家に帰るとゴーレムが酔ってました

クレイの主人を探すと宣言してから一週間。

風邪も数日で完治し、僕達は特に何の行動も起こさずにいつも通り過ごしていた。

「探すって言っても、よくよく考えたらどうやって探せばいいのか全く分からん!」

「ボクはてっきりその辺の当てがあるから言い出したのかと」

「いやあ、実際の所九割九分ノリだったからね」

「取り消しても良いんですよ?怒りませんよ?」

「それは無いから安心して」

行動を起こさないとはいえ、僕もそれっぽい単語を検索するくらいの事はしている。が、『現代 ゴーレム』で検索をかけても出てくるのはゲームの攻略サイトや、精々がどこか外国の信仰に関する記事くらいの物だった。期待をしていた訳ではないが、改めて取っ掛かりの無さに若干の絶望を覚える。

石川から「クレイを連れて泊まりに来ないか」と誘われたのは、そんな折の事だった。


「本当に大丈夫でしょうか?」

「一応毛布にくるまる感じで入って貰うし、万一腕とか取れても粘土は持っていくから大丈夫だと思うけど」

「いえ、ボクの輸送方法の話ではなく……いえそれも心配ではありますが」

「ああ、石川は一人暮らしだしどうせ飯も出しやしないから迷惑とか思う必要は無いよ」

「いえあの、それも心配でしたがそうではなくてですね……協力者をもう1人呼ぶという話の方で」

「ああ……」


もう一人の協力者。提案したのは僕だった。

いくら検索すれば大体の情報が手に入るとはいえ、ファンタジー的な魔術の知識は……もしくは過去に存在したという錬金術の知識は複雑怪奇で量も多い。超能力好きな僕とロボ好きな石川が今から勉強するには時間も手間もかかる。なので、手っ取り早く『専門家』を呼んでしまおうという考えに至ったのだ。


「うん、まあ、僕以上に友達のいない変な奴ではあるけど、信用してくれていいと思う……多分」

「すごく不安なんですが」

「漏らしたりは絶対しない奴だよ。ただ、好奇心が人一倍というかなんというか」

「すごく不安なんですが!」

大丈夫大丈夫と苦笑いでごまかし、クレイの入った毛布を丸めてキャリーケースに入れる。色々クレイを運ぶ方法を考えた中で、一番安全そうなのがこれだった。

「こういうのって小さい頃は憧れたもんだけど、外が見えない事を考えると割と怖いな」

「そうですか?運ぶのが千秋さんなら大丈夫ですよ」

「僕を信頼してくれるのは嬉しいけど、駅ですれ違う人々はそんなにマナー良くないから……ぶつからないようには気を付けるよ」

自分の荷物をスポーツバッグにしまい、忘れ物が無いか確認して部屋を出る。クレイの初めての外出に、緊張しているのはむしろ僕の方だった。


休日の、朝に近い微妙な時間。電車には案外人は少なく、同じ車両に一人二人乗っているかというくらいだった。キャリーケースを足の間に挟むようにして、スポーツバッグを隣の席に置いて座る。窓の外を見慣れた景色が流れていく。

(クレイに見せてやりたいけど)

車両に一人ならともかく、今ここでキャリーケースを開ける訳にはいかない。スポーツバッグの類ならば少し開けて隙間を作るという事もできただろうかと考えながら、無意識にキャリーケースを撫でていた。クレイは何を考えて中に納まっているだろう。


石川は迎えに来るなんて気の利いた事をする奴ではないので、過去数回の記憶を頼りにアパートへ向かう。黄色い点字ブロックにキャリーケースがひっかからないように気を付けながら、二回程来た道を戻った。

「おじゃましゃーす」

迷った事は別に石川のせいではないのだが、途中何度か助けを求めたにも関わらず黙殺された事に少なからず苛ついていたので、インターホンを鳴らさずにいきなり扉を開けた。しかし返事は無い。

「石川ー?」

靴を脱ぎ、玄関でクレイを出してやる(キャリーケースを中に入れるために足を拭くのが面倒なのだ)。そこらに置かれたロボットのフィギュアをしげしげと眺めているクレイを引き連れて、僕は部屋の中へ踏み込んだ。

「寝ているのでしょうか」

「……いや、あれは寝ているとは言わない。伸びてるんだ」

指さした先には、ベッドから上半身がずり落ちた状態でいびきをかく石川がいた。横で崩れている漫画の山を見ると、大方徹夜したまま寝落ちたのだろう。

「起こしますか?」

「んー」

訝し気な顔のクレイをよそに、僕は石川を起こさないように仰向けにベッドの上に戻す。彼を寝かせておくと思ったのか、静かに荷ほどきを始めたクレイを後ろから捕まえ、頭の高さまで持ち上げる。

「あの、千秋さん?」

そのままクレイを石川の腹の上まで運び、手を離した。

「ひゃぁ?!」

「ぐぁっ?!」

もんどりうって転げ落ちる石川に巻き込まれたクレイを救出する。足元で腹を押さえて唸っている彼に、朝に相応しくレモンのように爽やかに声をかけた。

「おはよう石川」

「おま……お前っ……ほんとマジ腹は……」

わたわたしているクレイを置いて、適当に荷ほどきをする。ここに泊まりに来たのは初めてはないので、戸惑う事はない。

しばらくして落ち着いたのか、石川が漫画の片づけを始めた。手持ち無沙汰になったクレイも手伝おうと漫画を拾っていたが、ベッド下の漫画を拾いに行こうとしたところで無言の石川に止められた。

「ボクもお手伝いしますよ?」

「いや、片づけは自分でやるから大丈夫……ニヤつくのをやめろ麻野!」

「いやぁ……今時ベタすぎでしょベッドの下とか」

「違えし!客に片付けさせるわけにいかねーだろが!」

「いえ、泊まらせていただくのですからむしろ何かさせてください」

「僕も片付け手伝おうかなー」

「お前分かって言ってるだろ!待てクレイ本当にいいから!」

クレイが手伝いを強行しようとした時、僕が鳴らさなかったチャイムが鳴った。

「来たかな?」

「なんか別のかもしれねえし俺が出るよ。……見るんじゃねえぞ?」

信用できないと言いたげな表情の石川を見送ると、クレイはベッドによじ登り、拾った漫画を読み始めた。

「で、実際のところどうなの」

「巨乳モノでした」

「うわベタだなー」


石川はひょろ長い青年を連れて戻ってきた。天然パーマの髪が首を覆い、度の強い眼鏡をかけた姿は白衣を着せればまさにマッドサイエンティストといった所だ。友人の坂下優、重度の魔法・魔術マニアである。

坂下がクレイを見て固まったのを見て、僕達は彼に『相談したいことがある』としか言っていなかったのを思い出した。

「あ、坂下これは……」

彼は眼鏡を押し上げ、前のめりになってクレイをしげしげと見つめる。クレイは気恥ずかしげにもじもじした。

「……ゴーレムか」

「分かるの?」

「ああ。見た事があるんでね」

「「はあ?!」」

坂下は適当な所に自分のリュックを下ろすと、クレイの前にしゃがみ込む。頭の中が疑問符でいっぱいの俺と石川をよそに、坂下はクレイの観察を始めた。

「これは君達が作ったのか?」

「まさか。麻野が拾って来たんだ」

「拾……?」

「いや、それより坂下!見たことがあるってどういうことだ?!」

「どうもなにもそのままだ」

「状況と理由を説明しろってんだよ!」

「俺はそれよりこのゴーレムについて詳しく知りたいのだが」

「二人とも一回落ち着け」

坂下の肩を掴んで揺する石川と、それでもなお視線をクレイから離さない坂下を力づくで引き離す。その隙にクレイはベッドを飛び降り、僕の背中に隠れた。

「説明するからじろじろ見るのやめてやってくれ。怖がってる」

「む」

「あと石川は茶を出せ」

「俺はウエイターかよ」

「冷蔵庫勝手に漁るぞ?」

しぶしぶ取りに行った石川をよそに坂下を座らせ、クレイに関する事をかいつまんで話す。彼は終始無言だったので話を聞いているか心配になったが、茶を出されたのにも気づかない所を見ると、単に集中しているだけのようだ。

「概略は理解した。つまりクレイ君は現在自身に関する記憶の大半を失い、麻野君の家に居候していた所を石川君にセクハラされたと」

真顔でそう言う坂下に大体合ってると返すと、石川から抗議の声が上がった。しかし坂下は意に介さず自分の話を続ける。

「俺が見たゴーレムは兄が作った物だったのだが、もっとロボットに近い形と挙動をしていたし、動きもぎこちなかった。兄が未熟だったにしても、ここまで人間的なゴーレムを作るのは並大抵の魔術では無いだろう」

彼は成績の話でもするかのように淡々と話す。が、その中に重要な情報が含まれているのを僕は聞き逃さなかった。

「ちょっと待って……作ったの?お兄さんが?」

「ああ。元々俺は兄に影響されて魔術に興味を持ってな、だが兄はいわゆる本物の魔術師なんだ。兄は大学で覚えたと言っていたが、人類学や民俗学の研究室には『そういう場所』がそれなりにあるらしい」

「じゃあ、うちの大学でそれ系を片っ端から当たってけばなんか分かるか?」

そう提案したのは石川だ。しかし坂下は首を振る。

「うちの大学にそんなのがあれば俺が入っている」

「というか、坂下のお兄さんに直接コンタクト取った方が早いんじゃない?」

こちらは僕の提案だ。坂下は今度は首は振らず、代わりに考え込むような素振りを見せた。

「クレイ君の作り主を探したいという話だったな。……連絡は取ってみるが、そう簡単に見つかるとは思えん」

そう言って坂下はクレイに目をやる。一連のやり取りの中でクレイは坂下への警戒心を多少解いたのか、今は胡座をかいた僕の足の上に収まっていた。

「まあ、とっかかりが見つかっただけでも上々だよ。坂下に声をかけてよかった。僕ら二人じゃ一生手掛かりすら見つからなかったかもしれないし」

「そうだな。最悪お前の兄ちゃんが駄目でも、そういう研究室に殴り込みをかければいい話だ」

まだ手掛かりも何も見つかった訳ではないが、期せずして大きな収穫があった事に僕も石川も喜びを隠せなかった。二人とも魔術に対する驚きなどは、クレイと出会った瞬間に置き去りにしている。しかし、クレイと坂下の顔は渋いままであった。

「どうしたの、クレイ」

「本当の障害は情報の不足でも調査の手段でも無いという事だ」

クレイの内心を代弁するかのように、坂下が口を開く。クレイに視線を向けても、所在無さげに俯くだけだ。

「どういう意味だ?」

「多少なりともゴーレムの知識を、つまりこの世界の現在のゴーレムの知識を持っていれば分かる事なんだが、つまりだな……」

坂下は言いよどみ、クレイに目を向ける。クレイは俯いた状態から動く事はせず、その反応をどう受け取ったのか坂下は息を吐いて言葉を続けた。

「……ゴーレムが事故や偶然で記憶を失うと思うか?彼らには脳に値する器官は無い、そもそも彼らの記憶は魔力的に刻まれる物だ」

動けなくなった僕達を前に、彼は苦々しげに言った。


「クレイ君は何者かに記憶を消された可能性が高い」


「そういう、ことです」

「クレイ……」

クレイの記憶がなぜ失われたのか、その理由は考えた事が無かった。困惑と、クレイへの哀れみと、記憶を消した何者かに対する怒りのようなもので頭がぐるぐるする中、僕より幾分考えの浅い石川はすぐに口を開いた。

「記憶を消されたって、まさか捨てられたとか?」

「いや、作り主とは別の人物である可能性も十分にある。だが、誰かが意図的に消した事はほぼ確実だろう」

「なんでそんな事……」

クレイの精神は人間のそれと変わらない。記憶を故意に消すなんて、許されるべき事ではない。なんとも言えない気持ちを無理矢理お茶で流し込むが、何も言葉が出てこない。重い沈黙が流れる。

生来楽観的な石川は、真っ先に耐えられなくなった。

「あああ暗い!暗すぎるぜお前ら!記憶を消したのが作ったやつなら殴り込みかけるし、そうじゃないならクレイがいなくなって困ってるかもしれねえだろ!とりあえず見つける!それでいいだろ?!」

一気に吐き出した彼は荒い息をつき、乱暴に注いだお茶を煽った。

「……なんだよ」

視線が自分に集まっているのに気が付き、困惑したように見回す石川。

「いや、さすがだなと思ってさ」

「いささか短絡的が過ぎる気がするが、しかし正論には変わりない」

「褒めてんの?けなしてんの?」

「褒めてる褒めてる」

訝し気な顔をする石川だったが、何を思ったか急にクレイを持って立ち上がった。

「つまりそういうことだ!でもってこの話は終わり!あとはゲーム合宿だ!4人対戦だ!いいなクレイ!」

「えっ、あっ、はい?!」

早すぎる展開についていけないのか、石川のテンションについていけないのか、困惑しきりのクレイをよそに、僕達オタク三人はプロの戦士へと変わり身を遂げるのであった。


翌朝、部屋の中は死屍累々だった。

最初は遠慮がちだったクレイが段々本気を出すにつれて僕は歯が立たなくなり、石川と坂下のガチ勢達とクレイの三人が戦っている後ろでひたすらガヤに徹していた。そのうち興の乗った僕が一番上手い奴に高いアイスを奢ると言い出してからはしぶとく負けを認めない三人の泥試合が続き、気付けば日が昇っていた。そういうわけで僕達は一睡もしていない。

「あ、そうだ」

テーブルに突っ伏していた坂下が言いつつむくりと起き上がった。ゾンビさながらの様子にびっくりするが、リアクションを表に出す気力は無い。

「どうした、いきなり」

「君の家にはクレイ君の書いた魔方陣があると言ったな」

「ああ、うん。あるね」

一部は僕が書いた物だが別に訂正する必要のある事でもない。

僕が肯定すると、坂下は真顔のままずいと顔を近づけて来た。

「見たい」

「近い」

顔を押し返しながら起き上がって部屋を見回せば、ベッドを僕に奪われた石川がコントローラーを握りしめたまま寝落ちているのが見える。その隣ではクレイがぼーっとしていたが、会話に気付き首をこちらに向けた。こちらに背中を向けていたのでふくろう並の首回転である。

「クレイ、そいつ起こして。帰るって言わないと」

「いや、俺も行く」

いつのまにか起きていた石川が、絞った猫みたいな声を出しながら伸びをした。

「じゃあちょっと片付けてから行くか」

「いや、いい。漫画返すから続き貸して欲しいだけだ」

「あとアイスもですね」

「おい、まだか」

振り返れば坂下は既に荷物をまとめ終えていた。自分の興味がある事に関して行動が早いのはオタクの常だが、彼のそれは尋常じゃない物がある。

「早くするんだ」

「魔方陣見たさすぎだろ……」


土曜日の朝、休日出勤らしき人も多い電車は昨日よりも混んでいて、クレイの入ったキャリーケースを人にぶつけないようにするのに気を取られすぎて、数回転びそうになった。バス停近くのコンビニでアイスを買い、他愛ない話をしながら歩く。

あと数分というところで坂下が突然黙り込んだ。

「どうした、坂下」

「なんだ?腹でも痛くなったか?」

「いや……」

目だけを動かして周囲を伺う坂下。そして、声を潜めて言った。

「後をつけられているようだ」

それを聞いて勢いよく振り返った石川に、馬鹿と小さく叫んで坂下が無理矢理首を前に戻す。

「態度に出すな、気付かれる」

「でも、つけられてるなんてそんな……同じ方面に住んでる人は多いだろうし」

「石川のアパートからここまでずっとだぞ」

「……それは怪しいな」

振り返りたい気持ちが湧くが、努めて普通のフリをする。……が、普通のフリをしようとなると途端にいつも何を話していたか分からない。自然と三人黙ってしまう。

「よし、麻野の家まで競争しようぜ!ビリの奴が奢りな!」

唐突に石川が叫ぶなり走り出した。驚いて坂下の方を見るが、彼も走り出そうとしている。

「ふ、望むところだ」

「ちょっ、待てお前ら、奢るって何を、ってか僕だけハンデありすぎじゃない?!」

キャリーケースを抱えて走り出す後ろで、誰かが慌てて駆け出す気配がした。曲がり角でこっそり後ろを見れば、コートにマスクサングラスと不審者の典型のような男が下手な走り方で走ってくる。コートが邪魔な上、あまり若くはないらしい。

「男子大学生舐めんなよ……!」

僕は、多分中学最後のクラス対抗リレー以来の本気を出した。


部屋の前にたどり着き、鍵を開けているところに二人が階段を上って来た。

「どうやら撒いたようだ」

「なんだったんだろうなー」

二人とキャリーケースを中に入れ、念のため中から扉の鍵を閉める。二人に適当に座っているように指示し、まずはクレイを出してやろうとキャリーケースを開けると……クレイが転がり出て来た。

「うわっ、クレイ?どうした?」

クレイは立ち上がるも、その動きはあっちにふらふら、こっちにふらふらとおぼつかない。部屋に入り損ねてドア枠に頭をぶつけると、そのままひっくり返ってしまった。

「ちょっ、何してんの!大丈夫?!」

「なんか、頭がぐるぐるして気持ち悪いです……」

慌てて駆け寄る僕に、クレイが呻く。

「……驚いた。平衡感覚まであるのか」

同じく様子を見に駆け寄った坂下が呟く。

「つまり、どういう事?」

「つまりだな、クレイ君の今の状況はずばり……乗り物酔いならぬキャリーケース酔いだ!」

坂下はビシ、と人差し指をクレイに向けた。石川はその横でぽかんとしている。

「そうか、あれだけ走って振り回せば酔うか……ごめんな、クレイ」

「いえ、お気になさらず……うぅ」

とりあえず酔いが収まるまでとソファーに移動させてやり(「逆に回せば直るんじゃねえの?!」「石川、それは目が回った時の対処だ」)、待っている間坂下に魔方陣の紙を見せた。アイスは冷凍庫の中にしまってある。

「ふむ、これは……なるほど……」

「何か分かるのか?」

「いや、さっぱりだ」

なんだよそれ、と落胆するが、坂下は無表情で目を輝かせている。

「しかし、やはり兄の所でもこれほど細かくて精密な魔方陣は見たことが無い。こんな美しい図形を作った人には俺も是非会ってみたいものだ」

「そ、そうか。好きなだけ見てていいよ」

「ああ、そうさせてもらおう。あ、写真を撮ってもいいか」

「僕は別に、クレイが良いなら」

「良いですよ」

「では遠慮なく」

坂下は色んな角度から写真を撮り、影が映る邪魔だと僕と石川は何度か追い払われた。そうやって撮った写真を眺めながら、坂下は真面目な声に戻る。

「とりあえず、帰ったら兄に連絡を取ってみる。麻野君達は駄目だった時の事を考えて別のアプローチを探しておいてくれ。差し当たってはあの尾行者だな」

「あいつがクレイに関係あるっていうのか?」

「でなければ何故俺達のような金の無さそうな見るからにオタクっぽい冴えない男子大学生を尾行する必要がある」

「うわ悔しいけど否定できない」

その後酔いの治ったクレイと共にアイスを食べながら他愛もない話をし、帰る二人をクレイと共に玄関まで見送った。

「じゃあ坂下、頼んだ」

「頼まれた」

「あと石川、足りなかった一冊ちゃんと返せよ」

「へいへい」

そうして二人が出てドアが閉まるのを見届けた後も、クレイと僕はなんとなくそこに立っていた。

「良い人でした」

「だろ」

「手掛かりが見つかって良かったです」

「だな」

「石川さん、ゲーム強かったですね」

「だね」

少しの沈黙。

「楽しかった?」

「はい、とても。千秋さんも、お二人も、周りに優しい人ばかりでボクは幸せ者です」

「幸せ者……いや、幸せゴーレム?」

「千秋さん?今いい雰囲気でしたよね?」

茶化しあいをしながら、部屋に入っていく。そんな時間がとても楽しくて、持ち主を探そうと言い出した事を少し後悔したりなんかするのだった。

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Golem in the Room 那泉什弌 @nainiey

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