閑話
「私は、要らないって。真凛は要らないって、そう言われた」
十歳の時、私は生まれ育った逆廻の家から養子に出された。
正確に言えば、捨てられた。
日本有数の名家である逆廻。その長女である私が出来損ないである訳にはいかなかった。でも、私は出来損ないだった。だから、捨てられた。
家を出る最後の日、父と母に侮蔑の目を向けられ、祖父母達には、
そんな私を連れだしてくれたのは、戸破のお父さん。そして、私を迎え入れてくれたのは、一片お兄ちゃんだった。
細身の長身。長い黒髪が顔を覆うけれど、ぱっちりとした瞳が見て取れる。よれよれのジーンズとよれよれのシャツ。その姿は、頼りがなかった。
「お前なんか家族じゃないって、逆廻の人間じゃないって、そう言われた」
多分に虚ろな目をして呟く。涙が、溢れて来る。
そんな私を抱き締めて、お兄ちゃんは言った。
「そっかあ。じゃあ、真凛は今日から僕の家族だ。今日から僕が、真凛のお兄ちゃんだ」
「でも、私役立たずだって。逆廻の血を汚す、出来損ないだって……私には、才能がない」
逆巻く血脈。可逆の逆廻。様々な逸話を誇る逆転の血統は、私に才覚として現れる事はなかった。
「素晴らしいじゃないか!」
お兄ちゃんは言う。
「真凛はこの世界から逸脱していない。天上天下の道途を只管に、道標に違う事なく進んでいる人間さ」
私の涙を拭いながら、満面の笑みで続ける。
「僕の様な、諦めの願望を醜悪に宿した逸脱者じゃない。それだけで、真凛は素晴らしいよ。この世界は、そうあれと願う人間に奇跡を
「悲劇……?」
「そう。鎖子の様に優しい人間ばかりではないんだ、この世界は。僕は全てを諦めて放棄したかっただけだし、鎖子と桜は血統に塗れた誇りや
お兄ちゃんの言っている事は、この時理解が出来なかったけれど、分かった事が一つだけあった。
「僕達の様な路傍の蜜に逃げた迷い人は、悲惨なモノ同士だけで世界を回せばいいのさ。僕達の様な輩は、僕達の様な輩と死に合うべきなのさ」
この人は、優しい人だなと、そう思った。
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