鏡の少女
にごう
第1話
外は激しく雨が降っていた。しかし、私はいつも通り車に乗って会社へ向かった。雨が強すぎて前がとても見にくかった。
しばらく行くと、道が渋滞していて思うように進まなくなった。どうやら前方で事故があったらしい。
このままだと仕事に遅れると思ったので、私は脇道に入ることにした。しかしそこは、車1台がやっと通れるくらいの幅だけしかないとても狭い道だった。仕事に遅れる訳にはいかなかったので、それくらいは仕方ないと思った。
しかし、偶然にも私以外、人や車の通りがなかった。
「しめた」
私は笑顔になり、加速してその道を一気に通り過ぎた。
それからしばらく進んだので、私はもういいだろうと思い、元の道に戻ろうとした。しかし、道はまだ渋滞してでいた。
仕方ないので引き換えしてまた脇道を進むことにした。それにしても脇道には全く他の通行がなかった。私はそのことが少し不思議に思えた。
「たまたまだろう」
そう言い聞かせて、さらに進んでいった。
そして、またしばらく進んでから元の道に戻ろうとすると、道はまだ渋滞していたのだ。
おかしい。私はすでに脇道を20分は走っている。しかし、なぜ渋滞が終わらないのだ?
さらに私はあることに気が付いた。
「そういやここって…初めと同じ場所じゃないのか?」
おかしなことに、あれから車は全く進んでいなかったのだ。私は訳がわからなくなった。
雨はまだ激しく降り続いている。突然辺りがピカッと光り、その後すぐにドーンと大きな雷が鳴ったのだ。
それはとても近くで落ちたような感じだった。しかし、私は雷のおかげで何故だか少し落ち着けた。
そして、もう一度脇道へ戻ろうとしてバックミラーを確認した時、また辺りがピカッと光り、その後すぐにドーンと雷が鳴ったのだ。すると一瞬、ミラー越しで車内に人影が見えた。
私は慌てて振り返った。しかし、誰もいない。
気のせいだと思い、私はもう一度バックミラーを見た。すると後ろの座席に女の子が座っていたのだ。
「え?」
私は振り返った。だが、やはり誰もいない。しかし、ミラーを見ると女の子が座っている。中学生くらいの女の子だ。
そして、その女の子はミラー越しでニコッと笑った。すると、また辺りがピカッと光り、その後すぐにドーンと雷が鳴った。
それから私がミラーを見ると、今度は誰もいなくなっていた。女の子は幻覚だったのかもしれない。
そして私は、疲れているのかもしれないと思ったので、今日は仕事を休んで家に帰ることにした。
翌日、新聞を読んでいると昨日の事故が記事になっていた。
記事には、
『女子中学生ひき逃げで死亡』
そう書かれていた。
そして記事には、死亡した女の子の写真が載っていた。それを見た瞬間、私は背筋が凍りついた。
そこに写っていた顔は、昨日車内で見た女の子だったのだ。
私は慌ててその記事を読み続けた。
『ひき逃げの犯人はすぐ横の脇道で逮捕された』
偶然にも犯人の他に通行がなかったのですぐに捕まったそうだ。そしてその時私は思った。
「この脇道って昨日私が通っていた道じゃないのか?」
いくら進んでも結局元の道に戻ってしまったあの道だ。
「もしかして、犯人と警察だけをあの道に通行させるためか!?」
きっと、亡くなった女の子の思念が犯人を捕まえさせるためにあんな不思議な現象を起こしたに違いない。とても奇妙な体験であったが、私はそう考えるようにした。
それから今日、私はいつもより少し早く家を出て、女の子がひかれて亡くなった場所に花を添えに行った。
すると、
「ありがとう」
という女の子の声が聞こえた気がした。
―終わり―
鏡の少女 にごう @nigo
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