第5話 戦闘その2

 残る行程も約3分の1となった頃。

「次のチェックポイントまで行ったら進路を北に取るよ。後はほぼ直進するだけですべてのチェックポイントが回れる。」

後ろのミクに声を掛ける。

「モンスターにさえ遭遇しなければ余裕だね。」

後半が楽になるようなルートにしたから当然だ。

障害となるものは出来るだけ早めにクリアするのが俺のやり方だ。

チェックポイントが見えてきた。

一本の大きな木がぽつんとある。多分あの木だ。

近づいて見ると確かに。チェックポイントだ。

「これだね。」

そういいながらミクは背中のかばんからノートと鉛筆を出しメモをとる。

「へ589し678ぽ」

読んで確認する。間違いない。

これを間違うとかなりの減点となる。

グリーンドラゴンを倒したアドバンテージが有るとしても減点は嫌だ。

「大丈夫間違いない。」

俺はミクのメモを覗き見して再度確認した。

丸っこい女の子らしいかわいい字だ。それでいてバランスが取れている。

字のへたくそな俺とは大違いだ。

間違いないと分かるとミクはノートを閉じ鉛筆とともに鞄にしまう。

俺は地図とコンパスで次のチェックポイントの方角を確認する。

「じゃ次いくよ。準備はいい?」

俺が声を掛けるとミクはうなずき詠唱をはじめる。

「・・・・・・。」

青白い光に包まれる。そして、俺たちは走り出す。

走り出して5分程たった頃。

突如矢の雨が俺たちを襲う。

「・・・・・・。」

俺は剣を抜く。

矢が到達する直前、疾風が沸き起こり矢の雨が二つに割れる。

ミクの魔法だ。

矢は俺たちの左右の地面に突き刺さる。

この矢はまさか・・・。

本能がやばいと訴え掛けてくる。

「クレイ。」

ミクがこの試験ではじめて不安な顔を見せる。

ミクもやばいと感じているようだ。

逃げるのが得策か。

「戻ろう。」

元来た方向に戻ろうとする。

「っ!」

だが既に囲まれている気配がする。

完全に罠にはまっている。

「オーク・・・。」

ミクがつぶやく。

特徴ある矢を見た感じではそれしか考えられない。

最悪の事態だ。

この試験で命を落とした者の多くがオークに襲われたためだ。

遭遇して生還した者達の殆どは逃げ切れた者だ。

すなわち、逃げ切れないと生き残れない。

「なんとか元来た方向に一点突破で逃げ切れないかな?」

「多分現状ではそれは相手の思う壺だと思う。逆にまっすぐ直進するのなんてどうだろう。」

俺は大胆な提案をしてみる。

しかし、これしか逃げ切れるチャンスを作り出すことは難しいと思う。

オークはリーダーを中心にしてかなり統率がとれていると言われている。

統率の取れた集団が相手では下手な作戦は一切通用しないだろう。

「わかった。クレイを信じるよ。」

後は敵の隙を突くために一瞬でも早く反撃に出るのみ。

俺とミクは再び正面に駆け出す。

敵はまだ出てこない。

このままいけるのではないだろうか?と思った瞬間、剣を持ったオークたちが現れる。

その向こうには弓を構えた集団も居る。

走ったまま詠唱を開始する。

ミクも走りながらメイスを取り出し、さらに詠唱を開始する。

オークたちが俺たちの接近に備え剣を構える。

奴らの間合いに入る一歩前で俺は地面を強くけり大きく踏み込み一気に間合いに入る。

そして、横一文字に剣を振る。

俺を半円状に囲んでいたオークたちは後方に飛びこれをかわす。

半円が広がり隙間が出来る。

俺はその隙間を狙い一気に駆ける。

左右のオークが剣を振り下ろす。

俺は剣を上に掲げそれを受け止める。

すさまじく重い一撃だ。そのまま俺の剣でたたきつけられそうになる。

すかさず支点をずらし受け流し奴らの横に入る。

そして

「・・・・・・。」

左側を炎の渦で包む。

右側には剣を突き出す。

しかし、右側に居たオークはあっさりとそれをかわし、反撃に出る。

体勢が悪すぎた。このままでは反撃をもろに食らってしまう。

次の瞬間俺とオークの間を何かが駆け抜ける。

加速魔法で相当のスピードをつけたミクだ。

駆け抜ける瞬間俺の手を掴み引き寄せる。

凄い力だ。魔法で強化しているのだろう。

俺は掴まれたまま体勢を立て直し一緒に駆ける。

このまま次を突破できれば逃げ切れるかもしれないと思った。

だが、残念ながらここで止まるしかないようだ。

甘かった。完全に包囲されている。

オークどもは仲間を炎に焼かれながらもすばやく冷静に包囲網を展開していったようだ。

「万事休すかな。」

俺が言う。

「私は絶対あきらめないよ。」

ミクが強く言う。

「まぁ、俺も最後まで悪あがきはするさ。」

俺は最悪でもミクだけは逃がすつもりだ。

包囲しているオークどもと対峙しながら俺は考える。

(これほどの指揮系統なら必ずリーダーが居る。そいつを倒せばあるいは。)

すると突然包囲網の一部が空く。

そして、装備が他の奴らとは違うオークがやって来る。頭の羽飾りが特徴的だ。

他のオークどもが騒ぎ出す。

「一体なに!?」

ミクはこのオークたちの様子にかなり困惑しているようだ。

「もしかしたらチャンスかもしれない。」

俺は冷静に言う。

「あいつを倒せば道は開けるかも!!」

そう言いながら俺は剣の切っ先をやってきたオークに向ける。

そのオークが包囲網に入ると再び包囲網は閉じられる。

そしてそのままそいつは俺と対峙する。

そいつが背中の巨大な斧と盾を手に取り構えるとオークどもの歓声がよりいっそう大きくなる。

やはりこいつがリーダーのようだ。

包囲しているオーク達は各々剣をこちらに方に向けている。

包囲網から逃がす気は毛頭無いようだ。

「こいつは奴らのゲームだ。捕まえた獲物をいたぶって遊ぶな。」

ミクは恐怖のためか顔色が悪い。

「ミクは周りに注意を払っててくれればいい。チャンスは俺が作る。」

ミクは黙ってうつむく。

「私足手まといかな?」

不安な眼差しでこちらを見つめる。

「そんなことは絶対にない。今は自分の役割を分かって欲しい。あんなデカ物と直接やりあうのは俺の役目だろ?近接戦闘は俺がメインでやる約束だ。ミクはこの包囲網を脱出すること、脱出した後のことだけを考えてくれればいい。でも、もし良かったら強化魔法を掛けてくれないかな?さすがにあのデカ物の一撃は重そうだからね。」

俺は不安を取り除くようにやさしく言う。これでいい。後は俺次第だ。

ミクは黙ってうなずき俺の後方に行く。

俺は剣を両手で握り直す。

オークどもの歓声が静まる。

奴がかかって来いとばかりに手招きをしている。

ならば一撃で決める。

俺は詠唱しながら刺突の構えで突っ込む。

奴は盾を突き出し防ごうとする。

剣の先が盾に到達する寸前で右に回り込むように飛ぶ。

次の瞬間俺が居た場所に斧が突き刺さる。

やはりあの盾は動きを封じるためのもの。

突如俺は光に包まれる。ミクの支援魔法だ。

力がみなぎり、体が軽くなる。

そして俺の体の表面のあちこちにルーンが書かれる。衝撃吸収の魔法だ。

奴は地面に刺さった斧を体を捻るようにしてそのまま俺の方へと振りかざす。

俺は左手で地面に剣を突き立てそれを防ごうとする。

「・・・・・・。」

そのまま空いた右手で炎を操り奴を襲う。

斧を受け止めた剣ごと俺は弾き飛ばされる。

包囲網までは飛ばされてはいない。もし飛ばされていたらオークどもに串刺しにされていたのだろうか。

奴は炎に包まれている。

「ウォォォォォッー!!」

奴が叫ぶ。炎が突如として消える。

そしてそのまま俺の方に突進し斧を振りかざす。

俺はそれを両手で握った剣で受け止める。そしてそのまま受け流・・・せない。

斧は支点をしっかりと捉え受け流すことを許さない。

ありえないくらい重い一撃だ。鍔元で受け止めているのと、ミクの魔法の効果で何とか耐えている。体がきしむ。このままだと押しつぶされてしまう。

魔法を使う余裕も無い。

ならば。

俺は一瞬力を抜き奴を動かし、力の均衡を崩し跳ねる。そして剣と斧の接点を支点にして飛び奴の顔めがけ両足を伸ばす。

奴のあごに俺の両足がぶつかる。俺はそのまま奴のあごを蹴り跳ね間合いを取る。

これには奴も大分腹が立ったようで再び斧を振り上げ迫ってくる。

俺はそれを全力で左右にステップしながらかわし続ける。

ただ闇雲にかわしている訳ではない。動くたびに小さく短く詠唱する。

大体やつの周りを一周した。完成した。

「・・・・・・。」

奴の足元に魔方陣が浮かび上がる。

「・・・・・・。」

一気に魔法陣内の空気が凍りつく。

空気中の水分が凍りダイヤモンドダストとなる。

奴も動きも一瞬にして止まる。

すかさずそこを袈裟切りする。

しかし、思ったより浅くしか傷を負わせられない。

もう一太刀切りかかる。

ここで奴は動き出す。

完全に油断していた。

切りかかろうとしていた俺に奴は膝を食らわせる。

そして盾で思いっきり殴られる。

意識が遠のきかける。

気づいたら斧が俺の目の前まで迫っていた。

間合いを詰めてかわそうとする。

しかしかわしきれない。斧は背中を浅く切る。

背中にしょったバッグの中身が散乱し血も噴出す。

次の瞬間奴の膝が再び俺を襲う。

俺は後方に吹き飛ばされる。

(!!)

目の前に鞄から飛び出したブラッドクリスタルが舞っている。

俺は飛ばされながらそれを掴み取る。

着地は上手くいった。そのまま剣の鍔を開けブラッドクリスタルを入れる。

奴が再び迫ってくる。

暖かい光に包まれ意識がはっきりするミクの魔法だろう。

俺は刺突の構をとる。

奴は盾を突き出して突っ込んでくる。

俺は盾にそのまま剣を突き刺す。

丁度奴の手の位置にだ。

盾はすぐに突き破れた。やはり相手に刺させて動きを封じる目的のものだったようだ。

そのまま盾を貫き持つ手に突き刺さる。

そしてそれは二の腕にまで達する。

剣は根元近くまで刺さっている。

「グォォォォォッー!!」

さすがの奴もこれには絶叫する。

だがこれだけでは済まさない。

俺は柄に魔力を送る。

すかさず魔力が解け出で満ち溢れる感覚がする。

俺は短く詠唱する。

「・・・・・・。」

奴の左腕が爆発する。

「グォォォォォッー!!」

奴は完全に我を失っている。

そのまま俺は奴の腹に剣を突きたて短く詠唱する。

奴の腹が内側から爆発する。

「ミク!!」

間髪いれずに加速魔法が掛かる。

すばやく奴の頭の羽飾りを拾い上げ回収する。

この大物のポイントを逃す手は無い。

俺とミクは次のチェックポイントの方角に走り出す。

オークどもはリーダーが倒されたことによりかなり混乱している。

集団としての統率が崩れている。

走りながらブラッドクリスタルの魔力を引き出す。

一瞬にして魔力が溢れ出でる。

しかし、すぐに供給が止まる。

ブラッドクリスタルの魔力が尽きたようだ。

だがこれだけで十分。

俺は崩壊しつつある包囲網の一角に炎を浴びせる。

包囲網が開いた。

そこを俺とミクは駆け抜ける。

「・・・・・・。」

フローティングの魔法が掛けられる。

そして、全力で駆けこの場を離脱する。

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凄い剣のはなし!? 序章:卒業、新たなる旅立ち 龍頭 @DoragonHead

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