第8話


 ふいに、視界の隅にふわっとなにかが入り込んだ。


「わっ、初雪だよ!」


「初雪だ!」


 周りから、嬉々とした声が聞こえてくる。空を見上げると、ふわふわと雪が舞い降りてきていた。


「冷え込むわけだ…」


「ほう…。雪というのは面白いな。触れるとすぐに消えてしまう」


「北の方では、これが積もるんですよ」


「なんと。それはぜひ一度目にしたいものだ。さぞかし美しいのだろうな」


「…いつか、一緒に行きませんか? 北の雪を見に」


 彼女は一瞬、目を見開く。


「どうしました?」


「あ、いや…。行こうか、一緒に」


 そう言ってはにかむ。


『いつか』だなんて曖昧にしてしまったのは、彼女がボクとは違うから。なにかが起きた時、うまく対処できる自信がボクにはなかったから。それでも一緒にいたいと思うのは、ただの我儘わがままでしかないのだろう。


「しかしそなたは…、いや。この話はまた今度にしよう」


「え?」


「気にするでない」


「?」


 雪が止みそうにないため、ボクらは近くの喫茶店に入った。


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ボクが消える頃、キミは。 紫月 遊羅 @Yuranyan

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