2章 2話
現時刻 正八刻(朝の8時ぐらい)
まだ準備中だろうある店に俺は向かっている。
「はぁ…っ…!お、おい!親父さん!!」
俺は昨日バイトに行ったきり帰ってこなかったシカンダを探して、シカンダのバイト場『ショパーナ』に来ている。
「お、おいどうしたんだよ」
「はぁ…ッシカンダ…が…ッ!」
もう言葉はほとんど聞き取れなくなるぐらいに俺は『焦り』と『不安』に押しつぶされそうになっていた。
「一旦落ち着け。そんなんじゃ状況は変わらん」
親父さんは俺の焦りっぷりを見て状況を大体察したのだろう。
空いてる席に座らせてくれ、水も出し話を聞いてくれた。
「────。」
俺は一通り、親父さんに話した。
「なるほど…な。とりあえず俺が昨日のお嬢ちゃんについて言えることは、お嬢ちゃんは昨日、いつも通りの時間に仕事を終えて、元気に出ていった。別に、仕事にミスがあったわけでもねぇ。いつも通りだ。これは俺の感覚だが、「悩んでいる。」みたいな感じじゃなかったな。」
親父さんは優しく、俺を落ち着かせるように情報提供をしてくれた。
「そう…ですか…。」
俺も、シカンダに変わったところはないと思っている
いつもと変わらず朝ごはんは綺麗に食べてくれたし、元気にバイトに行ったのも見た。
「俺も客に呼びかけてみるし、店閉めたら探してみるからよ。」
「ありがとうございます…」
そしてしばらくショパーナには沈黙が漂い、
親父さんが「…なぁ、カユア。お嬢ちゃんは確か聖霊使い…だったよな?」
いきなりなんだとは思ったが「はい。でもそれがどうしたんです?」と問う
「俺の知り合いにな、聖霊が【見える】奴がいるんだ。」
その時、俺はものすごいスピードで立ち上がり親父さんの肩を握っていた。
「ちょ…ッおい!カユア!最後まで聞け!」
そう言われ俺は我に返る
「す、すみません…」
親父さんは大丈夫大丈夫と笑う
「その知り合いっていうのがな結構なお偉いさんなんだ。」
「そんな人がなんで親父さんみたいな人と知り合いなんです?」
「ちょっと今日、言葉にトゲがないか…?
まぁいいか、そいつの親と俺は冒険者してた時のチームだったんだ。その繋がりで仲がいい…みたいな感じだな。」
なるほどな。親父さんはこう見えても凄腕の冒険者だったからな。
「その人は【見える】だけなんですか?」
「あぁ。聖霊には愛されていたが聖霊使いになる為の魔力と信頼度みたいなのが足りなかったそうだ。」
そう考えるとシカンダは聖霊に愛され、めちゃくちゃな魔力を持ってる…だから…
「聖霊が見えるそいつに協力してもらえば聖霊に居場所や最低でも有力な情報はえられるんじゃあないかな。」
「早速会いたい…少しでも早くシカンダを見つけたい…ッ!」
親父さんは少し困った顔をして
「そいつがなぁ…ちょっと癖のある性格でな…」
「…?もうどんなことだってするから!教えてくれ…」
「そいつ…聖霊が【見える】奴の名前はレミゼ・リオットっ言うんだが…リオット家は知ってるてるよな?」
この国に住んでる人で知らない人はいない
それぐらい有名な貴族。リオット家
金と女が好きでリオット家の男は街の女を孕ませては捨てるという悪名高い一族だ。
そして何より、一族以外の男が大嫌いなのだ。
「…なるほど…でも親父さんが話をつけてくれれば…
」
「まぁ…頭のいいやつならそう考えるな。しかしな…」
「しかし…なんです…?」
「あいつらのところに行く時には一人、女を紹介しなきゃならんのよ。」
「…はぁ。」
「今そのあてが無くてな…」
「…もうダメだ…」
「いや、ほんとすまん…力になれなくて…」
「そうじゃない。今の俺の思考はおかしいみたいだ。一瞬でもその紹介する女を「シカンダにすればいいんじゃないか」って思ってしまった。」
「ナイスアイディアだよカユア…シカンダのあの黒髪、黒目…いや、もう元から綺麗な女だかんな。
写真があれば1発だぜ!冴えてるなカユア!あんな綺麗な女がちょっと協力しただけで手に入るんならいいはな──」
その時カユアの剣は親父さんの首元にあった。
いや、もう少し切っていた。親父さんの筋肉質な首から赤い血が流れていた。
「…次にシカンダをそんなふうに言えば次はない」
親父さんはこの時カユアからの並ならぬ殺気を感じていた。
「す、すまねぇ。つい」
「シカンダの写真ならある。だが、協力してもらってお礼にシカンダを孕ませる権利なんか絶対にやらん。」
「準備しろ。リオット家に行くぞ。」
「…ッ!あぁ!」
────────────。
大きな白い門の前に俺は親父さんと立っている。
親父さんは門の前に立っている衛兵に
何やら話をしている。待っていると
「おーいカユア。何ぼーっとしてんだ。行くぞ。」
何やら許可が降りたらしい。
「今行く。」
俺は腰から下げている相棒の剣をしっかりあるのを確認し大きな門をくぐる
「何もかもが大きいな…」
なんて感心していると
「何感心してんだ、早く見つけたいんだろ?」
と親父さん。
親父さんは透視能力でも持ってんのかな…
しばらく中庭らしきところを歩き辿りついたのはまたまた大きな扉。
付いてきていた衛兵が大きな扉の前にいる衛兵に目でサインを送り扉が開かれた。
俺の目の前にはレッドカーペット。金色の大きなシャンデリア、そして何より、一番置くにある存在感の強い金の椅子。
そこにはリオット家の長男だろう。そんな風格の男が座っていた。
「やぁやぁ。待ってたよ。」
急に椅子に座っていた男が俺の元に歩いてきた。
「カエージェから話は聞いているよ」
「カエージェ?誰だそれ。」
「あ〜…俺だ。」
…えっ?
親父さんは少し照れくさそうに頭をかいていた。
「なんだ。彼の名前知らなかったのかい?そう言えばカエージェは酒場をやってるんだったね。仕事柄、【親父さん】なんて呼ばれてるのか。納得納得♪」
少し俺が混乱していると
「カユア、俺はここまでしか手助けは出来ないがなにかあったらすぐ言えよ?」
と親父さんはそれだけ言い、帰っていった。
「えっと…カユア君だったね。どうする?僕はお話大好きだから細かく話すのも良いけど…」
細かく話す…?遠まわしに「僕はシカンダを知っています」って言ってるようなもんじゃないのか?
「知ってるのか…?シカンダがどこにいるか。」
「ん〜一応僕はここらでは有名な貴族の長男、レミゼ・リオットだよ?ちょっと言葉が悪いんじゃないかな…なんてね」
くそっ…こいつ苦手なタイプの貴族だ。
自分の立場を利用して人を服従させるタイプ。
「…レミゼ様は写真の子──シカンダを知っておられるのですか…?」
今にも暴言吐き散らしたいが我慢だ。
俺の言葉を聞いたレミゼは悪趣味な笑いをして
「あぁ知ってるよ♪どこにいるか今何をしてるかもね」
なんだと…!?俺はバッと顔を上げ
「どこに!どこにいるんだ!」
今にもレミゼを殴りそうになった所で俺は我に返る。
「も、申し訳ございませんでした…取り乱してしまいました……」
またもや悪趣味な笑いを浮かべ、そばにいた魔導師らしきやつに何か言う。
「いやー彼女はほんとに美しい。あの艶やかな黒髪、ダイヤモンドより輝く黒い瞳…僕は一目惚れしたよ…」
といやらしい笑みを浮かべながら指を鳴らす。
そうすると先ほど何か命令された魔導師が魔法を出す。
しかしそれは攻撃魔法ではなく、遠視魔法。
簡単に言えば遠くの人を見ることが出来るみたいな…
そこに映っていたのはシカンダ。しかし、シカンダが暗いのかほとんど何も見えない。ただ一つだけ分かったのは
「牢屋…!?」
「そうだよ♪何でも欲しいものを与えるって言ってるのに素直にならないから閉じ込めて素直にさせようと思ってさ結構頑固なんだよね。この子、ずっとこういうの。「カユアに会いたい」って」
そう言い終えたあと、レミゼは騎士から剣を受け取り
「そうだよ。君に会いたいってずっと言うんだよ!!!だから今ここで君を殺す。」
なんてことだ、リオット家は剣術界でも有名だ。
だからシカンダと会う前の剣にしか興味の無いバカな俺でも知っていたんだ。
俺が覚悟を決め剣を握った時、
部屋の横にあったドアから俺の一番会いたかった人が見えた。
「…ッ!シカンダッ!!!」
「ぁ…カユア…ッ!!!」
シカンダには目立つ傷はなかったし、体調が悪そうにも見えなかったのでとりあえずは安心した。
「彼女、牢屋にはいれてたけどかなりの優遇だったからね♪そんな怖い顔せず彼女を巡って勝負しようよ♪」
「カユア!私ここで貴方が勝つのを見てる!だから──」
シカンダがそこまで言うと近くにいた衛兵が口を布で抑える。
でもさっきのシカンダの言葉で勇気が湧いた。
俺は剣を構え、
「シカンダはお前なんかに渡すもんか」
「いいねいいね!!さぁルール説明をしようか。」
「ルール…俺を殺すんじゃないのか?」
俺は殺す気でいたから、所詮貴族はこんなもんか。と思っていたが───
「ルールはどちらがシカンダを幸せにできるからっていう勝負。」
何言ってるんだこいつは。
「言っている意味がわからない。剣で勝負じゃないのか?」
「ん〜僕はそうしたかったんだけどね、よくよく考えると僕が君を傷つけて一番悲しむのはシカンダなんだよね〜僕、それは嫌だなって♪」
つくづく嫌な奴だ。
「分かった。俺も傷つくのも傷つけるのも嫌だな。で。その新しい勝負のルールはなんだよ。」
「もうそんなに怒らなくてもいいじゃん。
そうだね〜最初の勝負はシカンダには目隠ししてもらって2人が作った料理を食べてもらう。どちらが美味しいか判定してもらう…って言うのとか?」
「最初の勝負は?二戦目もあるのか?」
「もちろんさ。」
ふむ。もしかしたらこれは俺の得意分野かもしれない。
シカンダは俺の料理の味を覚えてるから…これはいける!!
「良し。厨房に行こうか。おいエレヴィル。彼女は一番綺麗な空き部屋に連れていけ。」
エレヴィルと呼ばれた執事服を着た男はシカンダにてを差し出し、奥の部屋へ連れてゆく。
「カユアくん彼女─シカンダのことはそんなに心配しなくても大丈夫さ。そんなんじゃ第一戦料理対決には負けちゃうんじゃないのか?」
とニヤニヤしながら延々と続く煌びやかな廊下を歩く。
「それにしてもバカでかい屋敷だ。」
「ほとんど空き部屋なんだけどね。街から女性を連れてきたりしたらここら辺の部屋に通すんだ。」
やっぱりこいつは碌でもないやつだなと改めたて思った。
しばらくして、厨房に着いたみたいだ。
「そうだなぁ。お題は…ごちそう。なんてどうだい?」
「ふむ。問題ない。」
「それは良かった。そこの冷蔵庫にもあるが他にいる食材があるならその紙にかけ。すぐに用意する。」
あくまでも、正々堂々…か。
「ではありがたく使わせてもらう。」まず何を作るかだな。
しかし、「何を作るか」に関してはそう悩まなかった。
「ただあれだけじゃな…」
俺はとりあえず冷蔵庫に何があるかを確認し、
ほしい食材をメモし、衛兵に用意してもらう。
「レミゼ…様…。私は使いたい食材の準備が出来ました。」
「そうか。そこにある鍋、コンロ、オーブン…エトセトラ。なんでも使っていい。では、これより第一戦料理対決を開始する!!制限時間は特にはない。出来たら宣言すること。────始め!!」
どれぐらい時間がたっただろう。
「────出来ました。」
色々美味しそうな匂いの漂う厨房で声が響く。
俺が最後に終わり、終了の宣言をする。
「ではシカンダが待つ部屋に行こう。」
そう言って俺達はまた廊下を歩く。
トントンと軽快な音を奏で、ドアを開ける。そこにはシカンダがいた。
「すまない、長く待たせてしまった。」
とレミゼ。
しかし、そんなレミゼの言葉を無視して、シカンダは俺に抱きついてきた。
ふわっと甘い髪の匂いがする。
「カユアァァ!!会いたかった…」
シカンダは泣きながら抱きしめる力を強くする。
「お、おいシカンダ、痛いぞ」
「…ご、ごめん。」
シカンダはすっと離れ、涙を拭う。
レミゼは口には出していないが、ものすごい顔でこっちを見ていた。
「ゴホン。とりあえず料理対決の判定をしてもらおうじゃないか。」
そうだった。本題はそれだ。
「シカンダに目隠しを。」と言えば先ほどシカンダを部屋に誘導した執事がシカンダに目隠しをする。
そしてその執事が「シカンダ様、口を開けてください。」
と言い、まずはレミゼの料理から口に運ぶ、
レミゼの作った料理は一般民からすると王国生誕祭の時にしか食べられないテリンエス牛のステーキだった。
どこの部位もすごく柔らかく一度食べると忘れられなくなるほどの美味しいさ。
しかし食動物の中でも1、2位を争う凶暴さでなかなか捕まえられないため超高級牛だ。
当然の反応と言えるだろうシカンダは
「なにこれ…美味しい…「日本」で言う黒毛和牛って所か。」
とテリンエス牛の美味しさに感動していた。
そして隣ではレミゼが「これは勝った。」みたい顔をしていた。
そして次は俺の料理。
俺の順が回ってきて先ほどのように執事がシカンダの口に運ぼうとする。
────レミゼは驚いていた。
ちなみにお互い、何を作ったかは知らないだから「これがお前にとってのごちそうなのか。」という思いがあったのだろう。
それもあるのだろうが一つの大きな理由は
執事がシカンダの口に運びシカンダが味わおうとした瞬間────
シカンダから涙が零れたのだ。
「ねぇ、もう一口ほしい」と言いまた味わう。
そして
「最後のスープ…カユア…あなたの勝ちよ。」
部屋にいた俺以外の人が固まった。
「な、何故そのスープがカユアくんのものだと…?!」
シカンダは目隠しを取り、笑顔で答えた
「何故って私にとってこのスープは一番のごちそうだから」
レミゼは膝から落ち、「僕が負けた…」とずっと呟いていた。
でもシカンダはレミゼにゆっくり近寄り、
「あなたの料理とても美味しかった。初めて食べたからこれが高級品だとは知らなかったの良ければ今度また食べさせて?」
そうシカンダに言われたレミゼは涙を流しながら
「もう街の女性なんか飽きたッ…シカンダだけを愛するよ!!」
立ち直りの早いやつだ…
しかしシカンダはただ微笑むだけ。
そして俺は
「2回戦目はしないのか?」と問う、
「もう勝負は決まっているさ、絆の差が圧倒的だよ…」
「そうか。てことは俺の勝ちだからシカンダは連れて帰るな。」
「そうだね…今回は負けだよ。」
まだ戦うつもりか…とは思ったがその後は特に何もなく大きな門を潜る。
そしてやっと懐かしい家に着く。
「いや〜ほんと久しぶりだなここ。」
と家を走り回るシカンダ。
「本当によかった…」俺の中では独り言ぐらいのボリュームだった気がしたのだが、
「え?なになに?何が良かったの?」
とさっきまでやかましく走っていたはずのシカンダがすぐ隣にいた。
「えッと…いやその…と、とりあえず服!服着替えてこいよ!」
よかったよかった。
シカンダが2階の自分の部屋に行ったのを確認して、再度、「はぁぁ…本当によかった…」とため息交じりに呟く。
しばらく机に突っ伏していると
「カユアーッ!着替えたよ!!」
と特に必要の無い報告をしながら階段をバタバタ降りてくるシカンダ。
でもそれがとても安心する。
これが母性って言うのかな。
「シカンダ、俺の特性スープ飲むか?」
と言うとシカンダはいつも目をこれでもかと輝かせ、「飲む!たくさん!明日のバイトにも持ってくからたくさん!」
という。「よし分かった。。たくさんな。でも一ついいか?」
シカンダは頭に【?】を浮かばせ近付いてくる
「しばらくの間は何処に行くにも…とは言わないが、「ショパーナ」には一緒に行くしシカンダが終わるまで待ってる。いいな?」
少し束縛する感じにはなるが我慢してほしい。
と付け加える。
「良いの…?!ずっとカユアと一緒なの?!」
あれ。予想の斜め上の返答だな。
「お、おう。…まぁそういう事だ、スープ作るの手伝ってくれ。」
「あ。ねぇアンディアンは??」
まずい、本気で忘れてた。でも確か…
「ユグドラシルと聖霊のことについて勉強するとか言ってたような。」
「ふむふむ。まだアンディアンとは聖霊契約してないから呼び出せないんだよな…アンディアンをフニフニしたいよぉ!」
などと嘆きながらスープに入れる芋を切っていく。
その日の未十二刻半過ぎ(夜の12時30分過ぎぐらい)だろうか、俺の部屋にノックの音が響いた
「ん。どうしたんだ?シカンダ」
ノックの主はシカンダ。手には白いフカフカの枕と毛布。
俺は嫌な予感…いや。本音を言うといい予感…だな。「あのね。眠れない…って言うかその…」
「ちゃんと言ってみな。」
「ここで寝させてください…」
俺のいい予感(本音)的中
「い、いいけど」
「ほんと?!やったァ!」
あまりに満面の笑顔で喜ぶためそれから先は言えなかった。朝まで頑張れ俺の理性。
────────。
その日の正一刻(午前1時ぐらい)
俺はシカンダに抱き枕みたいに抱きつかれながら眠りについた。
シカンダのすごく可愛い寝顔にシャンプーの匂い…
ちなみに理性は保った。ギリギリ。
2017/02/07(一応end)
異世界訪問者の日記 朝麦 遊 @asahihina
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界訪問者の日記の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます