遠藤周作『深い河』と三島由紀夫『豊饒の海』とインド

『深い河』(遠藤周作著)はインドへのパッケージツアーで一緒になる四人の客と添乗員の話です。また神父になり損なう青年が、あたかもキリストと同じ人生を辿るがごとき話でもあります。


彼らがインドに来る理由となる、訳あり人生を描きます。

その一人に会社員の磯辺がいます。

彼の妻が病を得て死の間際に

「私必ず生まれ変わるから…探して」

と言葉を遺して亡くなります。

ここで私は不意に三島由紀夫の『豊饒の海』を思い出します。

第一部『春の雪』のなかで二十歳の松枝清顕が

「又会うぜ、きっと会う 滝の下で」

と言い残して死んでしまう場面が重なります。


あとがきを読めば、やはり遠藤周作と三島由紀夫は同世代の同人誌仲間として熱心な意見交換をしていた事が分かります。


三島由紀夫の『豊饒の海』は1965年から連載を始め1970年11月に書き終えます。その後自衛隊一ヶ谷駐屯地に於て割腹自殺を遂げます。

センセーショナルな事件ですが『豊饒の海』第二部『奔馬』が私の中で重なります。

三島由紀夫の天才ゆえの狂気を『豊饒の海』から感じます。

他の価値観に寛容になれない純粋すぎる若者ばかりが登場し、呆気なくポッキリ折れる有り様が書かれ、私の現実的な単純脳では、理解するのに難儀します。


自己陶酔のうちに自らの美学の中で人生を終えた天才作家と思えます。


遠藤周作の『深い河』は1993年に発表され

明らかに『豊饒の海』を意識して書かれたでしょう。

キリスト教と仏教の違いはあれど「宗教」と「輪廻転生」が共通するテーマです。ガンジス川の沐浴と葬送について書かれているのも同じです。


明らかに『豊饒の海』とは対称的。

俗世を詩的に表す事なく現実的で、宗教についても抽象的な記述は無く、胸にスッと収まり共感します。とても読みやすい一冊です。


インドの衛生状態の悪さがこの二作品共に顕著ですが、いくらなんでも今では随分良くなっているだろうと思っていました。


ところが、過日の放送で、貧民街の住宅にはトイレが無く、野外で済ましているというのです。驚きです。

そこでやっと共同のトイレを作ったと首相が発表していました。しかしトイレで用を足す習慣がない子供たちなので、躾をするのが大変だと解説します。


そうだとすると、ガンジス川での様子も変わらないのでしょうか。

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