エピローグ

エピローグ 私達の戦いはこれからよ!?


 「カメキッつあん…居るかい? 私だよ…これ約束の南部せんべい」


 せんべいの袋を片手に『平和の創造者ピースメーカー』は魔法少女協会に隣接する王立図書館のカメキチの部屋を訪れた。


 …『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』との決戦から一か月…首都ミレニアンは順調に復旧しつつあった。

 倒壊した家屋も新築や修繕が進んでおり、街には活気が戻り始めていた。

 ここ王立図書館はと言うと、貴重な蔵書があるとの事で予め防護の結界が張ってあり被害は皆無であった。


「おお…ノドカ…ファンタージョンこっちに来とったんかい…今、茶を入れるよ…」


平和の創造者ピースメーカー』の真名はノドカ…何とツバサの祖母だったのだ。

 知っての通り大型マスコットのカメキチは『平和の創造者ピースメーカー』とは旧知の仲だ。

 土産として持って来たはずのせんべいの袋を自ら破り、その中から一枚取り出してかぶり付く。


「いや~やっぱり自分の歯で噛めるってのは格別だね~」


 こんな女神の如く美しく若い姿をしているがそこは50年前のレジェンド…中の人はとうに還暦を裕に超えているのだ。

 魔法少女は登録時の姿がずっと継続されるので、見た目からは年齢が判断できない。


「…で、どうだい…あの子達は…見込みがありそうかい?」


 カメキチは持って来た湯呑を彼女の目の前のテーブルに置く。

 あの子達とは当然、『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』を始めとする今回の事件を解決に導いた七人の魔法少女の事だ。

 今、巷で彼女たちは『七つの理力セブンフォース』と呼ばれていたりする。


「う~ん…まあまあかな~でもちょっと頼りないんだよね~一応及第点は越えてるんだけど…」


 パリッとせんべいを噛み割る。


「…身内が居ると評価も厳しくなるのかい?」


 見る者が在り難くなってしまうほどの穏やかな笑顔を浮かべるカメキチ。


「よしとくれよ…そんなんじゃないって…私はアドバイスはしたけど直接手は貸していないからね…あの子達はよくやったと思うよ?」


 そして窓の外に視線を移す…中庭で談笑するツバサと仲間の魔法少女たちが見える。


「この頃の出会いは大事だからね…友達を大事にするんだよ? ツバサ…」


 『平和の創造者ピースメーカー』は慈愛に満ちた微笑みで呟いた。




「お姫ちゃんはもう何処に住むのか決まったの?」


 噴水を囲む様に囲むベンチに座りながらツバサが尋ねる。


「うん、魔法少女協会マギカソサエティの人たちが住処を用意してくれたんだ」


 チヒロの身体は完全に女性化と魔女ウィッチ化していた。

 魔法少女へ変身するプロセスを必要とせず、そのままの姿で魔法を使用出来るまでになっていた。

 ただ普段からあの派手なコスチュームで居るのは目立ちすぎるので、魔法で清楚なワンピースを身に纏っている。

 本来、魔女ウィッチは自ら悪に染まった魔法少女がなってしまう者である…そうなると当然人里に住む事など以ての外…。

 しかし今回のチヒロのケースは少し特殊なので温情措置として魔法少女協会マギカソサエティが骨を折ってくれたのだ。


「う~んと…元はマスコットの酒場だった所らしいんだけど…」


「あ~!! 私、一度行った事あるよ!!」


 そう…チヒロの新居は元のスナック『ワンチャンス』を改装した物件なのだ。


「そうなんだ? それでね…あのコの希望でお店は別の形で新装オープンする事になってね…」


「えっ? あのコって…?」






「あれ…? 『ワンチャンス』だった場所…居酒屋になってるな…

 何々…居酒屋『河豚提灯ふぐちょうちん』?」


「へぇ面白い…リスの旦那、入ってみようぜ?」


 たまたま店の前を通り掛かったユッキーとダニエルは暖簾をはぐって店内へと足を踏み入れる。


「へい!! らっしゃい!!」


 威勢の良い、そしてどこか聞いた事のある声が響く。


「…おっ…お前!! ピグじゃないか!!」


「ピグの旦那!!」


 おでんの湯気越し…そこにはねじり鉢巻きを頭に巻いたピグが居たのだ!!


「よう!! 二人とも久し振りだな~!!」


 少し性格が陽気になっているが紛れも無くブタバナのピグだ。


「おおお…お前…幽霊じゃないよな…?」


 怯えてどもるユッキー。


「ハハハ…疑う気持ちは分かるがこの通り!! 生きてるぜ!! まあ元々足は無いんだがな!!」


 冗談をとばすピグ、本当に性格が以前と大違いだ。


「真面目な話を言うと…チヒロと強制的に契約を切られて魂だけで彷徨っていたオレを『平和の創造者ピースメーカー』さんが助けてくれたんだ…」


「そうか!! そいつは良かったな!! ピグの旦那!!」


「これでまた皆で集まれる場所が出来たな!! 早速あいつらを呼んでやるか!!」


 ユッキーは端末で他のマスコット達を呼び出し、宴は延々と続いた。






ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


 風が唸る…。


 空は鉛の様な色をしており雲が物凄い勢いで流れていく。

 そんな風景の中、崖の先端に建つおどろおどろしい城があった。

 屋内も薄暗く明かり無しでは部屋に何があるか誰が居るのかさえも判別できない中、全身漆黒の甲冑を着た重低音の声の男が静かに語り出した。


「『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』がやられた様だな…」


 それに対して真っ赤な服と仮面の男が甲高い声で続ける。


「奴は我ら四天王の中では最弱!! …だから私はあんな新参者に四天王の位を与えるのは反対だったのです!!」


 真っ青な岩肌の様な体表の巨人がガラガラの擦れた声で語る。


「…オレハ…ソンナニ嫌イジャ無カッタ…コンナオレニモ優シクシテクレタ…」


「フン…このウスノロが…」


 赤い仮面の男は聞こえない様に呟く。


 パタパタと薄闇の中何かが羽ばたく音がする…。

 比較的明るい場所に現れたそれは…紫の丸い体の大きな一つ目で両側に蝙蝠の羽根と足が付いている異形の者…


「せっかく混濁他亜コンダクター様様が『守銭奴ラゴン』と『地獄の吐息インフェルノ・ウィスパー』の仮面を貸し付け、おまけに肉体改造まで施して下さったと言うのに…『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』はほ~んと無能ですよね」


 そう言うと、ある物の高い位置に鳥の様に泊まった…。

 それは巨大な手であった…その場所には大きな椅子に座った山の様に大きな人物がいたのだ。

 全貌は暗くて見て取る事は出来ない。


「…まあそう言ってやるなマダメよ…奴は奴なりに死力を尽くした…違うか?」


 巨大な人影はギロリと金色の爬虫類の様な縦長の瞳が睨みつける。


「はっ!! 失礼しました混濁他亜コンダクター様!!」


 マダメと呼ばれた者は直立不動で謝罪する。

 どうやらマダメは使い魔の類で混濁他亜コンダクターに畏敬の念を抱いている様だった。


「恐れながら混濁他亜コンダクター様に申し上げます…

 次の企ては是非わたくしめにお申し付けください。


 漆黒の騎士は恭しく膝ま付く。


「…貴様抜け駆けを…!! 混濁他亜コンダクター様!! 次は是非このわたくし目に!!」


 赤い仮面の男も続きかしずく。


「オレ…オレ…オレガヤルヨ~!!」


 ドスンドスンと青岩石男が足踏みする。


「え~~~~~い沈まれ~い!!!!」


 混濁他亜コンダクターの怒声一つで静まり返る室内…。


「「失礼しました…!!」」


「…マシタ…」


 気を付けの姿勢で固まる三人。


「…今はすぐには動けん…」


 一気にトーンダウンする混濁他亜コンダクター


「…それは何故でございますか…!?」


 恐る恐る漆黒の騎士が質問する。


「…それは……今作戦の失敗のせいで軍資金が底をついた…」


「………」


 その切実な理由に部下たちはそれ以上何も言わなかった。


「…それにこちらが失った手駒も大きい…暫くは身を潜めるとしよう…人間どもめ…せいぜい仮初めの平和を謳歌するがよい…」


 混濁他亜コンダクターは肘当てに乗せた腕で頬杖を着きながら不敵な笑みを浮かべた。






 ツバサたちが『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』を倒してから数か月…。


「はぁ~~~~~!!」


 郊外にある見張り塔の屋根に腰かけ盛大にため息を吐く『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。

 彼女は再び金欠地獄に陥っていた。

 先の『純白の復讐者ホワイト・リベンジャー』との戦闘で500万イェン以上あったはずの軍資金が創作魔法や混合魔法を湯水の如く使いまくったせいで底をつきそうになっていたのだ。

 さっきのカキン虫も倒したには違いないが割に合わなかった。


「…そんなにため息を吐かないでくれでありんす…また地道に稼ぐしかないのでありんすよ」


「…それが中々上手くいかないから嘆いているんでしょ~?」


 河豚の様に頬を膨らす『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』。


「お~いツバサ!! やっと見つけた!!」


 見張り塔の下から『森の守護者フォレスト・ガーディアン』の声がする。


「何? ミドリさん!!」


「南の方からカキン虫の大群が迫ってるらしいんだ!! 手が空いているなら手伝ってくれないか?!」


「ええっ!? …分かった今行くよ!!」


 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』が腰掛けているこの見張り塔は北側を見張るための物で南側はほとんど見えない。

 おまけに南に背を向けていたから尚更カキン虫を発見できなかったのだ。

 『果て無き銀翼ウイング・オブ・エターナル』は見張り塔から飛び降りると『森の守護者フォレスト・ガーディアン』の腕を掴み一気に高速飛行してその現場に急行する。


「あっ!! ツバサ先輩ちわっす!!」


「来ましたわねツバサさん!!」


「この程度…吾輩だけで十分なのだがな!!」


「私…帰っていい?」


 いつものメンバーは既に揃っていた。


「ツバサちゃん…」


 勿論『深海の姫君プリンセス・ディープブルー』も一緒だ。


「さあみんな行くよ~~~~!!!」


 みんなが一斉に自分のカードリーダーをにマジカルプリカを当てる。


『カキーン!! ハイリマシター!!』


 ツバサたち魔法少女はこれからもここファンタージョンで笑い、泣き、戦いを繰り広げる事だろう…。


 彼女たちの人生はまだまだこれからなのだから…。







                END

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