持つべき友は心友

第13話 新しいクラスメイト

 なんで、こんなことに……。

 そうとしか言い表せない。

 たしかに望みどおりのになったけど、これでは前と同じくらい、いや、前よりも疲れる。

 僕は、ちらりと後ろを振り返った。

「綺麗な金髪だよねー。いいなあ。羨ましい」

「瞳も綺麗だよ。あおくてステキ。ねえ、アリーチェって、どこの国の人なの?」

 盛大な嘆息が口から もれる。

「両親はイタリア人ですの」

 へえ、そうなんだーって、なんで日本にいる死神がイタリア人なんだよっ。

「かっこいいーっ。じゃあ、イタリア語もできるんだ?」

「それが、困ったことに日本語しか教わってきませんでしたもので、語学に関しては ご期待に添えませんわ」

 嘘つけ、こないだイタリア語らしき言語で僕を罵倒してきたじゃないか。意味は 解らなくても、声色で判るぞ!

 僕はクラスの女子たちと談笑しているアリーチェの様子を横目で見ながら、ひときわ大きな嘆息をついた。

「……おい、有巣」

 巧の声に振り向く。

「本当に、本当なのか」

 巧にしては、十分に配慮された発言だ。

 僕は机に片肘をついて、疲れきった視線を上げる。

「見ただろ、あれ」

 数日前。

 鍵をかけた教室内に突如として現れたアリーチェは、巧、煕人、泉の前で、その正体を明かしたのだ。

「私は死者の守り人。あるべき場所に彼らを導く、庇護の者ですわ」

 要するに、死神ね。

「し、しにがみ~⁉」

 三人は異口同音に叫んだ。

「その呼び名は間違ってはおりませんが、私としては好ましくありませんわね」

 すまし顔で言ったアリーチェを、三人は疑いの目で見やる。

「とにかく、そこの粗忽者が誤って死んでしまったせいで、その後始末をしていますの。お三方には、今後のご協力を願いたいのですけれど」

「は?」

 おいおいおいおい!

 説明を極限まで削るなーっ!

「有巣くん、死んじゃったの⁉」

 泉が両手を握りしめている。

「えっと……うん、実は」

 僕は一から説明した。

 電車のなかで起きたことを、順番に。

 そして、病院で目が覚めたとき、アリーチェから受けた説明を、順当に。

 それから、いま僕がおかれている状況について。

 アリーチェの助手としてこなした仕事についても語った。

 語れば語るほど、三人の顔は困惑に曇っていく。

 やめろぉ、その憐憫の目は!

「……正直言って、信じられないな」

 現実主義者の煕人が言った。

「死ぬべきでない有巣が死んで、甦って、死神の助手になっただなんて。話としては面白いけど」

「そ、そうだよな。おれも信じられない」

 巧が頷く。

 しかし、泉は迷っているみたいだった。

「でも、こんな嘘を有巣くんがつく必要はないよね」

勿論、嘘などではない。

嘘だったら、どんなにか良いだろう。

「仕方ありませんわね。目にしなければ信じられないとあらば」

待て待て待て!

いつのまに幼女の姿になったんだ!?

「えっと……アリーチェさん」

3人とも唖然としている。

当然だろう。さっきまで、僕らと同じ年頃の少女だった者が、ちょっと目を離したあいだに10歳ほど若返っているのだ。

「今度は大人の姿になりますわ。それで信じられて?」

だから、待てって!

アリーチェが指をならす。

瞬きのあいだに、彼女は成熟した女性の姿に変わっていた。

「鎌もお見せしたほうが宜しいかしら」

すらりとした肢体を傾け、艶然と微笑む。しかし、僕には悪魔の笑みに見えた。

右手の人差し指と中指を伸ばし、軽く振る。シャッと音が空気を切って、指先が長く細い鎌となった。その刃を左手で撫でる。

慥かに思っていた。

アリーチェが死神の証を皆の前で見せてくれれば、僕の現状を信じてもらえるだろうと。しかし、いざ目前で繰り広げられてみると、とんでもなく常軌を逸している。

案の定、煕人が頬をぺちぺちと叩きながら、

「まさか、そんな」

呟いた。




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