第3話 卒業試験開始
雲ひとつ無く澄んだ空。健やかなる森の香り。ここは首都から大分西の方にある森。
亜人であるオーク族が住む場所に比較的近く、通常は人が来るようなところではない。
この森を出発地点からチェックポイントを経由し、ゴールである到着ポイントまでを時間内に縦走するのが試験内容である。
ただし、途中野生のモンスターに遭遇したり、橋の無い谷等一筋縄では突破できないようになっている。
最悪の場合オーク族と遭遇する可能性もある。オーク族は人間に対しては非常に好戦的で遭遇した場合はほぼ間違いなく襲われる。戦うか逃げるかの二択しかない。
逃げる場合でもそう簡単に逃がしてはくれない。過去の試験で死者や行方不明者が出ているのは殆どがオーク族のせいだと言われている。
「おはようミク」
いつのまにかミクが俺の側に来ていたのでこちらから挨拶した。
「おはようクレイ」
先に声を掛けてくれればいいのにあまりそういうことをこの子はしない。
「体調は万全?」
「うん。いつも通りだよ。」
いい傾向だ。特別なときに普段の力を発揮できるということは非常に重要なことだ。
遠足の前の日は眠れないとかいう感じだとこの試験では命に関わる。
「その剣どうしたの?いつものと違うみたいだけど。」
ミクは俺の新しい?剣を見て言う。
「ちょっとしたアクシデントで急遽こいつを使うことになったんだ。でも大丈夫。十分慣らしたから。」
「それなら安心だね。」
にっこりと微笑んで彼女は言った。
「一応作戦会議でもしておこうか。」
「そうしましょう。」
「ルートはこんな感じがいいと思うんだけど、どうだろう。」
俺は各グループに配布された地図を出して指し示す。
「出来るだけ動きやすい地形の所を選んだつもりなんだけど。」
「そうだね。このルートでいくなら私は行動支援魔法メインでいいのかな?」
さすがいい読みをしている。
「うん。そうしてもらえると助かるよ。イレギュラーが起きる可能性の低いルートだから上手くいけば何の障害も無くゴールできるはず。」
「2人だけだからその方がよさそうだね。戦闘は出来るだけ避けるって方向でいいのかな?」
「うん。万が一戦闘になったら俺が全力で排除するからミクは行動支援魔法にだけ集中すればいいよ。」
「了解だよ。それだけなら余裕で魔力ももつよ。」
これだけお互いの役割をはっきりさせておけばそう混乱する事態には陥らないだろう。
あとは実力と運次第。
「じゃそろそろ出発ゲートの方に向かおうか。」
「うん。」
ミクを促して出発ゲートの方に向かう。
俺たちの出発の順番はもう少しと言った感じだ。
「そういえばミクは魔石かなんか持ってる?」
「一応持ってるけど、多分実際には使えないんじゃないかな。開放するのに結構時間かかるし。」
確かに実用的な形で魔力を開放するにはそれなりの式を組むことが必要か。
となるとこの剣の能力もまんざら捨てたものでは無いのかもしれない。
「良かったら1個分けてくれないかな?一番使えなさそうな奴でいいから。」
「う~ん。じゃあこれかな。」
ミクが1個の赤い石を取り出してくれた。
「なんか高そうな石だね。」
「そんなこと無いよ。このブラッドクリスタルは欠片を集めて魔力で合成したものなの。欠片だからそんなに魔力含んでないし何より合成したものだから開放中に砕けてしまう可能性もあるの。そんな理由で格安だったんだよ。」
それなら実戦で実際に使うには不安定であまり向かないな。
失敗するリスクがある。
この娘は一体これを何に使おうと思って買ったんだか。
「それじゃこれは買い取らせて貰うってことでどうかな?」
「とりあえず持ってていいよ。使わなかったら返してくれればいいから。」
と言ってミクは俺にブラッドクリスタルを渡してくれた。
俺はそれを腰のバッグのポケットに入れた。
そうこうしているうちに出発の番がきた。
「では次。クレイスラーとミクリィー。出発ポイントA32。」
転送担当の教官に呼ばれた俺とミクは魔法陣の中に入る。
教官が詠唱をはじめる。すると魔方陣が光だし次第に空間がゆがんで見えてくる。
繋がった。魔力的感覚でそうわかる。そして次の瞬間景色が一変する。
ミクも隣に居る。転送は無事成功したようだ。
「それじゃ行こうか。」
「うん。時間が勿体ないからね。」
そういうとミクは詠唱をはじめた。
体や荷物を軽くするフローティングの魔法。
彼女の得意とする支援魔法のひとつだ。
「・・・・・・・・!」
詠唱の終わりとともに周りを青白い光が包みそれとともに体と荷物が軽くなる。
「まずは北東のチェックポイントを目指そう。俺が前を行くからね。」
「うん。お願い。」
そして、2人は駆けるように走り出した。
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