ苦しみが深くなるほど仏が近くなり支えてくれる力が現れる」からだと説きます。


少女の母親と少年の祖父は僧侶の法話や仏教の経典にふれることなく、仏の教えを自ら悟っています。

誰にも支えられずこの思いに到達するまでどんなに辛かったろうと察せられます。


彼らには、宗教が生まれる原始の姿があるでしょうか。


寺院とりわけ古寺名刹は権威を守り僧侶による僧侶の為の閉ざされた場所になっている様に見えます。

ご近所の古来からある小さな寺も法要の為だけに存在している様にしか思えません。

事実、実家は近所の寺と故郷の父の墓がある菩提寺の檀家で年会費や盆暮にお布施を供します。


僧侶は宗派の開祖(道元・日蓮・親鸞…)の思想を著した著作、また経典(般若経・法華経・阿弥陀経…)を知る人々ですから、生きるのが辛い人の心にうったえる言葉を現代生活に則する様に変えて提言出来ます。

広く世の中に広まれば良いと思います。


昔実家に居た頃の事、月命日に来られる住職さんが仏壇の前で御経を唱えられるのですが、その屏風のように折り畳まれた経本がほしいと思った変わった人間でした。

本屋さんで手軽に経本を手に取ることはできません。


それぞれの宗派を熱心に信仰する事は無くとも人心に訴えるものがあれば信頼されます。

葬式仏教からの脱却は望ましい事です。

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