カウントダウン

にごう

第1話

狭い一人部屋。隆はその部屋で2年暮らしている。

午後10時。普段より少し遅い時間だが、隆はいつも通りテレビを見ながら夕食を食べていた。

 食べ終わった後、食器などを洗い片付けた。そしてシャワーを浴びて寝る準備をしていると、

ピピピ、ピピピ。ピピピ、ピピピ。

ケータイが鳴った。メールの音だ。隆はケータイを開いて内容を見た。

『 ○○○□□□@△△△.ne.jp

  件名:なし

  04/05 23:53

  本文:あと5日。     』

こう書かれていた。

「何これ?誰かのイタズラかな?」

そう思い、そのメールを削除してそのまま眠りに着いた。



ピリリリ、ピリリリ。ピリリリ、ピリリリ。

隆はケータイの目覚ましの音で目を覚ました。午前8時ちょうどだった。

今日は少し早めの起床だ。何故なら今日からまた学校が始まるからである。今年から大学3回生だ。

まだ瞼が重かったが目を擦りながらカーテンを開けた。

すると、いつもなら太陽の光が眩しく照らしてくるのだが、今日は太陽の光も届かない暗い空。かなり雨が降っている。

「初日から雨とは、ついてないな」

がっかりしながら振り向くと、小さな部屋がさらに小さく見えた。

次の瞬間、ピカッと背後が明るくなり目の前に自分の影が出来た。雷である。すぐにドーンという大きな音が鳴って窓がガタガタ振動していた。

「これは酷い…」

そのまま手を後ろに回しカーテンを閉め部屋の電気をつけた。そしてニュースを見るためにテレビの電源を入れた。

しばらく見ていたが、特に目に留まるニュースがなかったのですぐに消した。

そして身支度を済ませ家を出た。

 学校に着くと、当然だがたくさんの生徒が来ていた。さらに雨が降っているせいで皆傘を指しているのでより多く感じた。何でこんなにも。と思いながら校内の道を歩いていると、突然肩をたたかれた。

「よっ、久しぶり!」

隆が振り向くとそこには春服を見事に着こなした長身の男が笑いながら立っていた。友達の亮だ。斉藤亮(さいとうあきら)、彼は浪人生だったので年は隆より一つ上である。

「市原、元気だったかー?」

「病気一つなく元気だったよ。亮は?」

隆は亮を名前で呼んでいる。しかし、亮は隆のことを苗字で呼ぶ。前は亮も名前で呼んでいたのだがある時、「お前、隆より市原っぽいよな」と意味のわからないことを言われ、それから苗字で呼ぶようになった。

「それを俺に聞くか?」

「そういやそうだな」

隆は笑った。亮は誰が見ても元気の塊のような人間なのだ。今まで病気はおろか怪我をしたこともない(これは大げさだが)と言う。隆はこれをいつも羨ましく思っている。

 二人で話しながら歩いているとすぐに教室に着いた。すでに教室は人でいっぱいだった。そして真ん中の方の空いている席についてしばらくすると、チャイムが鳴り先生が入ってきた。

若い男の先生だった。スーツを着て眼鏡をかけている、どこにでもいそうなサラリーマンみたいな先生だ。

「最初の講義なので、今日はガイダンスだけ行います」

先生はそう言うと、先頭に座っている人にプリントを配り始めた。

 プリントが回ってくると二人はプリントの内容を読み始めた。そこにはこれからやる講義の内容、進め方や成績のつけ方などが書かれていた。

「最後の人までプリントが行き届きましたか?では説明を始めます」

プリントに書かれている量が少なかったので、二人はすでに全て読み終わっていた。他の人も大半が読み終えていたようで、もう教室を出て行く者、話をする者などが増え、教室が騒がしくなってきた。

「ちょっとうるさいよ」

先生はマイク越しにそう言ったが静まる気配はなく諦めたのかそのまま説明を続けた。

 30分くらいでガイダンスは終わり、二人は次の講義に出るため教室を移動した。移動中亮が少し心配そうな顔をして尋ねてきた。

「あの授業どう?」

「プリント見る限りではそんなに難しそうでもないし、大丈夫じゃないか?」

「そうじゃなくて先生」

そっちかよ。と思いながら隆は話を続けた。

「先生がどうかしたのか?」

「結構若そうだったし、ちゃんとやってけるのかなぁって思ったから」

そういや亮は少し変わっていて、前からこういう所を気にするタイプだった。

確かに少し頼りない気がする先生ではあった。亮はそういう先生だと心配する性格だ。去年も気弱そうな先生が授業をしていると心配をしていた。

「去年も心配していた先生いたけど問題なかったじゃないか!」

「そうだけどなぁ…」

でもあんまり気にしててもな。と言うと亮は笑顔になった。その変わっている性格も隆にとってはもう慣れっこだった。でも逆に考えると、他人の様子がおかしいとすぐに気付く。そういう点では長所ではないのかなと思うことも多々ある。

 その後の講義も全てガイダンスだけで終わった。亮が不安そうな顔をしていたことも何回かあったが結局全て自己解決していたようだ。

「単位は、まぁ取ること自体難しそうなのがなくてよかったな」

亮は余裕を持った表情だった。隆が、確かに。と答えるとニコッと笑った。

 そうこうしている内に、いつのまにか隆の家の近くまで来ていた。

「じゃあ、また明日!」

隆も「また明日」そう答えた。そして、亮は駅の方に向かって歩いていった。

 隆が家に着いて時計を見ると午後6時半を回ったくらいだった。今日は一番最後の講義まで出ていたので帰る時間はこれくらいになる。

「久しぶりに最初から最後まで出るとやっぱり疲れるな」

そのままベッドに仰向けに寝転んだ。目の前にある天井がすごく高く見えた。立っている時だと手を伸ばせば届く場所にあるのだが、こうして見るといくら伸ばしても届かない。まるで雲を掴もうとしている気分だった。何してるんだ。と思い少し笑ってしまった。そして、少し眠かったのでそのまま横になって眠りに着いた。


ピピピ、ピピピ。ピピピ、ピピピ。


ケータイが鳴った。講義中以外はケータイのマナーモードをオフにするので音が鳴る。隆はその音で起こされた。外からはまだ雷と雨の音が聞こえていた。

「誰だ…?」

目を擦りながらケータイを開いてメールの内容を確認した。

『 ○○○□□□@△△△.ne.jp

  件名:なし

  04/06 23:53

  本文:あと4日。     』

どこかで見た内容である。

「これは昨日の…しかも1日減ってる!?」

そして次の瞬間、雷の光と共にドーンという大きな音が鳴った。カーテン越しでも光が通った。部屋の中に自分の影が出来上がった。隆にはそれがとても不気味に思えた。

それにしても随分とこったイタズラだ。

「こんなの受信拒否にすれば問題ない」

隆はそのアドレスからのメールを拒否に設定した。そしてメールを削除した。

 その後、食事を済ませてから寝る準備をして眠りに着いた。



 夜が明ける前に隆は目を覚ました。まだ5時を回ったところである。

「まだ真っ暗じゃないか…」

再び寝ようとした。しかし、

ピリリ、ピリリ。ピリリ、ピリリ…

ケータイが鳴り出した。電話の音である。

机の上に置いてあるケータイを手に取り、開くと相手は亮だった。隆はそれを見るとすぐ電話に出た。

「お!起きてる!おはよう、市原!」

かなり大きな声だった。思わずケータイを耳から遠ざけてしまった。そして再び元の位置に戻すと、

「こんな時間に何の用だい?」

「すまん、すまん。ちょっと目が覚めたから、お前がどうしてるかと思って電話してみただけだ」

以心伝心だか、阿吽の呼吸だか知らないけど、まさか偶然二人が同じ時間に起きる。そんなことが起こるなんて、隆は思いもよらなかった。

「俺もちょっと目が覚めたから、もう一度寝ようとしてたところ」

「お前もか!?すごいな!俺達って息合ってるのかもな!」

それは今俺も思ったことだよと隆は思った。そして、亮のテンションが上がった。耳が痛い。しかし、亮はそのまま話し続ける。

「ところでさ、今日学校休みだろ?どっか行かないか?」

隆はそれも悪くないと思ったが、昨日のメールのことを少し調べたいと思ったので、

「ごめん。ちょっと調べたいことがあるから今日はやめとくよ」

「なんだ?女か?」

亮は笑いながら言った。そのまま笑い声が聞こえてきた。

「違うよ」

隆は冷めた声で言い返してやった。

「あれ?冗談だったのに。冷たいなぁ…まぁいいや、じゃあまたな!」

亮の声は笑っていた。隆は、本当に冗談かよ。と思った。そして、「またな」と言うと、そのまま電話を切った。

隆はすっかり目が覚めてしまった。少し迷惑な電話だったが、不安になっていた隆の気持ちは和らいでいた。隆にとって亮という存在は欠かせないものであると改めて認識することができた。

 隆が再び眠りに入ったのはそれから30分後だった。すぐに横にはなったが、1度目が覚めてしまったので、なかなか寝付けなかった。しかし、ある時を境にして急に意識が遠のく感じがするとすぐに眠れた。


 次に目が覚めた時、時間はすでに12時を回っていた。学校が休みだと起きる時間はだいたいこのくらいである。

体を起こすと真っ先にパソコンの電源を入れた。起動するまでの間に顔を洗いに行き、食パンをトースターにセットした。

 しばらくして、トーストをかじりながらインターネットを開いた。そして、あのメールについて検索してみた。

しかし、全く関係のない検索結果はたくさん出てくるけれど、あのメールに関する結果が全く出てこなかった。

「やっぱりただの迷惑メールなのかな」

 その後も調べ続けたが、あのメールに関する情報は全く出てこなかった。あんな奇妙な迷惑メールなら1つくらい出てきても不思議ではない。まるで誰かに目的の内容だけ消されたかのように何も出てこなかったのだ。

「これだけ調べてなかったらもうないな。ただの迷惑メールだ」

そう決め付けると、パソコンの電源を切った。

 特にすることがなくなったので、とりあえず起きてからも閉めっぱなしだったカーテンを開けた。すると外の景色が夕焼けで真っ赤に染まっていた。とても不気味な夕焼けだった。窓ガラスに映る自分が血まみれになっているように見えた。隆はその瞬間ゾクッとして、慌ててカーテンを閉めた。外からはカラスの鳴き声が聞こえていた。

 急に辺りが静かになった。心臓の鼓動が聞こえるくらい静かであった。呼吸が荒くなり脈が速くなる。

「恐い?まさか…あれはただの迷惑メールだ。偶然、偶然!これは心理的な問題だ」

そう自分に言い聞かせると、少し脈が落ち着いた。そして、そのまま夕食の支度を始めた。

 夕食を食べ終えると、すぐに寝る準備を始めた。時計を見ると、まだ午後9時を回ったところであった。

「どうしよう…もう寝るか」

隆はあのメールのことが気になっていた。2日も続けて同じ時間に届いたのだ。今日もまた届くかもしれない。

「でも、もう受信拒否にしたしな」

そう、あのアドレスからのメールは受信拒否に設定しているのでもう届くはずがない。しかし、隆は1つ不安なことがあった。

「違うアドレスから届くかもしれない…」

送り主がアドレスを変えて送信すればメールは問題なく届く。しかし、もし違うアドレスから届くのであれば逆に安心できる。誰かのイタズラだとわかるからだ。

では、もし同じアドレスから届けば?だがそんなことはありえない。

たくさんの考えが頭の中をぐるぐる回っている。頭が痛くなりそうだった。

「あんまり考えていても体に悪そうだ。もう寝よう」

ベッドに入って横になった。すると、すぐに意識がなくなった。



 翌日、隆が目を覚ましたのは午前10時を回ったくらいだった。今日、学校は昼過ぎからだけなので少し遅い起床だ。

そして、ケータイを開くと『2件の新着メール』と出ていた。その瞬間ビクッとした。あれ以来メールを見るのに少し抵抗するようになった。

「迷惑メールは受信拒否にしたし届くはずがない。誰からだろう?」

1件は亮からだろうと思い内容を確認した。だが隆の顔はすぐに青ざめた。

『 ○○○□□□@△△△.ne.jp

  件名:なし

  04/07 23:53

  本文:あと3日。     』

あの迷惑メールが届いていたのだ。

「なんで?受信拒否にしていたのに…」

しばらく固まってしまった。我に返るとすぐに届いたメールのアドレスと拒否したアドレスを見比べた。

「同じだ…」

隆は泣きそうになった。拒否したアドレスからメールが届く、そんなことがありえるのか?しかし、実際起こってしまっている。隆はどうしたらいいのかわからなくなってしまった。

 しばらくの間、放心状態だった。何も考えられない。ただ、じっと正面を見ていた。そして、顔を下に下ろしてケータイの画面を見ると、もう1件メールが届いていたことを思いだしたのだ。手が震えていた。その手で恐る恐るボタンを押し、メールの内容を確認した。

『 サークル

  件名:☆飲み会のお知らせ☆

  04/08 08:07

  本文:突然だけど、今日の夜空いてる人は7時に○○に集合!!

     久しぶりに飲み会やります♪             』

サークルから飲み会の誘いだった。ふぅっと息を吐くと、安心したのか、肩の力が抜けて、手の震えも止まっていた。

隆と亮は大学でサークルに入っている。イベントサークルらしいが、実際は飲み会くらいしかやっていない。しかも今回みたいに何の予告もなく当日になって急に活動の連絡がくる。

「ホント困ったサークルだよ」

そう言いつつも隆はこのサークルが大好きだった。メンバーはそんなに多くないが、その分団結力が強く、そして何より皆で一緒にいて楽しかった。今日の飲み会も、もちろん参加するつもりだ。

 その後、隆は自分のアドレスを変更して、アドレス帳に載っている皆にアドレス変更の連絡メールを送った。

「これでもう安心だ」

受信拒否にしても届くのは会社側の不手際だと思い込むことにした。こういう時こそプラス思考でいるのが大事だと思った。

「今度会社に文句言ってやる」


 2時半過ぎに隆は家を出た。空を見上げると雲1つない青空だった。これを見ていると、心の曇りもなんだか晴れるような気がした。そして深呼吸をした。森で深呼吸した時のようにはいかないけれど、気分がすっきりした。

「さて行くか!」

 歩き始めて少しすると、

「おーい!市原―!」

亮の大きな呼び声が聞こえた。声の聞こえる方に向かうと、亮が歩いていた。今日は一段とお洒落な服装をしていた。さすがの隆もこれには驚いた。

「どうしたんだ、その服?」

「それはもちろん、今日飲み会があるからに決まってるだろ!…ん?」

すると、今まで笑っていた亮の顔が急に険しくなった。

「お前、何かあったか?」

「どうしたんだよ?急に」

「顔色がいつもより変だぞ?」

隆は、メールのことをもう気にしないことにしているのだが、顔に出ていたのかもしれない。それにしても亮はそんなことまでわかるのか。と思ったが、心配させるわけにはいかないと思ったので、

「別に気のせいじゃないかな?」

と答えた。

「でも、やっぱり顔色がいつもと違う。そういや、さっきアドレスも変えてたみたいだし、やっぱり何かあったろ?」

亮がさらに鋭い指摘をしてきた。しかし、隆は嘘をついた。

「うーん…あ、あれかな?さっき朝飯作るのを失敗したんだよ。そのせいかも」

隆は笑った。そうすれば亮が信じてくれると思ったからだ。ごめん、亮。と、心の中で思った。

「そうだったのか!でも、そんなことでわざわざアドレス変えるか?」

「変えたら悪いか?」

すると、亮が笑った。

「そんなことでいちいち変えられてたら、こっちは大変だな!」

隆はポンッと肩を叩かれた。そして、亮が話しを続けた。

「そうだ、お前も飲み会行くよな?」

「当たり前だろ!行かなかったらメンバーじゃないだろ?」

「言うねぇ」

二人の目が合った。その瞬間、二人は大笑いをした。周りを歩いてる人が一斉に振り向いた。でも、そんなことは関係ない。二人は笑い続けた。

 教室に着くと、広い教室にぽつり、ぽつりと数人の生徒が座っているだけだった。教室を間違えたのかと思うくらい寂しい教室だった。

「ちょっと来るのが早かったのかな?」

亮が聞いてきた。隆が、

「そんなことはないんじゃないかな?」

と返事をすると、

「だよな」

と亮は答えた。

それにしても、こうも数が少ないと逆にどこに座ればいいのか迷ってしまう。とりあえず二人はいつも通り真ん中の方の席に座ることにした。

「こんなに広い教室なのに、これだけの人数ってもったいないよな」

「うん。次から教室変更だろうな」

 二人がそんなことを話していると少しずつ生徒が入ってきた。席が少し埋まる。そして、すぐまた違う生徒が入ってくる。気がつけば、さっきまで全く人がいなかった教室なのに、いつの間にか人がいっぱいになっていた。

「変更はなしだな」

「だな」

二人は軽く笑った。するとチャイムがなった。しかし、たくさんの話し声が静まる気配はなかった。

 10分くらい経った。しかし、先生が来ない。休講ではないのかだとか、先生が教室を間違えているのではないか、などと様々な推測の声が聞こえてきた。さらには教室を出ていく者もいた。

すると、先生が教室に入ってきた。教室が少し静かになった。女の先生である。黒の長髪で、顔は少し老いた感じのする先生だった。それにしても、ずいぶんと遅い到着だ。先生は教壇の前に立つとマイクの電源を入れて、

「ごめんなさい。ちょっと忘れ物をして取りに戻っていました」

それを聞くと、また教室が騒がしくなった。

隆は亮のことが気になって亮の顔を見た。しかし、意外なことに亮は普通の顔をしている。むしろ少し笑っていた。隆は不思議に思ったので尋ねてみた。

「あの先生心配じゃないのか?」

「ん?別に」

意外な返答だった。さらには、何でそうなの?とでも言いたそうな顔までしていた。隆にとって、それは全く意味がわからなかった。

そして、隆が困った顔をしているのを見て亮がクスクス笑い始めた。

「お前、俺がそんな誰にでも心配する訳ないだろ」

亮は笑いをこらえるのに必死のようだ。そんな亮を見て隆は言い返した。

「でも、あの先生忘れ物して遅刻したじゃないか」

「それだけだろ」

隆は不思議に思った。亮は一体誰の何を見て、心配するかしないかを決めているのだろう。深く考え込んでしまった。

「あの先生は大丈夫だって!」

そんなに自身たっぷりに言われると、隆はもう何も言えなくなった。

 その後、授業は何の問題もなく終了した。それにしても、亮の感覚には何か超越したものがあると隆は感じた。

 授業が終了してすぐ二人は集合場所に向かった。学校からはすぐ近くの場所である。一刻も早く皆に会いたい。二人の心はそんな気持ちでいっぱいだった。

「皆来てるかな?」

「欠席するような人いたか?」

「いないな」

 二人は集合場所に到着した。しかし、どうやら全員はまだ集合していないようだった。でも、来た順番は二人にとってちょうどいいくらいだった。

「斉藤、市原、到着だな!」

サークル長の声が聞こえてきた。低い渋めの声だ。面倒見もよく、とても頼りになる人で、皆から信頼されている。しかし、今回のように何の予告もなく突然の思いつきで活動をするので、少し困った部分もある。

 その後すぐ全員集合した。

「よし!行くかー!」

サークル長が大きな声で言った。そして、歩き始めた。全員それに続いて歩きだす。今日行くお店は、サークル長お気に入りのお店だった。食べ放題、飲み放題のお店で価格も安く、食事もおいしい。俗に穴場と言うやつだ。

「いらっしゃいませ!」

お店に入ると、店員が元気よくニコッと笑って迎えてくれた。このサークルはここの店の常連でもある。元々サークル長が常連だったのだが、サークルの飲み会に使うようになってからはサークル自体が常連になったのだ。だからほとんどの場合、この店にお世話になっているのだ。

 「カンパーイ!」

全員でグラスを合わせ、ビールを一気飲みする。これが飲み会の始まりの合図みたいなものだ。このサークルのメンバーは皆、酒が強く、これくらいでは全く酔わない。いつも誰が最後まで残るか競争している。

隆と亮も酒が強かった。メンバーの中でいつもかなり最後の方まで残る。しかし、いつも最後まで飲んでいるのは、やはりと言うべきか、サークル長である。

二人は今日こそ最後まで残るぞと、気合いを入れた。

 途中からはトイレに行く者、横たわる者と、だんだん脱落者が増えてきた。気付けば隆と亮とサークル長の三人だけになってしまっていた。

「今日は負けませんからね」

「お、二人とも俺と張り合う気か?いいだろう」

三人のペースが上がる。サークル長はまだまだ余裕の表情だ。

 それから何杯飲んだかわからなくなったくらいに隆が脱落した。

「もう駄目だ…」

その姿を見て亮も倒れてしまった。その二人を見て、サークル長が勝ち誇ったような顔をして、

「よし、今日はこれくらいにしておいてやろう」

サークル長のこの声でいつも勝負は終わる。

「チクショー!」

二人は声をそろえて叫んだ。それにしても、サークル長は不死身ではないのかと思わされた二人であった。

 すっかり酔いつぶれてしまったが、その後のカラオケは絶対参加だ。そして、朝まで歌い続ける。これもまた結構ハードである。

メンバーがカラオケボックスに入ったのは午後11時過ぎだった。

最初にマイクを持って歌い始めたのはサークル長である。

「あの人ほんと不死身だよ」

格の違いを見せ付けられたようだった。隆と亮は、互いに顔を合わせて苦笑いした。そして、もうこの人に勝負を挑むのはやめようと思った。

 次第に皆の酔いが醒め、カラオケも盛り上がってきた。しかし、隆が「次は自分の番だ」と言ってマイクを持ったその時。

ピピピ、ピピピ。ピピピ、ピピピ。

突然、隆のケータイが鳴り出した。

「市原、ケータイ鳴ってるぞ」

テーブルに乗っていた隆のケータイを亮が隆に渡した。

「誰だよ、こんな時に…」

もうすぐ曲が始まってしまう。隆は素早くケータイを開いて内容を確認した。そして、すぐに隆は固まってしまった。

『 ○○○□□□@△△△.ne.jp

  件名:なし

  04/08 23:53

  本文:あと2日。     』

曲が始まる。しかし、隆は固まったままだ。

「おいおい、どうした?曲始まってるぞー!」

隆には何も聞こえていなかった。どうしたらいいのかわからなくなっていた。そして、突然マイクが手から落ちて床に当たった。

ガンッというとても大きくて、耳が痛くなるような音が部屋中に響いた。全員思わず耳を塞いでしまった。

「何やってんだよ!」

皆が怒り出した。無理もない。あんな音がすれば誰でも怒るだろう。

「うるさい!」

突然、亮が怒鳴った。皆はその声に驚いて黙ってしまった。亮は唯一、隆の異変に気付いていたのだ。

「どうしたんだ、市原!?何があったんだ?おい!聞こえてるのか?」

亮から見て、隆の顔は暗く沈んでいた。まるで今から死ぬ人のような顔をしていた。そんな隆に亮は必死で呼びかけ続けた。

その結果、隆と亮の目が合った。その時、隆は気を取り戻した。そして、無言で亮にケータイの画面を見せた。

「あと2日?何だ、これ?」

「わからない…毎日送られてくるんだ。しかも、1日ずつ減っている」

亮も含め皆、不思議そうな顔をしている。

「こんなメール、誰かのイタズラだろ?」

「俺も最初はそうだと思った。でも…送られてくるアドレスを拒否にしても、自分のアドレスを変更しても届いたんだ」

「え…じゃ、じゃあ、お前が今朝アドレス変えたのって…?」

部屋にいる全員が息を飲み込んだ。

「そうだよ。このメールのせいだ」

 その瞬間、全員の顔が青ざめた。そして、それやばくないか?などと、真面目に心配する者、じょ、冗談だろ?など、信じようとしない者の2通りに分かれた。亮は当然、前者だった。

「このメールはいつから届いているんだ?」

「3日前からだよ…」

「何でもっと早く教えてくれなかったんだよ!」

「俺だって最初は普通の迷惑メールだと思ったんだよ!そんなこと話しても笑われるだけだろ?」

「そ、それは…」

亮が下を向いて黙り込んでしまった。隆が話を続ける。

「次の日に届いた時、1日減ってたから、おかしいと思ってアドレスを拒否に設定したんだよ。でも、また次の日に同じアドレスからメールが届いた」

「それでアドレスを変えたのか?」

「そうだよ。拒否にしても届くのは会社側の不手際だと思った。いや、思い込むようにしたんだ」

「でも、今日になってまた届いてしまった?」

「うん…もうどうしたらいいのか、わからないんだ!」

隆は頭を押さえて俯いてしまった。皆がそんな隆を見つめていた。そして、それと同時に曲が終わってしまった。

 その後、サークル長が沈んだ隆を励まそうとして一生懸命場を盛り上げた。それを見て隆は少し元気になったような気がした。

そして、フリータイムの時間が終了してサークルはお開きになった。

「何かあったら助けになるよ」

解散するときに皆が隆にそう言ってくれた。その言葉が隆にとって、どれくらい励ましになったことであろうか。隆は思わず泣きそうになってしまった。

 帰り道、隆と亮は二人で歩いていた。そして突然、亮が何かを思い出したかのように話し出した。

「そういや、日数が減ってるって言ってたけど、当日がきたらどうなるんだろう?」

「それがわからないんだ。ネットで調べても全く出てこなかった」

「そうか…でも、そんな奇妙なメールだからきっと何か起こるんだろうな」

「やめてくれよ。余計恐くなるじゃないか!」

隆は少し怒った。まさか亮がそんなことを言うとは思ってもみなかったのだ。しかし、そんな隆をよそに亮はニコッと笑った。

「いい事が起こるかもしれないじゃないか!」

「え?」

隆の目が丸くなった。奇妙なメールだったから、今まで恐いイメージしかなかったが、よく考えてみると、そういうこともあるのかもしれなのだと思った。

「そうか!そうだよな?」

「そうそう!こういう時は前向きに考えた方が、気が楽だろ?」

「だな!」

隆は何だか体が軽くなった気がした。何も解決した訳ではないけれど、隆は亮に心から感謝した。

 しかし、亮から次に発せられた言葉が隆を少し混乱させたのだ。同時に亮の注意力の高さに、いつも以上驚かされることになった。そして、

「あのさ、市原。あの後のことなんだけど…」


「じゃあな、市原。何かあったらすぐ呼んでくれよ!」

「ああ!ありがとう、亮。じゃあな!」

家の前で亮と別れた。太陽がすでに昇りかけていた。曇りきった心を晴らしてくれるようなくらい綺麗な朝日だった。

 鍵を開けて家に入いると、いつもの狭い部屋があった。鞄を床に置いてベッドの上に寝転がった。そして、メールのことを考え始めた。

よく考えると、そもそもあのメールは一体何なのだろう?日数が0になると本当に何か起こるのだろうか?それさえわからない。

もし本当に何か起こるのなら、亮が言ったようにいいことが起こればいいなと隆は思った。

そんなことを考えていると、いつの間にか眠っていた。



 隆が目を覚まして時計を見ると、時刻は午後4時を回ったくらいだった。

「やばい、寝すぎた」

今日は土曜日。もちろん学校はない。だから隆は、1週間で散らかった部屋をいつも土曜日に片付けていた。しかし、もう夕方だ。

「とりあえず、ゴミだけ片付けよう!」

部屋中に散らかったゴミを拾い始めた。それにしてもたくさんゴミが落ちている。何でこんなにもゴミがあるのか、隆は自分でも不思議になった。

 そしてゴミ拾いを始めて少し経ったくらいに、

ピンポーン!

家のチャイムが鳴った。誰かが来たのだ。

どうせまた何かの勧誘だろうと思いながら、手に持っていたゴミ袋を床に置き玄関に向かった。

「はい、どちら様ですか?何かの勧誘ならお断りですよ」

外からの反応はなかった。イタズラか?そう思って、のぞき穴から外を見ようとしたその時、

「あ、あの、えーっと…鈴村です。市原君?」

「鈴村さん!?」

隆は慌てて外を見た。すると、そこに立っていたのは間違いなく鈴村恵(すずむらめぐみ)だった。サークルの女の子の中でダントツに可愛くて、皆のアイドル的存在の彼女だ。しかし、そんな彼女が何故自分の家に着たのだ?隆はそう思った。

「ちょっと待って。すぐ開けるから」

ドアを開けた。すると目の前に恵の姿が現れた。肩にかかるくらいの長さの髪で色は少し茶色がかっている。小さな顔で大きな目が特徴的である。いつ見ても可愛いと思った。

しかし、今日はその顔が曇っている。何かあったのか。

「どうしたの?急に」

「市原君に相談があるの」

「俺に相談?」

恵は、うん。と言うと下を向いて少し黙り込んでしまった。

 沈黙が続いた。隆はその沈黙に耐え切れなくなってしまった。

「玄関で話すのもなんだから、とりあえず中入る?」

「いいの?」

「鈴村さんがいいなら、俺は全然構わないよ。ちょっと散らかってるけど」

隆は顔が赤くなった。

「それじゃあ、お言葉に甘えて。お邪魔します」

二人は家に上がった。そして中に入って恵から出た第一声は、

「本当に散らかってるね」

だった。隆はかなりショックを受けた。無意識に「ごめん」と言ってしまった。

そんな隆を見て恵みはクスクス笑いだした。

「笑わないでよ」

「ご、ごめんなさい。市原君の普段と違う面が見れたなぁって思ったら少しおかしくなっちゃって」

隆はドキッとした。同時に顔が赤くなってしまった。そして、それを隠すように話題を戻した。

「それで相談っていうのは?」

恵の顔が再び暗くなった。

「う、うん…でも、先に部屋掃除したくなっちゃった」

「え?」

 恵のおかしな提案で先に部屋の掃除をすることになった。隆は変な物が出てこないか心配だった。常に恵の行動を監視しながら掃除をした。

「それにしても男の子の部屋って感じだね」

急に恵が話しかけてきた。

「そう?」

「うちの弟の部屋もこんな感じだもん」

「鈴村さんって弟いたんだ」

「そうだよ。2つ下の弟がいるの」

「羨ましいね」

隆はとても小さな声で言った。

「え?何か言った」

「いや、何も」

隆は一人っ子だった。だから兄弟のいる恵が羨ましく思った。

 話をしていると、いつの間にか部屋は綺麗になっていた。最初の時とは見違えるほどだった。

そして、隆は今度こそと思い恵に話しかけた。

「最初の話題に戻すけど、相談って言うのは?」

恵は大きく息を吐いた。そして、何かを決心したかのように、

「実は、これを見てほしいの」

そう言うと、恵みは自分の鞄の中からケータイを取り出してその画面を隆に見せた。その瞬間、隆は凍りついてしまった。

『 □□□○○○@△△△.ne.jp

  件名:なし

  04/08 23:51

  本文:あと1日。     』

あのメールだった。しかし、アドレスが隆に届いたものとは違った。

「こ、これってまさか?」

「うん、市原君のと同じメール。私も届いてたんだ」

隆はこれと同時に亮が昨日の帰り道に話していたことを思い出していた。


 「あのさ、市原。あの後のことなんだけど、サークル長が皆を盛り上げてくれてる時一人だけずっと深刻な顔をしていた子がいるんだよ」

「誰?」

「鈴村さん」

「皆のアイドルのあの鈴村さん!?」

「そうだ」

「でも、彼女が何でそんなに深刻な顔をするんだ?」

すると亮は、まるで探偵にでもなったかのように少し考えるような仕草をした。そして、何かを思いついたような表情をして、

「彼女はお前のメールを見て深刻な顔になった。だから」

「だから?」

「鈴村さん、お前に興味があるんじゃないか?羨ましいな、おい!」

「本当かよ!」

「冗談だ」

隆は少しムカッとした。こんな時に冗談を言っている場合じゃないだろうと亮に文句を言った。

「すまん、すまん。それで思うんだが、もしかして彼女にもお前と同じ、あるいは似たようなメールが届いてるんじゃないかな?」

「ま、まさか。そんなはずないだろ?冗談はよせって言ったろ」

「これは本気だ。まぁあくまで推測だけどな」

「推測だけだと信じておくよ」


帰り道に亮はこんなことを言っていたのだ。そして、その推測が本当に当たってしまったのだ。

「しかも、これ終わるの今日じゃないか!」

「そうなの…でも、どうせ信じてもらえないと思って誰にも言えなくて」

恵の目には涙が溜まっていた。隆はその気持ちが痛いほどわかった。

「そうしたら、昨日サークルの時に市原君にも同じメールが届いてるってわかったから…」

「俺の所に来た訳か」

「うん」

「でも、何であの時に言わなかったんだ?」

「だって、あの場面で言ったら、余計皆が心配するじゃない。私、皆に心配かけたくないよ…」

恵は泣き出してしまった。隆はその姿を見ていることしか出来なかった。一体誰がこんなことをしているのか。隆は下唇を噛締めた。しかし、とにかく彼女を安心させてあげないといけない。

隆は亮が言っていたように前向きに考えるように恵に話しかけた。

「日数減ってるけど、もしかしたらいいことが起こるかもしれないじゃないか!だから前向きに考えような?」

恵は泣くのを中断した。そして、まっすぐ隆を見つめた。

「本当?」

「だってそう考えたらワクワクするじゃないか!だから俺もそう考えるようにしたんだよ」

「そうだよね。後ろ向きにばっかり考えてちゃ駄目だよね!」

恵に明るさが戻った。隆はホッとした。とにかく恵が悲しむ顔を見たくなかった。彼女を笑顔にし続ける。それが今自分にできる最大の仕事だと隆は思った。

 しばらく話していると、隆はふとあることを思いついて、不覚にもそのことを恵に話してしまった。

「今日は時間までどうするの?」

「え?」

恵は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をした。隆はしまったと思い、思わず手で口を塞いでしまった。

「う~ん…」

恵が考え込んでしまった。しかし、すぐに答えが出たようで隆の顔をみてニコッと笑った。

「市原君、一緒にいてくれる?」

恵の予想外の返事に隆は驚いてしまった。まさか恵が自分と一緒にいてほしいと言うなんて思ってもみなかったからだ。

「本当にいいの?」

「いいよ。だって、他にわかってくれる人いないし」

そして、隆は少し考えてから、

「わかった。もし何かあったら、俺が必ず鈴村さんを守るよ!」

「うん、ありがとう」

恵は笑って答えた。しかし、すぐにその表情が曇ってしまった。

「でも…何もない方がいいんだけどね」

「そうだね」

 少しの間、二人は沈黙したままになってしまった。隆は恵を不安にさせてはいけないと思ったが、なかなかいい言葉が見つからない。それでも何か話さないといけないと思ったので、

「本当に俺でよかったの?」

ついこんなことを尋ねてしまった。

「え?」

隆の体に空気が重くのしかかる。

「いや、一緒にいるのが本当に俺でよかったのかなって思ったから。ごめん、こんな時に」

隆は俯いてしまった。もう駄目だ。そう思った瞬間、恵が突然さっきと同じようにクスクス笑い出したのだ。

「市原君って、やっぱり面白いね。前からずっと思ってたんだ」

恵の言葉で隆は顔を上げた。恵は笑っている。そして、何かを思い出すかのように軽く見上げた。

「サークルには、いつも斉藤君と楽しそうに参加している。二人一緒にサークル長と並んでお酒を飲んでたり、カラオケでもいつもは熱唱してたりしていた」

隆はその話に聞き入っていた。

「でも、この前は違ったけどね」

恵は少し苦笑いになった。隆もそれに合わせて苦笑いした。

「ずっと見てたんだよ」

「え?」

思わず言葉が出た。そして、恵は真剣な目で隆を見つめ直した。隆はゴクリと唾を飲みこんだ。

「私、市原君の…」

恵がそう言いかけた瞬間、

ピンポーン!

間の悪いことに、突然チャイムが鳴った。恵は思わず黙り込んでしまった。隆は、誰だよ、こんな時に、と小さく呟きながら、玄関に向かった。

「どちら様ですか!?」

隆は少し強い声で呼びかけた。

「斉藤ですけどー?お前、何か声が恐いぞ。どうした?」

ドアの向こうにいたのは亮だった。隆は少しため息をついてからドアを開けた。

「お!開いた、開いた」

いつも通りの亮だった。しかし隆は、今日そんな亮を見て自然と不満な顔になってしまった。そんな隆の顔を見て、

「どうした、市原。顔色が悪いぞ?」

「間の悪いやつだよ。お前は」

「え?」

亮は不思議そうな顔をしていた。何でそんなことを言われるか、わからないような顔だった。

亮は玄関を覗き込んできた。そして、明らかに隆の物とは違う靴があるのに気がついた。

「お客さん?」

隆は少し考えてから返事をした。

「そうだよ」

「その靴を見るに女だな。あんなメール届いてる割にはしっかりしてるじゃないか」

亮はフフンと笑い、隆を下から覗き込んだ。

「せっかく励ましに来たのに、俺はお邪魔だったかな?」

ああ、邪魔者だよ。と隆は心の中で思った。しかし、すぐにその考えが変わった。

「それじゃあ俺は帰るとするよ。じゃあな」

亮が振り向いて歩き出そうとした時、隆が呼び止めた。

「待ってくれ!」

その言葉で亮は歩くのをやめて、顔だけこっちに振り向いた。

「何だ?」

「今日、一緒に家にいてくれないか?」

「え?」

亮は驚いた顔をした。すっかり自分は邪魔者だと思っていたのに、突然一緒にいてくれと言われたことに驚きを隠せなかったのだ。

「何でまた?」

「事情は中で話す。だから、とりあえず中に入ってくれ」

亮は不思議そうな顔をしたまま家の中に入った。そして、隆の部屋の中にいた人物を見て、とても驚いた。

「鈴村さん!?」

言葉が止まってしまった。隆の部屋にどうして恵がいるのかわからなかった。二人に関わりがあったのか?そんな考えが頭の中をぐるぐる回っていた。

「こんにちは」

恵がニコッと笑い挨拶をした。亮も「こんにちは」と挨拶をした。

 亮が床に座ると、隆は全てのことを亮に話した。恵にも隆と同じメールが届いていたことや、今日は一緒にいてほしいと言われたことも。すると、亮は自分が呼び止められた理由を全て理解したような顔をした。

「もし何かあっても、一人より二人の方が鈴村さんを守りやすいってことだな?」

亮は隆の耳元でそう言った。それを聞いて、隆は亮の理解力に感心した。事情を話しただけで自分の考えに気付いてくれた。さすが亮だと思った。

そして、亮はケータイを取り出し、どこかに電話をかけた。

「…そういうことだから」

しばらく話して亮は電話を切った。どうやら今晩家に帰らないことを連絡していたようだ。

「ありがとう」

隆はお礼を言った。

「いいって、いいって。二人にそんな奇妙なメールが届いたんだ。放っとく訳にはいかないだろ?」

「ありがとう」

恵もお礼を言った。恵の顔を見て亮はニコッと笑った。

 しかし、具体的にどうすればいいのか三人ともさっぱりわからなかった。前に隆が一人でインターネットを使って調べた時は何もわからなかった。

もしかしたら今度は何かわかるのではないかと思った隆は、自分のパソコンの電源を入れた。

「どうしたんだ?急に」

その行動を不思議に思った亮が尋ねた。

「前は何もわからなかったけど、今度は何かわかるかもしれないから一応調べてみようと思うんだ」

「それで何かわかれば、どうすればいいのかわかるものね」

「ああ、そうだな」

 パソコンが起動するまで2分とかからないのだが、その時間が三人にはとても長く感じられた。時刻は午後5時ちょうどだった。時間まではまだ7時間近くある。調べるには十分だった。

 パソコンが起動した。隆はすぐにインターネットをつけた。

「何て調べたらいいんだ?」

隆は悩んだ。あのメールを不幸のメールと決めつける訳にはいかない。どんなメールかもわからないのだ。検索方法がわからなくなった。

「とりあえず、内容を断片的に検索すればいいんじゃないか?」

亮が考えた顔をしながら答えた。

「例えば、日数、減る、メールとか?」

隆は言われた通りに打ち込んで検索してみた。すると自分達がほしい情報とは全く関係のないページがたくさんヒットした。

「駄目だな。こんなにあったんじゃ探しようがない」

「ブログ検索とかしてみたら?もしかしたら誰か日記に書いてるかも」

今まで黙っていた恵が急に言った。

「そうか、その手があったか」

隆はその検索をブログだけヒットする検索に切り替えた。すると、15件くらいに絞られたのだ。

「よし、これなら1つずつ見ていけるぞ」

隆は順番に開いていった。最初は全く関係のない日記だった。次も、その次も。そして、もう駄目かと思ったその時、あるページでその手が止まった。


奇妙なメール

 一昨日、変なメールが届いた。本文に「あと5日」とだけ書かれたメールだった。最初はただの迷惑メールだと思って削除したのだが、次の日になると全く同じ時間に同じメールが届いたのだ。しかし、よく見ると本文が「あと4日」に変わっていることに気がついた。俺は恐くなって、アドレスを変更した。

しかし、今日になるとまた同じメールが届いたのだ。今度は「あと3日」と書いてあった。

俺はどうすればいいのかわかりません。何か知ってる人がいれば教えてください。お願いします。


「同じだ」

隆が驚きながら言った。しかし、日記には自分達がわかっている情報しか載っていなかったので、少し残念だった。すると、真剣に画面を見続けていた亮が、

「いくつかコメントがついてるぞ。誰か何か知っている人がいるかも!」

隆は画面をスクロールさせた。コメントが出てくる。

 しかし、コメントはサークルの皆の反応と似たようなものばかりだった。さらに読み進めていくと、突然亮が、

「ちょっと止めてくれ!」

隆はスクロールするのをやめた。

「何か気になるコメントでもあったのか?」

「うん。たいしたコメントじゃないんだけど、このコメントが気になって」

そう言って亮が指差したコメントには、

『何それ!?何かのカウントダウンみたいで恐いな…』

それだけが書かれている。隆と恵は不思議そうな顔をして亮の顔を見た。

「これがどうかしたのか?」

「こんな時になんだけど、メールの呼び方はこれがいいかなって思ったから…その、ごめん」

亮は俯いてしまった。その姿を見て、隆と恵は互いに顔を合わせた。そして、二人揃って笑い出した。

「確かにあのメールじゃ変だもんね!」

「何か呼び名がほしかったところだ!」

亮は顔を上げた。

「じゃ、じゃあ名前はこれから取って『カウントダウン』でいいかな?」

「カウントダウン。それでいこう!」

「幸せのカウントダウンでありますように」

恵は手を合わせて祈った。あと数時間後には、恵のカウントダウンがゼロになってしまうのだ。それを思った隆も祈るように手を合わせた。

 結局、他のコメントにもこれといって情報はなかった。少しため息が出た。しかし、自分達以外にも届いている人がいるとわかっただけでも進歩したと思った。

「名前が決まっただけか」

「とにかくもっと調べてみようよ」

三人はさらに検索画面を見た。しかし、残りはあと2件しかなかった。とりあえず、1つ目のページを開いた。だが違った。

「次でラストだ」

隆はそう言うと最後のページを開いた。しかし、そのページも違った。

「これで終わりか…」

隆は肩を落とした。

「他に手はないのか?」

「あるとすれば掲示板からひたすら探すしかないだろうな」

亮は答えた。隆が恵の方を向くと恵みは軽く頷いた。

「よし!探すか!」

隆は有名な掲示板を開いた。しかし、やはりと言うべきか、掲示板には数え切れないくらいの量の書き込みが存在した。

「とりあえず的を絞ってみよう」

ブログで検索した時と同じように検索をした。すると、大量の検索結果が目の前に現れた。

「これを1つずつ見ていくのか!?」

隆は思わず画面から体を離してしまった。

「見ていくしかないだろう」

亮はそう言うと、画面から離れた隆の背中を押してもう一度隆の体を画面の側にもっていった。

三人は掲示板を順番に見ていった。



 「駄目だ。何も手がかりがない」

あれから4時間近く探したが、手がかりは全く見つからなかった。三人ともくたくたになってしまった。時刻は午後9時を回っていた。

「これだけ探したのに見つからないなんて、本当にないのかもしれないね…」

恵が諦めるような顔をして言った。それに追従するように隆が、

「これ以上やっても変わらない気がするよ」

ため息をついて俯いてしまった。そんな二人を見た亮が、

「とりあえず休憩しよう。そうだ、二人とも腹減ってないか?」

そう言われると二人は自分のお腹の辺りに目をやった。そして、顔を上げて亮の方を向いて頷いた。

「よし、じゃあ飯食おう!市原、何かあるか?」

「え?」

隆は驚いた顔をした。そして、慌てて冷蔵庫の中を確認しにいった。

「ごめん…何もない」

隆は目をパチパチさせていた。目でごめんと言っているようだった。それを見て亮は笑った。つられて恵も笑ってしまった。

「そんなことだろうとは思ってたよ」

「皆で何か買いに行こうよ!」

恵はそう言うと立ち上がった。

 三人は家を出て、近所のスーパーに向かった。そこは隆の家から歩いて5分くらいの場所にあった。

「こんな近くにスーパーあったんだな」

亮は驚いていた。

「あれ?知らなかったっけ?」

「うん、初めて来た」

「私も初めて来たよ」

「じゃあ、意外と皆知らないんだな」

 三人は中に入ると何を作るかで話し合うことにした。

「こういう時は鍋だよな?」

亮が尋ねた。隆と恵は互いに顔を合わせてから亮の方を向き頷いた。

「じゃあ決まりだな」

すると三人は、野菜や肉など、鍋に必要な材料と、缶ビールや缶チューハイなどのお酒を籠に入れてレジに向かった。そして亮が、

「俺が全部出すよ」

「そんなの悪いよ。私も出す」

「いいって、いいって」

そう言うと、亮は全額自分で支払った。そして会計が終わると隆が、

「本当によかったのか?出さなくて」

「気にしなくていいって。たまにはカッコイイとこ見せないとな」

亮は笑顔でそう言った。隆は、流石と言うと一緒に笑った。しかし、恵だけは不満そうな顔をしていた。

 家に帰ると早速鍋の準備を始めた。ここでも亮が手際よく手を動かしていた。

「凄い…」

その姿に恵が驚いていた。

「こういうのは慣れてるんだ。家でもしょっちゅうやってるからね」

「何かカッコイイね!」

恵の目は、キラキラ輝いていた。それを見た隆は、少し不満げだった。確かに亮はしっかり者だから便りになる。でも今回だけはそのことを恨んだ。

 しばらくすると、鍋が出来上がってきた。ぐつぐつと鳴っている鍋はとても美味しそうに見えた。

「もういいんじゃないかな?」

「そうだな。もういいだろう。よし食べよう!」

そう言うと三人は缶を開けた。そして、亮が立ち上がって、

「どう言ったらいいかわからないけど、とりあえず鈴村さんにいい事がありますように。てことで乾杯!」

「乾杯!」

カンッという音がして、三人の缶がぶつかった。恵もいい事があるようにと祈りながら乾杯をした。

そして、一斉に鍋に手が伸びた。隆と亮は互いに取り合いをしていた。その姿を見て恵はクスクス笑っていた。

「市原君と斉藤君って本当に仲がいいんだね」

「え?」

「二人がそうやってるのを見てると、何だか可笑しくて」

恵は笑いが止まらなかった。隆と亮は互いに顔を合わせると、恥ずかしくなって顔が赤くなった。そんな二人を見て、恵はさらに強く笑った。すると亮が、

「やめてくれよ。食べにくいじゃないか」

「ごめん、ごめん。でも可笑しくて」

恵は笑いすぎて目から涙が出ていた。カウントダウンのことなんかすっかり忘れているかのようだった。

 時間が経つにつれて、鍋の中身は少しずつ減っていった。三人の食べる速度もそれに比例して遅くなっていた。

「私もうお腹いっぱい」

恵が食べるのをやめた。すると亮が、

「ちょっと買いすぎたかな?市原まだ食えるか?」

「俺はまだ食えるよ」

「なら二人で全部食うか!」

「おう!」

そう言うと二人は食べる速度を上げた。鍋はすぐからっぽになってしまった。

「凄い…男の子って、やっぱりいっぱい食べるんだね!」

恵は目を丸くして驚いていた。その姿を見て二人は何故か嬉しくなって、顔が少し笑顔になった。そして隆は立ち上がると、

「よし!じゃあ、片付けますか!」

「そうだな」

「うん」

そう言うと三人は鍋を片付け始めた。やはり三人で片付けると作業が早かった。テーブルの上にあった鍋はあっという間に片付けられて、すぐに始める前の状態に戻った。何より隆と亮が驚いたのが、恵の手際のよさだった。

「鈴村さん、手際いいね」

「うん、ウエートレスのバイトしたことあるから片付けとかは得意なんだ」

そう言うと恵はハハハっと笑った。二人も一緒に笑った。

 片付けが終わると隆は時間が気になってしまった。恵のカウントダウンがゼロになるのは午後11時51分だ。隆は時計を確認した。時間は、何ともう午後11時半を回っていた。

「時間が!」

隆は大きな声を出した。その声に亮と恵は驚いてしまった。

「ビックリするじゃないか!」

「だってもう時間がないじゃないか」

隆がそう言うと恵の顔が暗くなった。しかし、すぐに恵は笑顔になった。

「大丈夫だよ。何が起こるかなんて、まだ決まった訳じゃないんだから」

しかし、その笑顔は明らかに無理やり作ったようにしか見えなかった。だから、亮は隆を一発軽く殴った。

「とにかく、何が起こるかわからない訳だから、一応何があっても鈴村さんを守れる体勢を取ろう!」

 そして、時間が刻一刻と迫ってきた。亮が時計を見ると、時間は午後11時50分だった。亮が、心の中で「あと1分か…」と思ったその時、部屋の電気が突然消えたのだ。

「どうしたんだ!?電気が消えたぞ?」

「何も見えない!鈴村さん、大丈夫?」

「う、うん…」

恵の声が聞こえて二人は少し安心した。しかし、次の瞬間、ピカッと何かが光ったのだ。それと同時に、

「キャー!!」

恵の叫び声が聞こえた。

「鈴村さん!どうしたの!?」

隆は恵に呼びかけたが、恵からの返事はなかった。二人の不安は高まった。恵の身に何かが起こったのかもしれない。そう二人は考えた。

すると、突然部屋の電気が点いたのだ。二人は慌てて恵のいた場所に顔を向けた。しかし、そこには恵の姿はなく、代わりに恵のケータイがそこに落ちていた。隆はそのケータイを拾うとメールが届いているのに気が付いた。そして、恐る恐る内容を確認した。

『 □□□○○○@△△△.ne.jp

  件名:なし

  04/09 23:51

  本文:送信完了。     』

「どういうことだよ!?」

「わからない。でも、送信完了ってことはどこかに送られたってことじゃないか?」

「どこにだよ?」

「わからない」

「もしかして存在が消えたとかいう訳じゃないよな?」

「否定はできない」

亮がそう言った瞬間、

ピピピ、ピピピ。ピピピ、ピピピ。

隆のケータイが鳴ったのだ。隆はゾクッとした。寒気がして震えが止まらなかった。その姿を見た亮が、

「俺が見ようか?」

そう提案したが、

「いや、いい。自分で見るよ」

隆は断った。そして、隆はメールの内容を確認した。

『 ○○○□□□@△△△.ne.jp

  件名:なし

  04/09 23:53

  本文:あと1日。

     次はお前だ。    』

それを見た瞬間、隆は恐怖のあまりケータイを落としてしまった。そして、亮がケータイを拾いメールを見た。

「次はお前って…」

亮はそれ以上話すことをやめた。何を言っても隆の恐怖心を増幅させるだけだと判断したからだ。

「とりあえず、俺はこのままここにいるから」

亮は隆を少しでも安心させようとしたつもりで言ったが、やはり逆効果だった。

「一緒にいたって何も変わらないじゃないか…鈴村さんだって二人もいたのに消えたんだぞ!いたって意味ないじゃないか」

隆は気が動転していた。しかし、言っている事は間違っていないと亮は思った。だから亮は、

「それなら、手を繋いでいたらいいんじゃないか?そうすれば大丈夫だろ?」

その言葉に少し安心したのか、隆は少し気が楽になった気がした。

「そうだな。それなら掴まっていれば大丈夫かもしれない」

「だから安心しろ!な?」

隆はこれに頷いたが、すぐに不安な顔に戻った。

「でも、それでも鈴村さんは?」

それを聞いて亮も少し不安な顔になった。しかし、隆はこれ以上不安にさせてはいけないと思ったので、

「まだわからない。でも、消えたって決めつけるのもおかしいだろ?もしかしたら帰ってくるかもしれないだろ?いや、絶対帰ってくるって!安心しろ!」

それを聞いて隆は何かを言おうとしたが、すぐ首を横に振ってから少し笑顔になりこう言った。

「そうだな。お前がそこまで強く言うなら帰ってくるかもしれないな。絶対に」

最後にそう強く願うように言った。

 その後、二人は疲れていたのかすぐに眠りに着いた。



 朝、亮が目を覚ますと時刻は午前8時を回ったところであった。隆の方を向くと、布団を被って寝ていた。亮は起こしてはいけないと思い、そっとしておくことにして自分もまだ少し眠かったのでもう一度寝ることにした。

 しかし亮の考えとは全く違い、隆はずっと起きていたのだ。隆は眠った後すぐに目を覚まし、時間が過ぎていくことを考えると怖くなって眠れなくなったのだ。

あの時は亮の言葉に安心したが、やはり冷静に考えてみると根拠が見つからない。そう考えるとだんだん不安になってきたのだ。だから布団を被りずっと震えていた。そして、

「大丈夫、何も起こらない」

自分にそう言い聞かせていた。

 午前10時を回った頃、亮が再び目を覚ました。亮が隆の方を向くと、さっきと変わらない光景だった。亮はこれを不思議に思い隆に近付いてみた。すると布団が震えていたのだ。慌てて隆の顔を覗き込むと、そこには恐怖に満ちた隆の顔があった。

「市原!大丈夫か!?おい!」

しかし、隆の返事はなかった。もはや隆には何も聞こえていなかった。そして、何を言っているかわからなかったが、ずっと何かを唱えているようだった。

亮はどうすることも出来なかったので、隆が落ち着くのを待つことにしてその場に座り込んだ。

 それから2時間くらい経った。あれから隆の状態は変わっていなかった。相変わらず布団を被り震えている。亮はどうすることも出来なかったのでため息をついた。すると、突然隆が話しかけてきたのだ。

「俺も消されるのかな?」

あまりにも突然の出来事だったので、亮は驚いた。しかし、すぐに隆の質問に返答した。

「大丈夫だって!お前は消えない。絶対消させない!」

「うん…ありがとう」

隆はそう言うとまた黙り込んでしまった。

 二人は何もすることもなく、じっとしていた。ただ時間だけが過ぎ去っていく。二人にとってこの時間はあっという間だった。隆はずっと怯えているだけで、亮はその隆をじっと見守ることしか出来なかったのだ。

 そして、午後11時45分を回ったあたりで隆が今度は急に体を起こしたのだ。ベッドから起き上がり歩き出した。それに再び驚いた亮が隆に質問した。

「どうしたんだ?」

隆は苦笑いしながら答えた。

「トイレだよ」

亮はその言葉を聞いて安心した。今日ずっと震えていた隆が初めて笑顔見せたのだ。少し肩の力が抜けた気がした。

1、2分くらいすると隆がトイレから出てきた。隆の顔は恐怖に怯えていた顔ではなくなっていた。亮はそれをじっと見守った。

そして、隆がベッドに向かって歩き出そうとしたその時、

ピンポーン!

突然チャイムが鳴ったのだ。隆は驚いて玄関の方を振り向いた。すると、

ピンポーン!ピンポーン!

とチャイムが何回も鳴るのだ。隆はこんな時間に誰だよと言いながら、

「どちら様ですか?」

と言った。すると玄関の向こうから、

「市原君!?私!鈴村よ!た、助けて!お願いドアを開けて!!」

「鈴村さん!?」

二人は同時に声を出した。ドアの向こう側からは確かに恵の声が聞こえてきた。

ドアがドンドン、ドンドンと何回も叩かれる。隆は慌ててドアを開けようとした。しかし、

「待て!」

亮がそれを止めたのだ。隆は怒って振り向いた。

「何だよ!早く開けないといけないのに!」

「いや、だっておかしくないか?」

亮は恐る恐る隆に尋ねた。

「昨日消えたはずの鈴村さんがなんで外にいるんだよ。あの時、誰かが外に出る音がしたか?」

「そういえば、していない…」

「だろ?絶対おかしいじゃないか!」

「でも…でも、だったらなんで外から鈴村さんの声が聞こえるんだよ!」

「それは…わからない」

そうしている間もドアを叩く音は止まらなかった。しかも、ドアをドンドンと叩く音は次第に強くなっていった。

「早く!早く開けて!助けて!!」

恵の声が聞こえる。隆はどうしたらいいのかわからなかった。亮は隆の手を押さえて、首を横に振っていた。

すると、ドアを叩く音が突然止まったのだ。そして次の瞬間、

「ギャー!!」

という、断末魔の叫びが上がったのだ。

「鈴村さん!?」

隆はその声に釣られて亮の手を振りほどき慌ててドアを開けたのだ。後ろから亮が、馬鹿と言ったが隆には聞こえていなかった。

ドアを開けて隆は辺りを見回した。しかし、そこには誰もいなかった。右を見ても、左を見ても、上も下も見ても、誰もいなかった。

「え?誰もいない…」

隆は思わず声を出した。その声を聞いた亮が手で頭を押さえた。

そして、隆はドアを閉めた。そのまま亮の顔を見ると、亮は首を横に振っていた。すると突然、

ピピピ、ピピピ。ピピピ、ピピピ。

隆のケータイが鳴り出したのだ。二人はビクッとなった。亮は隆の肩をポンと叩くと隆の目を見て頷いた。それに答えるように隆は頷いた。そして、隆はケータイを拾って内容を確認した。

『 ○○○□□□@△△△.ne.jp

  件名:なし

  04/10 23:53

  本文:          』

本文が書かかれていなかった。隆はこれ不思議に思うと、本文がスクロール出来る事に気が付いた。隆は本文を恐る恐るスクロールしていった。すると、

『鈴村恵「どうして助けてくれなかったの?」』

隆がこれを読むのと同時に後ろから、

「どうして助けてくれなかったの?」

と、恵の声が聞こえてきたのだ。隆は固まってしまった。そして同時に体が震え出した。しかし、振り向かない訳にはいかないので、勇気を振り絞って後ろを振り向いた。

するとそこには、全身真っ青の恵が立っていたのだ。隆は恐怖のあまり動けなくなった。震えが止まらない。そして、目の前の恵がもう一度、

「どうして助けてくれなかったの?」

と尋ねた瞬間、隆の意識がなくなった。



隆が目を覚ますと、そこは見慣れない風景だった。隆はここが恐らく病院の中だと思った。

しかし、ふと意識をなくす前のことを思い出すと慌てて辺りを見回した。

「亮は!?」

そして、自分の体の方を見ると亮がうつ伏せになって眠っていた。

「よかった…」

隆がそう言った瞬間、亮が目を覚ました。そして、亮は隆の方を向いて話し出した。

「やっと起きたか、隆」

「うん。でもよくわからないけどな。俺はなんでこんなところにいるんだ?」

「メール確認した後、お前が急に倒れたから慌てて救急車呼んだんだよ」

「そうだったのか…」

しかしこの時、隆はある違和感に気が付いた。それを確認するために隆は亮に呼びかけた。

「なぁ亮?」

「どうした、隆?」

この時、隆は確信をした。だから亮にこう言った。

「お前誰だ?」

「何言っているんだよ。隆」

「亮は俺のことを名前で呼ばない!」

亮が驚いた顔をした。しかし、すぐに笑い出した。

「ちょっと間違っただけじゃないか。そのくらい気にするなよ」

「そんな嘘通用するもんか。本当にお前誰なんだ?」

隆はこの人物は亮ではないと思い、完全に疑いの目を向けていた。すると、亮のような人物が真剣な顔になった。

「俺は斉藤亮だよ。市原隆」

「だからそんな嘘」

隆がそう言いかけた時、

「嘘じゃないさ。そういやこの時、お前のこと市原って呼んでたんだな」

そう言うと目の前の人物は笑い出した。隆には何を言っているのかさっぱりわからなかった。

「ばれたら仕方ないな…実は、俺は未来の斉藤亮なんだよ。」

隆はさらにわからなくなった。この人物は何を言っている?未来?そんな馬鹿なことがありえるのか?

隆があまりにも困惑した顔をしていたので、亮は詳しく説明しだした。


 未来の亮が言うには、これから20年くらいすると、名前は言えないが、ある人物が凄い発明をしたらしい。

ケータイを使って過去の自分にメールを送ったり、過去の自分や自分の周りを少しなら操作したり出来るようになったらしいのだ。

だから恵を消すことが出来たし、こうやって過去の亮の意識に入ることも出来るようだ。

ちなみにこうやってカウントダウンのメールを過去の自分に送りつけて遊ぶのが未来でちょっと流行り出しているそうだ。


亮が説明を終えると、隆は少し疑問に思ったことがあった。

「どうしてこんなことをしたんだ?」

「俺らもこの時代に同じことがあったんだよ。だから今こうやって同じことをやったんだ。だからお前もいつか、そうしろよ」

亮は笑って言った。そして、

「まぁ俺の正体がばれていたってことは聞いてなかったけどな」

そう付け足した。隆はこれを本当に信じていいのかわからなったけど、信じた方がいいのかもしれないと思い信じることにした。それから恵のことが心配になったので、亮に尋ねた。

「鈴村さんは?」

「隣の部屋で寝てるよ。一応二人とも部屋で倒れたってことになっているから」

それを聞いて隆は安心した。しかし、どうしても気に入らないことがあった。

「それにしても、いくら同じことがあったからって、こんなことする必要あったのか?」

それを聞くと亮は笑いながら、

「いずれわかるよ。メールが送られたことによってわかったこともあっただろ?」

と言うと、亮は片手をあげて、

「じゃあそろそろ俺戻るわ!」

すると、急に隆の意識が薄れていった。そしてそのまま隆の意識はなくなった。


 隆が再び目を覚ますと、目の前には亮が立っていた。

「やっと起きたか、市原!急に倒れたから心配したんだぞ」

本物の亮だと隆は思った。そして、再び慌てて辺りを見回した。やはりここは病院の中であった。しかし、その行動を不思議に感じた亮は、

「どうしたんだ?そんなに慌てて」

「俺あの後どうなったんだ?」

「メール見た後急に倒れたんだよ。だから俺も慌てて救急車呼んだよ」

しかし、隆は先に恵のことが気になったので、

「鈴村さんは?」

「それがさぁ、救急車の到着があまりにも遅いから、俺外に確認しに行こうと思ってドア開けたら、すぐ横に鈴村さんが意識ないまま座り込んでいたんだよ。今は隣の病室で寝ている」

それを聞いて隆は安心した。しかし、さっきの亮は一体何だったんだろう?と思った。そう考えていると亮が、

「それにしても何だったんだろうな?お前も鈴村さんもずっと眠ったままだったし」

「え?」

隆は驚いた。それに亮は反応した。

「ん?二人とも2日間眠りっぱなしだったんだぜ?で、今やっとお前が起きたとこ」

「2日間も!?それより俺さっき起きたよ?」

「何言っているんだよ、俺ずっとここにいたんだぜ?」

「え!?」

隆はさらに驚いた。それではさっきの亮やあの話は夢だったのか?隆は何が何だかわからなくなった。

「どうしたんだ、お前?」

心配した亮が尋ねてきた。隆は笑いながら、

「なんでもないよ」

と答えた。もしかしたらあれは夢だったのかもしれない。何より皆無事でよかったと隆は思った。

それからすぐ恵も目を覚まし、二人は退院した。

 後で恵が言った話だが、恵もあの時急に意識がなくなって気が付いたら病院のベッドにいたようだ。





 あれから3ヶ月が過ぎた。隆はいつものように学校に行くため家を出た。隆の周りでは特に変わったことはなかっ…いや、

「隆!」

隆が呼ばれて振り向くと、そこには恵の姿があった。あれからすぐ二人は付き合い始めたのだった。二人は手を繋いで学校へ向かった。すると、

「くそ~今日もラブラブかよ、お二人さん!」

亮が二人を茶化しに来た。そして亮は隆の耳元で、

「本当によかったな、隆」

そう囁いた。あれからすぐ亮は隆のことを名前で呼ぶようになったのだ。

隆はこの時、あれは夢ではなく本当にあったことではないのかなと思うようになってきた。実際、最近ネット上で噂されていることがあった。


『ねぇねぇ、カウントダウンっていうメール知ってる?』

『何それ?』

『突然、「あと5日」って書かれたメールが届くんだって!』

『それ怖いね…で、どうなるの?』

『何が起こるかは人それぞれ違うみたい。でも、害はないらしい…』

『そうなんだ!だったら面白いかも!!』


 隆はこれの正体を知っていた。それは未来からのメッセージだということを。しかし、隆はこれを誰にも言うつもりはなかった。未来がわかってしまうと何も面白くなくなるからだ。だからあの時亮は、

「いずれわかるよ」

と言ったのだと思った。これは恐らく恵のことであると後で思ったことだ。

そして、隆はいずれ自分も同じことをやらなくてはいけないなと思うと、楽しくなり急に笑い出した。すると亮が、

「どうしたんだよ!?急に笑い出したりして」

「なんでもない」

「変なの」

恵は不満そうな顔をしていたが隆は笑って誤魔化した。

それから三人は未来に向かって学校へ歩いていった。


― 終わり ―

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