心がふるさとに帰る本
時に、人から自慢話を聞かされ嫉妬心を持ったり、人と比べてはふさぎ込んだり…、心が刺々しくなると、知らず知らず家族へも辛く当たる事になります。
家族にとっては、はた迷惑な話です。
そんなとき、故郷を思い出す本があると、助けになります。
読んでいるうちに、心が故郷に帰り、冷々とした気持ちが温まります。
…………
両親のふるさとは広島と愛媛に挟まれた瀬戸内海にある島の1つです。結婚して、二人は大阪に出てきました。
私が小学生の間、毎年夏休みには島に帰ります。
朝早く家を出て、ワクワクしながら汽車とフェリーに乗り、1日がかりです。
島では、祖父の魚釣り船に乗せてもらったり、父の実家ではみかん山が眺められ、今思ってもキラキラと輝く心の宝石です。
しかし中学生になってからは、とんと帰る事は無くなり、思い出す事もありませんでした。
結婚して子供が出来ると、忙しさで尚更です。
歳を重ねて50歳を過ぎると、島に父の墓がある事もあって、何度も思い出す様になっていました。
墓参りを兼ねて、年に一度夫と共に、島を訪れる様になります。
しかし、島が昔のままの姿で残っているはずもなく、そうかと言って寂しい訳でもありません。
島に居る事が嬉しいのです。島の宿に一泊した朝の風景も穏やかで嬉しい。
そして父母の親族の家がまだあるのか、うろ覚えの道を辿りながら島を巡り、帰路に着きます。
『村上海賊の娘』の小説がヒットしました。
ご多分に漏れず母方が村上姓です。この地域には「村上」の名前が多く、水軍の末裔と思われる人々が沢山いらっしゃいます。
これを書いた和田竜氏は、大阪生まれの、広島育ちです。心で温めていたふるさとを本にして、彼の心は満たされたでしょう。
私はこの本を読む時、思い出の中にある広島や愛媛、大阪を目に浮かべ、心はふるさとに帰っています。
私は結婚して神戸に住みますが、生まれも育ちも大阪ですので、時々「大阪禁断症状」が出て気持ちが塞ぎます。
そんなとき、大阪が舞台の小説が読みたくなります。
(宮本輝『流転の海』・山崎豊子『花のれん』・坂井希久子『泣いたらアカンで通天閣』・万城目学『プリンセス・トヨトミ』・中沢新一『大阪アースダイバー』他)
坂井希久子著
『泣いたらアカンで通天閣』
大阪のミナミが舞台です。そのくせ実は行ったことがなく、通天閣にも登ったことがないと言う御粗末さです。
でもこの“大阪色の濃さ”は、知ってるおばちゃんに「ガンバリや!」 と言われている様で嬉しい。
そんな中にも 竹内まりや歌う『マンハッタン・キス』を彷彿とさせる場面もあり …さしずめ通天閣が摩天楼と言ったところでしょうか。
宮本輝著『流転の海』も大阪が舞台。
私が子供の頃、夏休みになると帰省していた両親の故郷や、これ迄の私の来し方と関わりのある言葉が多数登場します。
私のために書いてくれている。と思える本は人生を支えてくれます。
先日、大阪の中之島が舞台になった『鍵の掛かった男』が出版され、早速買い求めました。
三十数年前、中之島にある企業で働いていましたので、本の中のかつて馴染んできた風景が、私の中に甦ります。
その様にして、本の中に大阪弁、広島弁、各地の風景や地名を求め、かつて見た光景を思い出しては、本のストーリーと重ね合わせながらページをめくります。
そうして、私の心はふるさとで満たされるのです。
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