願いはきっと叶うはず 

辰 勇樹

プロローグ

 あれから三か月が経った。でも私の中では、一日も経っていない。それほど、彼を失うことが信じられなくてショックだったのだ。

「マリ、どうしたの、そんなにぼーっとして。何かあったの?」

 友人の平井ミエが私に話しかける。どうやら心配してくれたらしい。だが、ちっともうれしくなかった。彼女は私のことをあまり知らない。というより、彼女が「友達になろう」と言った日以降、彼女と話す機会は日に日に薄れていったため、あまりお互いのことがわからないままで、本当に「友達」と言っていいものなのかもわからなかった。

「ほっといてよ、私のこと何も知らないくせに。今更友達のフリするのやめてくんない? ミエは関わらないでよ」

 沈黙を破り、私は彼女を静かな声で突き放した。この言葉に彼女は目元に涙さえも浮かべ、それでもなお私に心配の言葉をかけた。

「偽善者が…」

 この私の言葉に、どれほど傷ついたことだろう。このときの私は、なぜ彼女が私と距離を置いていたのかなんて、どうでもよかった。そう、…。


 三か月前の今日。

「はい、臨時ニュースです。たった今、長野のスキー場行きツアーバスが、湖に転落したとの情報が入りました。この事故による乗客の行方はまだわからない状態とのことです。地元警察からは、『たまたま近くにいた警察官が即座に通報したため、救出はできると思われます』とのこと。また情報が入りましたらお知らせします」

 __え、何? どこ、そこ。かわいそうに……あれ。彼はどこのツアーに行ったんだっけ。

 私は最初、関係ないことかと思いそのままテレビを消そうとした。だが、頭に昨日の会話が頭をよぎった。


「どこのツアーいくんだっけ?」

 __長野のスキー場だよ。マリも行く?

「行かないよ、ふふ。まあ嘘だってわかってるけどね。気を付けてね」

 __おーう。


 汗が全身から噴き出した。湖に転落? そんなことって、こんなに簡単に起きるものなの?

 私は携帯に二通のメールが入っていたことに気付く。それを私はすぐに確認した。


 マリ、やばいかも。

 バスがジャックされた。

 男が三人で、女が一人っぽい。このままだとまずい。


 二通目のメールも確認する。


 みずうみおちたまりあいしてるやくそくまもれな


 風呂に入っていて気付かなかった。風呂なんかに入ってなければまだ助かったかもしれない。いつもこうやって自分を悔むことしかできない。

「くそっ…」

 二通目のメール。これは頭がおかしくなりそうだ。おそらくこの言葉の後にくるのは、『まもれなかったごめん』に違いない。彼は最後まで、私に危機を教えてくれた。でも私はそれに気づけなかった。情けなくて笑える。

「あ……ああ……あああ。あああああああああああああああああ!」


 この夜、一つの命が失われ、一つの生活をも狂わせたのだった。



 





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願いはきっと叶うはず  辰 勇樹 @clow

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