佐野眞一著『あんぽん』孫正義氏を力づけた本『竜馬がゆく』
『あんぽん』は
『「あんぽん」と揶揄された安本正義が孫正義になるまでの軌跡のドキュメンタリー』です。
孫氏が劣悪な環境で育ちながらも独立独歩で苦労しながら成功への道を進んだ。という美談ではありませんが、子供の育ちに大切なものを教えられます。
著者が親族にインタビューし、その具体的な劣悪極貧生活を書きます。
その親族への感想は
「圧倒的な破壊力と猥雑な画面を思い出す。」「言葉遣いは品がない。人を傷つけることも容赦しないという意味では下賎である。」と容赦ない言葉で彼等を扱き下ろします。
孫正義氏をも「うさんくさい」「いかがわしい」という批判的な言葉で何度も表現します。
これに抗議せず、週刊誌に連載を続けるのを受け入れた彼の度量の大きさには驚かされます。
そこには、著者の佐野氏と孫正義氏との交流が上手く行われ、信頼関係が確立していたからです。この事は、取材に同行したスタッフが解説で書いています。
「祖母は、本当に愛情豊かで、みんなの事が心配で心配で仕方ない人でした。親父の姉弟が商売関係でもめると、泣きながら姉弟の間をおさめる。その溢れんばかりの愛情が、皆を一生懸命仕事をしようという気にさせたんだと思うんです。」
ことわざに『栴檀は双葉より芳し』という言葉があります。
彼の父親は息子(正義)を幼い頃からよく観察し、性格や頭脳明晰さを感じ取っていました。
「小さな欲望には走るな、金の為に人生を過ごしちゃいかん。」「おまえは天下国家といった次元でものを考えてほしい。」と息子に言い続けていました。
孫氏は昭和三十二(1957)年に生まれ、この高度成長期に極貧生活を体験しながらも、祖母や父親から愛情深く育てられてきました。
彼らのお陰で「人生は這い上がらなきゃいけない、と激励してくれている様な気がします。」と孫氏は述べています。
“子供の育ち”に大切なものは古今東西、不変だと確信します。
もっとも「極貧生活はごく短期間だったので、彼もぐれずに育つ事ができた。」と著者は書いています。
孫正義氏の人生で大事な時に、やはり本が力を貸していました。
アメリカ留学の時、司馬遼太郎著『竜馬がゆく』を読みます。
「すごく影響を受けました。竜馬も脱藩して江戸に出ました。お家断絶になるような罪です。僕もアメリカに行ってしまえば家族が絶滅してしまうかもしれない。でも行かなければ天下国家の為に役立つ事業がやれなくなる。そういう志はあったのです。」
とても若者らしい清清しさが伝わります。
その後、会社を始めたばかりで子供も生まれた頃、肝炎で余命五年と告げられ長期入院します。
とんでもなく落ち込み、どん底の時『竜馬がゆく』をもう一度読みます。
「龍馬だって三十三で死んだ。だけど最後の五年ぐらいで人生で最も大きな仕事をした、っていうことに、はたと気づいたんです。余命五年は短いけれど、その五年でそれなりのことが出来るかもしれない、と思い直すと気持ちが晴れて前向きに生きようと思えたんです。」
「すると先生から『孫さんみたいに明るい患者さんは見たことありません』と言われる様になりました。」
結局、当時最先端医療で奇蹟的に一命をとりとめます。
「それ以降、いつ死んでもいい覚悟で事業を拡大します。こうした執念には素直に大したものだと私達は感服するだろう。」
著者は安本末子著『にあんちゃん』の本を彼にプレゼントしています。昭和三十三年に出版され、大ベストセラーとなります。
辛口な著者でも、彼の人との関わり方については手放しで称賛しています。
「孫は三顧の礼をもってソフトバンクの社長に迎えた大森に最大限の礼を尽くしたことになる。これではどちらが年上かわからない。」と二回り以上も年上の大森氏と比較しています。
また、元アスキー社長の西和彦氏の父上が亡くなったとき、孫氏は葬儀に神戸まで出掛け「敵の父親の葬儀にわざわざ来るなんてあり得ない。」と西さんを感激させました。
在日嫌いの人々による誹謗中傷・罵詈雑言が溢れ、差別と偏見にさらされている現状を著者は、「日本は退行・幼稚化している。」
「この国は、孫正義少年を陰で“あんぽん”と呼んで白眼視した時代と何も変わっていない。」と嘆きます。
それにも関わらず
「孫は自分が生まれ育った日本の将来を掛け値なしに心配している。」
「彼はつんのめるように未来に向かって疾走している」
「あえて茨の道を行くことが、僕に与えられた使命なんです。と孫は繰返し語っている。」
これ等の言葉は、歴史上に華々しく活躍し名を残した風雲児の様に錯覚します。
本には、東日本大震災への義援金の事、スティーブ・ジョブズ、恩人の元シャープ副社長の佐々木正…そうそうたる人物が名を連ね、彼と関係している事が書かれています。
その大恩人の佐々木正氏について書かれた本が出版されました。
『ロケット・ササキ』大西康之著
技術開発の成功者としての「大河ドラマ」です。(読書評より)
そこには、やはりスティーブ・ジョブズ、孫正義、江崎玲於奈の名前が登場します。
やはり見逃せません。
こうして次々読みたい本が積もっていきます。
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