第4話 戦闘

 チェックポイントを順調に巡り、約3分の1の行程を消化した。

今も順調に次のチェックポイントに向かって走っている。

ここは木が少なく、草は茂ってはいるがそう深くはない。

ミクの支援魔法のおかげで難なく走れる。

このまま行けば予定時間を大幅に短縮できる。いい感じだ。

「次のチェックポイントまで行ったら休憩しようか。」

ここまで連続で魔法を使ってきたミクにそろそろ休憩をとらせた方が無難だろうと思った。

効果を持続させながら走っているので疲労は大分たまってきているだろう。

万が一の戦闘に備えて出来るだけ余力は残しておきたい。

「うん。そうしてくれると助かるよ。それに嫌な気配がするし。」

走りながらだとあまり細かくは気配を探れない。ミクが鋭いのか特に俺は何も感じない。

そう思った瞬間。

「!?」

何かが並走している感じがする。右側の藪の向こうから気配を感じる。

「ミク。」

「うん。」

次の瞬間、ミクは魔法を解除し2人は急停止する。

それと同時に右から何かが飛び出してきた。

その何かはそのまま俺の方に向かってくる。

俺は踏み出し、間を詰めながら剣を抜く。そしてそのまま突き刺すように何かに向ける。

しかし、その何かは飛び越えて避けようと跳ねる。

(もらった!!)

そのまま剣を縦にしっかりと構えなおし、下から突き上げる形にする。

ガシッ!

何か硬いものに当たる感触があった。しかし、牙か何かだったのか全くダメージを与えた手ごたえは無い。

そしてそのまますれ違い、距離をとり相手を確認する。

こいつは小さいがグリーンドラゴンだ。

実物を見るのは初めてだ。こんな所に居るように奴ではないはずなんだが。

一瞬ミクの方を見ると何か詠唱している。

俺はすかさずグリーンドラゴンとの距離を詰め、一気に切りかかる。

しかし、グリーンドラゴンは俺には目もくれずミクの方に飛び掛る。

やばい。そう思った瞬間ミクの詠唱が完了する。

「・・・・・・!!」

ミクの目の前が青白く輝く。

そこにグリーンドラゴンが突っ込む。

その瞬間そこに柵が有るかのようにグリーンドラゴンの動きが止まり、青白い火花がバチバチとはじけとぶ。シールド魔法だ。

グリーンドラゴンはそのまま後ろに飛びのけるが、そこに間合いを詰めた俺の剣が一気に襲う。

横一文字に振り切ったが、刃はグリーンドラゴンの鱗を浅く削り取るのみ。

さすが小さいとはいえドラゴンだ。鱗の硬さが尋常じゃない。

手が痺れるくらい力を込めたのにかすり傷程度しか負わせられない。

そのままミクとグリーンドラゴンの間に立つ。

こいつはまずい感じだ。

止まらずに駆け抜けて魔法が効いているうちにやり過ごした方が無難だったろうか?

だがもうそれは手遅れだ。かといって素直に逃がしてくれそうにはない。

普通に走っても人の足ではドラゴンには適わないだろう。

選択は2つ。

ミクのフローティングで一気に走って逃げるか、全力でこいつを倒すか。

俺はミクの方をちらっと見て聞く。

「どうする?」

「倒すしか無いよ。」

すかさず返事が来る。ミクの中では既に倒すということで決まっていたようだ。

こういうとき決断が早いのは頼もしい。

こうなったら俺も力の温存はしていられない。取って置きの秘技を披露するしかない。

俺はすばやく左手の2本の指で刀身をなぞる。

後ろではミクが再び詠唱に入る。

そして俺は一気にグリーンドラゴンに踊りかかる。

奴は体制を低くして待ち構えている。

俺が右手に持った剣を振りかざした瞬間、軽く左側に跳ねそれをかわす。

そして一気に俺に詰め寄る。

奴の牙が俺の目の前に迫る。

ミクの詠唱はまだ終わらない。

しかし、そこで奴の動きは止まった。

奴の体には一瞬にして霜が付き冷気が漂っている。

俺の左手は奴の腹部あたりに当てられている。

すかさず剣を両手に持ち直し渾身の力を込めて突き刺すように振り下ろす。

グサッと突き刺さる感触する。

グリーンドラゴンの背中に刺さった。

そして、剣に魔力を注ぎ込む。

電撃がグリーンドラゴンの体を貫く。

3秒程そうした所で魔力を注ぐのを止める。

奴は既に息絶えていた。

焦げるような臭いが鼻を突く。

「ふー。」

やっと緊張が解けた。

ミクはそのまま詠唱を続ける。

「・・・・・・。」

暖かい光が俺を包む。癒しの光だ。

「凄いよ。何か策は有るんじゃないかと思ってたけど無詠唱魔法を使うとは思わなかったよ。剣にルーンを書いたのは気づいたから、それが策かなぐらいしか思わなかったよ。」

ミクがはしゃいだように言う。この子がこんなはしゃいだようにしゃべるのは初めて見た

かも。普段おとなしいから気づかなかったけど、結構感情豊かな子なのかな。まぁあのシエルの友人をやってるくらいだから当然と言えば当然か。

「一撃くれた時から止めは電撃を食らわすしかないと思ってたんだよ。後はどうやって動きを止めるかってとこだけが悩みどころだったのさ。」

ちょっと余裕ぶって言ってみる。少しくらいかっこつけておいてもいいだろう。

実際の所はあの凍結魔法で動きを止められて幸運だった。

あれで止まらなかったら戦いは結構泥沼化していたかもしれない。

無詠唱魔法は極端に魔力を消費する。

普通はある程度の詠唱をすれば同じ効果を少ない魔力で発揮できる。

長々と詠唱しても時間の割に効果は薄い。

通常は詠唱時間と詠唱の効果が最大限に発揮される最適詠唱で魔法を行使するのが良いとされている。

また、詠唱しないにしてもさっきの電撃のようにルーンをあらかじめ刻んでおいたり、魔方陣を書いたりして詠唱と同様の効果を得ることが出来る。

複数の要素を組み合わせて使うことも出来る。

「ここで休憩にしない?私は大分消耗しちゃった。」

ミクもここまで移動に使った分と先ほどの戦闘で大分消耗しているようだった。

このまま次のチェックポイントに行くよりは、少し回復してからの方が安全そうだ。

それに俺も無詠唱魔法なんてものを使ったせいで実はかなりの魔力を消耗してくたくただ。

「じゃ休憩にしよう。その前にグリーンドラゴンの鱗を一枚剥いでくるよ。」

倒した敵もこの試験ではポイントになる。

せっかくの大物なのだから倒した証拠は持っていきたい。

俺はグリーンドラゴンの屍骸に近づき剣で鱗をはがす。

結構硬いから剥がすのは中々大変だ。

ただしもう動かないので狙いを定めて剣を突き立てると思ったよりは簡単に取れた。

鱗を回収すると俺はミクのほうに近づく

「それじゃ少し移動したところで休憩しよう。屍骸の臭いにつられてモンスターが来ると面倒なことになるし。」

「うん。5分くらい走れば大丈夫でしょう。」

そしてミクと俺は走り出す。

約5分程走った所で足を止める。

「ここら辺で休憩しよう。丁度ここなら見渡しもいいから何か接近してきてもすぐ気づくだろう。」

そう言って俺は背負ったバッグを地面に置き腰を降ろす。

ミクも俺と背中合わせになるように同じように腰を降ろす。

広い範囲を見渡すための工夫だ。

俺はバッグから小瓶を2個取り出し1個をミクに渡す。

「魔力回復用のポーションだから飲んどいて。」

「ありがとう。」

瓶を開けると甘苦い変な匂いがする。

2人して一気に飲み干す。

「ぷはー。効くー。」

「おいしくないよー。」

思わず笑いがこみ上げる。

「あはははは。」

ミクもつられて笑う。

「ふふ、あはははは。」

2人してしばらく笑っていた。

もし他のチームが近くを通ってたら変なやつらだと思われただろう。

この試験、普通にやると絶対他のチームに遭遇しないようにいろいろ工夫されているらしい。

笑い終えた後は静寂だけが残る。

ミクと同じクラスだったのはこの3年の時の1年間だったけどそれでも思い出は十分にある。

2年の時に同じクラスになったシエルが何かと俺やシャインにちょっかいを出してきていたのでシエルと1年の時から仲良しだったミクともそれなりに面識は有った。たまにシエルに誘われて遊びに行ったときも彼女はよく一緒に居た。ただ大人しい性分なのかあまり俺の印象にはあまり残っていなかった。もう少し早く2人で組む機会があれば何か違った方向に進んだかもしれない。

「俺たちって結構いいコンビかもな。」

唐突に思ったことが口に出てしまった。

「そうかもね。2人だけで組むなんて初めてなのに自然に連携できた感じだよ。あっ、疲労回復用のキャンディー有ったから食べよう。」

ミクが自分のバッグをまさぐり探し当てる。何かはぐらかされたような感じがする。

「はい。1個どうぞ。」

俺はそれを受け取ると口に放り込む。甘酸っぱい味がする。

「残りの3分の2も頑張っていこう。時間は十分あるから大丈夫だよ。」

そう言ってミクが立ち上がって荷物を背負いだす。

俺も立ち上がって荷物を背負う。

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