映画『スリーパーズ』辛辣なウィットと少年を救った本『モンテ・クリスト伯』青い鳥文庫『岩窟王』が読みやすい
1996年、映画「スリーパーズ」が公開されました。同名小説がベストセラーになっています。
「スリーパー」とは9ヵ月以上少年院に収容された者を指すスラング、と解説にあります。
男達の友情と復讐の感動的な物語です。
この映画の中で、本が唯一一冊だけ登場します。また、辛辣なウィットも散りばめられ溜飲を下げます。
描かれた男の友情は天下一品!映画ならではの気持ちが高ぶる表現力に感心するばかりです。
1960年代の貧しい町ヘルズ・キッチンがあります。
ヘルズ・キッチン(地獄の台所)はニューヨークにある地域で実在します。貧しいアイルランド系アメリカ人が肉体労働者として住み着き、20世紀初頭からギャングが台頭します。
すさんだ町でありながらも、秩序は守られ住民への犯罪は御法度。ここで育つ子供達は安全に守られていました。
仲良し4人組の少年達は、家庭に問題を抱えながらも、少年らしくやんちゃをしながら友情と共に強いきずなを結んでいきます。
ある日、いき過ぎた いたずらが思わぬ大事故を起こし、彼らは少年院に収容されてしまいます。
そこでは看守の暴力と性的虐待が少年達を待ち受けていました。彼らは心に深い傷を負います。
4人の少年の中で二人、ロレンツォとマイケルは少年院で『モンテ・クリスト伯』の本を読みます。
その本には、無実の罪で牢獄に閉じ込められた主人公が脱獄し巨万の富を手に入れ、自分を落とし入れた男達に完璧な復讐を遂げる内容が書かれています。
このストーリーに二人は「自分の為に書かれた本だ!」と深く共感し、貪り読んだに違いありません。
自身の不遇な人生と心身を痛め付けた看守への憎しみと復讐心をストーリーに重ね、本の中で心を開放し慰められていたはずです。
出所後ロレンツォは新聞記者に、マイケルは検事の道に進みます。
他の二人ジョンとトミーはギャングに身を落としてしまいます。
ここで私は、4人の人生を二分してしまうほど本の存在は大きい、と思っていました。
ジョンとトミーは自分をはずかしめた看守の一人を町で見かけ、ためらう事無く射殺します。
この二人を無実にすべく同時に看守の虐待を暴くべく、友人のロレンツォとマイケルは立ち上がります。
その時の二人の会話です。
マイケルがロレンツォに言います。
「モンテ・クリスト伯を読んでるか?」
ロレンツォは
「いやもう10年読んでいない」
マイケル
「僕は毎晩拾い読みしている。『復讐』って言葉をね。甘い究極の復讐…」
と言うのです。
そして、その時が来たのだ!と決意します。
裁判のシナリオを綿密に作成し秘密裏に動き出します。ここで町の人々との子供の頃からの繋がりが、彼らを援護します。
マイケルは4人の看守達の行方をかねてより追い続けていました。
そのうちの一人が福祉課の職員になっている事、また一人は麻薬課の刑事になり売人に賄賂と薬を要求、自身もコカイン中毒になっている事を突き止めます。
その汚職警官の証拠となる写真と拳銃を、ロレンツォは評判の良い刑事に渡します。
受け取った刑事が言います。
「デカになる気はないか?」
ロレンツォはすかさず
「正義を捨てて?」と返します。
この小気味良いウィットがたまりません!
日本には無いスマートなやり取りです。
ちなみに日本にも、盗み▪飲酒運転▪隠し撮り…と、正義を捨てた警察官がいます。
最終的に4人への復讐を果たしますが、そのうちの一人への復讐は、町のボスが「汚い仕事だから俺がやる」と引き受けます。
町の人々との絆、固く結ばれた友情は心を打ちます。
最後のシーンに泣かされ、たとえ復讐を果たしても少年院で受けたトラウマはマイケルの行く末に影を落としたままになるのだろう、と観るものに思わせます。
マイケルはブラッド・ピット、神父にロバート・デ・ニーロ、冴えない弁護士にダスティン・ホフマン、と豪華メンバーです。
私の永久保存版です。
本『モンテ・クリスト伯』に興味を持ちましたが、フランスの古典名作長編作品。その上登場人物は多数。名前がカタカナなら私の頭じゃ覚えられない。全く読む気はしません。
ところが、児童文学として出版された講談社 青い鳥文庫『岩窟王』が私に丁度良かった。
すぐ投げ出す私でも、とたんにのめり込みます!
ストーリーは一冊にまとめられていますが、根気の無い私でも興味惹かれる様、とても上手く書かれています。
おすすめです。
次に読む岩波少年文庫『モンテ・クリスト伯』の上下巻は、『岩窟王』でワクワクするストーリーが頭に入っているので、とても読みやすくなります。
最後、大人向き岩波文庫『モンテ・クリスト伯』全7巻には、手が伸びません。
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