リサ

林檎

リサとお父さん

リサという5歳の女の子がいました。リサのお父さんは、長い闘病生活の末、亡くなってしまったのです。リサは悲しくて悲しくて、毎日泣いていました。


リサは泣きたくなると、森に行き、お気に入りの大きな木の前で泣きました。

その木はとても大きくて、父親のような、強さと温かさを感じていました。


リサは、毎日毎日森に行き、泣いていました。

大きな木は、自分の前で泣いているリサを、かわいそうでかわいそうで、とても同情しました。自分のことのように悲しみました。





リサが泣いていると、優しくリサを抱きかかえる手を感じました。びっくりして見ると、とても大きな男の人が居ました。その人も泣いています。それは、リサを同情するあまり、人間の姿に変わった大きな木でした。


リサは、知らない男の人がいるので、とてもびっくりしましたが、父親のような、強さと温かさを感じて、その大きな男の人を、すぐに好きになりました。


二人は、とても仲良くなりました。リサは毎日森に行き、男の人と遊びました。二人は本当の親子のようでした。かくれんぼをしたり、男がリサを肩車したりしました。

リサは、男のことを、“お父さん”と呼ぶようになりました。


成長したリサは、ある日ボーイフレンドのシンを連れて、森にやってきました。

「お父さん、ボーイフレンドのシンよ」

「お父さん、初めましてシンです」

しかし、お父さんはおもしろくありません。大切に育てた娘を、どこの馬の骨か分からない奴に持っていかれるような気分です。


しかし、リサは気にせず、シンと楽しそうにおしゃべりしています。

お父さんは、ますますおもしろくありませんでした。


ある日、お父さんは、リサにシンの悪口を言いました。

「あんな、ひょろっとした奴、頼りなさそうじゃないか、別れてしまいなさい」

「シンは、考え方も、精神力もしっかりした人よ!お父さんがそんなこと言うなんて思ってもみなかったわ」

リサは怒って、森にあまり来なくなってしまいました。


お父さんは、淋しそうに森に座っていると、シンがやってきました。

「お父さん、少しお話できますか?」

「ああ」

「リサは、お父さんが、本当は木だということを知っています。幼かったけど、お父さんが現れてから、大きな木がなくなっていたことに気がついていたそうです」

「そうだったのか」

「自分のために、人間の姿になって、自分を守ってくれたお父さんには、とても感謝していると、しかしリサは、もう5歳の女の子ではないのです。成長して現実をしっかり見て、将来のことを考える女性に成長しました。僕はリサと家庭を築きたいと思っています。どうか私達のことを、認め見守ってもらいたいのです」

「ああ、分かったよ。すまないが、一人にさせておくれ」

「はい、分かりました」


シンが帰った後、お父さんは、一人で考えました。リサが、かわいくてかわいくて、今では、自分が木だったことなど忘れていました。ずっとリサと一緒にいられると思っていましたが、リサはすっかり大人の女性として成長し、自分の意思を持つようになったのだと、気がつきました。

「リサが幸せなら、それでいいじゃないか」お父さんは、つぶやきました。


その時、誰かが背中をさすってくれていました。見ると、涙をいっぱい浮かべているリサでした。あの幼かったリサが、今では、自分をなぐさめてくれるまでに成長していたのです。


「お父さん、私はお父さんを、永遠に愛するわ。お父さんのご恩を忘れるわけないじゃない。これからは、シンと二人で親孝行するので、結婚を許して下さい」

「ああ。私のかわいい娘が、他の男にとられるようで、淋しかったのだよ。私はリサの幸せを、一番に願っているんだよ」

「ありがとう!お父さん」


リサが、森を去った後、お父さんは、再び大きな木の姿に変わりました。


シンとリサは、森の中で、みんなに祝福されて、結婚式をあげています。

大きな木の前で、生涯助け合いながら、幸せに暮らすことを、誓い合いました。

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リサ 林檎 @mint_green

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