中沢新一著『大阪アースダイバー』と吉本新喜劇

今に至る大阪人の言語コミュニケーション、船場の商人哲学、吉本興業の掛け合い漫才…等が成立するまでを、著者の専門である人類学、宗教、哲学の観点から、自由闊達に発言されています。


“文化人類学”をゆる~く伸ばして楽しく面白く読める様に工夫されています。


膨大な文献資料を読み込まれていて、そんじょそこらの大阪人より大阪人スピリッツに精通する、という自信が感じられます。


東京の文化ベースは狩猟で、血や死への抵抗がありませんが、大阪の文化ベースは稲作である為、後に、西日本では、血や死に対して強い不浄観が育ち差別の風習が生まれました。


死に関わる葬送儀礼を行う人々のなかでも、『柿本集団の「人麻呂」たちの挽歌は素晴らしく、彼らから言語芸能が発達し』

歌だけでなく踊りも関わることになります。


エッ!柿本人麻呂は、一人の人物ではなかった⁉

知らなかった~。

本を読むと、思わぬ事を教えられます。

…………

参考までに調べてみますと、

“柿本人麻呂は実在の一人でなく、

人麻呂集団がいたのだという説は根強い。”

とあります。

…………


死の周辺に芸能が発達し、埋葬儀礼からお能・歌舞伎も生まれます。


大阪では、かつて墓地や刑場があった千日前には、演芸の繁華街から吉本興業のお笑い芸人へと一貫した思想が流れています。


漫才を著者ならではの視点で思考し

「横山やすしが早世し、松本人志はテレビの解毒作用にやられて息も絶え絶え…」

と残念がり

「若手お笑い芸人は繁茂していても調子が良いばかりで、しびれはいっこうにやってこない」

と手厳しい。


単純な私には、今の漫才も新喜劇もお気にいりです。漫才コンビ中川家は、彼らと同じ沿線に私もかつて住んでいたので、“駅員のアナウンス”の物真似にはすっかり笑わせられます。新喜劇のスッチーや『あさが来た』に出演した辻本茂雄さんのシゲ爺も楽しみです。


まだまだ山ほど楽しい話はありますが、書ききれません。

その中で、もうひとつ!著者がエロチックに取りあげた地形と建築物があります。


東京では、谷中村にあった谷中五重塔。大阪では、新世界の通天閣。

どちらも「窪地に塔が建てられ、男根である塔のまわりを、湿気を帯びた土地が包み込む形になる」と言います。

…成る程、女からこういう想像力は働かない!


大阪と江戸の商人の話も。

江戸の商人は幕府の権力と「縁」をこしらえ一体化してしまった。

大阪の商人は、幕府の威光に、おいそれとは服従しなかった。

「大阪の社会が持つグニャグニャしたホニョホニョしたやさしさのおかげ」と書かれています。

この部分が唯一学者らしく無い表現で、笑わせられます。


船場商人の話も面白い。


この本を読み進むほど、なるほど『大阪のおばちゃん』が自信を持って町を闊歩するのも頷けますが、土着の人間はもう少ないでしょうか。

「土地の記憶として古代から受け継いできた柔軟性や多様性、包容力が、東京や大阪だけでなく日本全体に欠けつつある」


上の様な発言をされているのは、

この本を上梓するにあたって、協力を得た釈徹宗さん(宗教学者・僧)です。


奥付を見れば初版から4か月で、はや6刷り。人気があるのも頷けます。


また大阪と縁のある話の本が出版されました。上方落語の祖とされる米沢彦八を描いた小説、木下昌輝著『天下一の軽口男』です。


単行本は大きく値段も高いので買いたく無いのですが、本屋さんで立ち読みして書き出しが面白いと、すぐ手に入れたくなります。

文庫化されるまで待てません!

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