第2話 引き出す剣(もの)

 学校と家との丁度中間点あたりに俺の行きつけの鍛冶屋がある。

大きくは無いが代々鍛冶屋をやっている由緒正しい所なので腕は確かだ。

店に入るとここの主人がカウンターで座りながら短剣を研いでいた。

「いらっしゃい。」

視線は手元の短剣のまま挨拶してくる。

「こんにちはおじさん。俺の剣は仕上がってるかい?」

そこでやっと店の主人はこちらに視線を向けた。

「なんだクレイか。お前の剣ならさっきお前の親父さんが持っていったよ。」

「あれ、親父が来てたのか珍しいな。」

「いつもお前さんがお使いに来るのに今日は珍しく自分で来てたぜ。で、ついでにお前の剣も渡しておいたって訳だ。」

「そっか、ありがとうおじさん。」

目的のものが家だと判ったので俺はさっさと家に帰ることにした。

しかし、親父がわざわざ自分で鍛冶屋に行くとはどういう風の吹き回しだろう。今日は仕事が休みみたいだったから暇なのかな。

大抵面倒な雑用は俺に押し付けてくるんだけどな。

ということは雑用じゃなく本命なのか?

本命ってことは義理じゃないから・・・。

とかなんとか訳のわからん思考をしているうちに家に着いた。

まぁ普通の中流階級の家だ。

国立パブリックスクールは中、上流階級の家庭の子が大半だ。

「てやー!」

家に着くと庭の方から奇声が聞こえてくる。

親父だろうか?

俺は庭の方に廻ってみる。

すると案の定俺の親父が居て剣を持って振り回している。

「たー!とー!」

なかなか気合の入った太刀筋だ。

よく見ると俺の剣だぞ。

「おい、親父」

親父はそれではじめて俺がいることに気が付いたようだ。

「なんだクレイか帰ってきていたのならさっさと言いなさい。お前の剣を鍛冶屋から預かってきたぞ。」

「あぁ。知ってるよ。学校帰りに鍛冶屋に寄ってきたからな。それより親父が鍛冶屋に行くなんて珍しいね。」

「まぁちょっと頼んでいたものが仕上がったんでね。」

親父はそう言うとまた素振りを始めた。

「親父その剣俺のなんだけど。」

親父はまた素振りを中断した。

「おっと。そうだったな。なかなかいい剣だなこれは。これなら岩も切れるかもな。」

冗談なのか本気なのか判らない言い方をしてくる。

「どれ。」

突然親父は庭石の前で構えて静止した。

全く微動だにしないその様子から集中しているのが判る。

というか俺の剣を早く渡してくれよと思う。

「親父、早く剣を・・・。」

「いやーーーーーーーーー!!」

奇声を発し親父は岩に切りかかった。

キーン!

金属音が当たりに響いた。

「あ・・・。」

俺の剣の刀身が岩にささっている。

そして柄の方は親父の手に。

ただし、もう親父は完全に振りぬいて庭石から離れている。

つまり俺の剣は

「お、親父なにやってんだよ。」

俺は親父に詰め寄る。

「いやぁこいつなら切れると思ったんだけどなぁ。久々にやったから腕が鈍ってたかなぁ。」

そう。俺の剣は見事に二つに分離していた。柄より少し上の部分を境にして。

「どうしてくれるんだよ。明日卒業試験なんだぞ。剣が無ければ話にならないよ。」

「まぁ、こうなっては明日までに直すのは不可能だな。」

刀身が折れてしまっているのでもうこの剣は使い物にはならな。修理するとしても刀身が折れていてはほぼ修理は不可能だ。修理しても強度が下がってしまう。

「もうこうなったら新しい剣を買ってくれよ親父。」

そう俺が言ってるのが聞こえているのかいないのか親父は物置小屋の方に向かう。

「確か、物置に剣があったような気が。」

親父は物置に入っていきごそごそと中を探っている。

うちの物置小屋の中に剣なんてあっただろうか?

今まで何度も入っているが剣を見たことなんか一度も無い。

「確か俺が若い頃買って一度も使ってない奴がをしまっていたと思ったんだがな。」

そう言いながら親父は小屋の中のものを外に次々と出してくる。

「変だなぁ。あ、そういえば子供がいじらないようにと床下に隠したんだった。」

と言って親父は小屋の床板を剥がし始めた。

いいのかよ親父。

危ないからって床下に隠すのはどうかと思うぞ。

まぁ剥がした床を元に戻すのも親父だからいいけどさ。

俺は、とりあえず親父を待つことにした。

しばらくして親父が一本の剣を持って出てきた。

「有ったぞクレイ」

そう言って剣を俺に渡した。

受け取った剣を抜いてみる。思ったよりまともな感じだ。床下に隠されていたとは思えない程だ。

ただ、鍔の方に何か見慣れない細工がされている。儀式用の祭剣なんだろうか?それにしては刀身なんかは実用的な作りだ。

何か魔術的なロジックが組み込まれているようだ。

「親父、この鍔の部分の奴なんだけど。これは一体何?」

と言いながら剣を渡す。

「よく気づいたな。これはなんとあらゆる物質から魔力を引き出し自分の魔力として使うことが出来るようにするという機構らしい。」

親父が剣の鍔と柄の根元部分をいじると三箇所から筒状のものが出てきて開いた。

「ここに適当なマテリアルを入れればいいわけだ。」

そう言いながら親父は石ころをそこに入れる。

そして柄を握り気合を入れる。

「はっつ!!」

どうやら魔力を注いでいるようだ。

しかし、何も起こらない。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

親父が鍔を開けてみると石ころが落ちてきた。少し湯気が出ているようだ。

「あれだ。クレイ。ただの石ころだとこの程度しか魔力を含んでないと言うことだ。」

「・・・・・・。」

確かに親父の言う通りでそこら辺の石ころが大量の魔力を含んでいる訳は無い。

宝石なんかは結構大量の魔力を含んでいるが当然値段も張る。

他には天然に存在する魔力を含んだ石である魔石があるがこちらも純度が高いものは結構な値段がする。

かといって純度の低いものだと重量や大きさ的にこの剣に使うには実用的ではない。

「この剣の機能って結構微妙だなぁ。」

思わず言葉が漏れる。

「あくまで引き出すだけだから元々もつ魔力以上は絶対に引き出せない。あたりまえと言えばあたりまえなことだ。でも、普通の剣におまけ機能がついていると思えば特に問題ないだろう?」

「確かに普通の剣だと思えば特に気にならないか。じゃこの剣は貰っておくよ。」

「ああ、大事に使えよ。一応貴重なものらしいから。」

そう言って親父は俺に剣を渡す。

俺は剣を受け取ると素振りをはじめた。

明日までに手に馴染ませておかないといけない。

男として女の子の足を引っ張るわけにはいかないから。

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