第6話

 寓意、濫喩、矛盾形容、換喩、擬人、象徴……諸連鎖の手法によって確立されたものがこの世界そのものである――曰く。


 茶を濁す問題的憂乱が弟犬の表現〈M〉によって霧散した。この先待ち受ける魔術師とのアーティファクト的消息に備え、異論理的教授を青年は獲得した。

 〈立方の球体〉。〈擬似可逆の謎性〉。〈象徴交換の大樹〉。〈相対原理の女王〉と、それに仕えるよっつの〈クリブ〉。五大綺想すべてと相対することによって、この世界を崩落せしめる。

 魔術師とのアーティファクト的消息のみならず、五大綺想をも凌駕する必要があるということになった、嘆息する青年の前にひとつの影が近寄った。

「彼はアルトー。彼を君のそばに置いておこう」

 弟犬は潰れた左目に手をかざし、取り出したグレアをアルトーに落とし込んだ。

「君のホメオパシーに共鳴して、彼はそのメタフィジカルを喚起する。霊験灼然なる五大綺想と相対するには、まず〈起源のゴーレム〉、〈省略三昧〉、〈龕〉を尋ねるのが早い」



 不死鳥は鳴き怪鳥は亡き朱色に染まる。曙のスコールは断続的に酩酊工房を叩き、扉には閂が、閂にはささくれた胞子があった。心臓の機械音と体に刻まれた「シェム・ハ・メフォラシュ」の文字で中にいるのが〈ゴーレム〉だとわかる……



 雲の伸びるような音で話す弟犬の塒を後にし、青年とアルトーは〈起源のゴーレム〉を目指した。

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ワンダーランドの逆手順 中山登 @alaghori

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