対決半島(前編) 2/3
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【二〇一三年五月七日 一二時四五分
秋穂市 県道56号線】
海辺の長い防砂林が続く道を北上する大平ワゴン。
「千秋ちゃんー、隣おいでよ隣に!」
「いやですー! 亜也子さんのそばから離れません!」
セーラー服とセットならさほど目立たないと考えたのか、亜也子の隣を死守する旭川。
「まあ、こんなセットもなかなか見られないし、これはこれで……」
ニヤニヤが止まらない高清水。
「かわいい? かわいい? 年甲斐もなく喜んじゃうよー!」
旭川に抱きつきピースなんかしちゃう亜也子。
一方、運転席と助手席にはおっさん二人。
「大平ー、なんで格ゲーすり替えたりなんかするのさ。RBとか月華とかサムスピとかいろいろ用意してたのに……。というか、君のとこで買ったやつだよ!」
「許せ新政、大人の事情ってやつよ。ほとんどSNKだったんだろう? 察しろよ」
「あ、あーあー。なるほど。仕方ないな……。ほんとは訴えられた側が悪いんだろうと僕は思うけどな」
「まあな。俺もそう思う」
納得し合うおっさん達であった。
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【二〇一三年五月七日 一三時一五分
湖上市 湖上グリーンランド】
秋穂市の北西に位置する湖上市。九朗湖から上方(秋穂市)へ上るところにある市、という意である。
大して見所はないのだが、レジャー施設や温泉施設、飲食店等が充実している、湖上グリーンランドという道の駅があるので、そこを対決場所として選択したようだ。それにしても、空いている道の駅というのは便利である。
「湖上市『ゼビウス』対決ー」
すでにPSoneにはゼビウスのデモ画面が流れている。グリーンランドの鮮やかな緑と、ゼビウスの緑がマッチしてなんとも美しい。
「『ゼビウス』はさっき対決した『ドルアーガの塔』のゲームデザイナー遠藤雅伸が、ドルアーガの前に手がけた作品だね。我々の大好きな縦スクロールシューティングの始祖とも言われていて、実際、画面が縦方向に強制スクロールするようなシューティングというのは、ゼビウスの登場までなかったらしい」
「初なんですか!? 最初にしてこのキレイなグラフィックとゲームバランスですか……」
「お、わかってるね旭川くん」
「てへへ。さすがにシューターとして『ゼビウス』くらいは押さえておかないとと思って」
照れるメイド。着せられることに抵抗はするものの、一度着てしまえば普通に着こなし、使いこなしている旭川。照れる時のかわいい仕草が、『わかっている』感じである。ムダにダメージを受ける大平。
「くっ……。そう、世代を越えてプレイされる名作。伝説と呼ばれるにふさわしい!」
こらえた。説明しきった。こちらも訓練されているようだ。
「さて、さすがにこれはお手本も必要ないくらいの作品だよね。さっそく対決といこうか」
「じゃ、今度は僕が」
と、チーム・新屋家からは新政が挙手。
「新政は、『ゼビウス』やりこんでたりするのか?」
「いや、昔友達の家でファミコン版をちょっとやったことあるだけだよ。アーケード移植版は初だね」
一瞬、大平の目がギラリと光った……ように見えた。
「わかった、じゃあそこは考慮する。ミレニアムブックスは、高清水、ゴーだ」
予想外の指名に驚く高清水。
「ええー? シューティングなら千秋ちゃんじゃないの?」
「それじゃあ面白味がなかろうて。あとまあ、お前は音ゲーできるんだから、シューティングだってできるはずだ。動きすぎず最小限で弾を避けろ。あと地上物は大胆に速攻で破壊だ。できるな?」
「できるな? じゃないよー! 初心者に無茶ぶりするなあ……。しかももう負けられないんでしょ?」
まだ乗り気じゃない高清水にメイドからのエールが。
「大丈夫、お嬢様ならきっとできます! 応援してますー!」
「メイド千秋ちゃんがそう言ってくれるなら、できるような気がしてきた!!」
「旭川ちゃん、恐ろしい子……。くっ、わたしもまだ一〇年、いや五年若ければ……」
変なところで対抗心を燃やす亜也子であった。
二、三分ばかりのインターバルをはさみ、扉を開け放ったワゴン車の助手席と後部座席にそれぞれ置かれたPSoneに向かいあう、高清水と新政。
「今回の対決は、『ゼビウス3D/G+』収録のオリジナル版『ゼビウス』。先にエクステンドした方が勝利だ。参考までに、エクステンド点数を教えておくが、2万点だ」
頷く対決者達。見守る応援者と進行役。
「じゃあいいな? レディー、ゴゥ!」
コイン投入音がほぼ同時に二つ鳴り、数秒ずれて二つのソルバルウ出撃のメロディーが鳴り響く。新政が少し先に出撃したようだ。
「ひゃー、シューティングなんて超久しぶり」
そう言いながらも、音ゲーをプレイしているかのようなリズミカルさでボタンを連打し敵を倒していく高清水。
一方の新政は、さすが本業がシューターなだけあって、無駄のない動きで地上物も飛行物も破壊していく。
やがて、横一直線の川に差し掛かると、高清水は狂ったようにブラスター(対地攻撃)で川を爆撃していく。
「ん? まさか!!」
亜也子が何かに気付いたようだ。焦って新政にアドバイスを出す。
「新政くん、川! 川にブラスターを!」
「え? 川? もう過ぎちゃったよ? あれ、ブラスターってどっち攻撃?」
「やった! 出た!」
高清水側の川に、赤いSの文字を伴った黄色い旗が立っている。スペシャルフラッグだ。
「取ったよ!」
「あ! エクステンドしてますよー!」
高清水の後ろからふわっと抱きついて喜ぶ旭川。
「よーし、チーム・ミレニアムブックスの勝ちだ!」
「やられたね……作戦勝ちか。あんな手があったなんて」
負けた新政は、笑顔ではあるが悔しそうだ。
「プレイ開始前に大平さんに入れ知恵されちゃった」
その内容は二つ。スタートを少し遅らせることと、二本目の川が出てきたら、川をなめるようにブラスターを撃ちまくること。
これにより、スペシャルフラッグを狙い、相手がそれに気付いても、スタートタイミングの差により、すでに間に合わない状態にしておくことになる。
「スペシャルフラッグのことなんてすっかり忘れていたね、失敗失敗」
マイッタネ、と亜也子が頬をポリポリと掻いている。
「そこを推測するために、どれだけプレイしているか新政に聞いたんだよ」
「うわ、まじか。こわ! 大平こわ!!」
旧来の友人にまで怖がられる大平。
当の大平はギョロリと目を剥いて新屋家を見返している。軽くホラーだ。
「これ以上負けられないからなあ……」
「レトロゲーム分野では絶対に敵には回したくないですね」
「んだね」
こちらはこちらで、おだんごにメイドが抱きついたままの格好で固まったままであった。
ポイントは、906対98。依然、チーム・新屋家がリード。当たり前か。
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【二〇一三年五月七日 一五時〇〇分
湖上市 秋穂自動車道】
湖上市から少し北西に進めば、すぐに女鹿市に入れるのだが、今回は女鹿市を取り囲む各地で対決という名目である。
女鹿半島の付け根に大きくまたがる九朗湖を、ぐるっと反時計回りに進む一行。
「ちょっとのんびりしすぎたな。高速で行くぞー」
言いながら、大平は車を高速に乗り入れる。
「あれ、湖東三町の対決は?」
助手席の新政が訊ねる。確かに、このまま進めば、次は九朗湖の東に位置する南秋穂郡の三つの町、通称湖東三町での対決があるはずだ。
「あとあと。もうこんな時間だし、まずは旅館に行こうぜ」
「ま、それはそうだね。ゆっくりしたいー」
各チームのリーダーが言うのだからそれでいいのだろう。そかそか、と新政も納得しているようだ。
「旅館! 温泉ありますかね?」
「もちろん。琴森温泉だからね!」
キャハハーやったーとコスプレコンビでテンションが最高潮に。
「あれ、琴森温泉郷だと、どっかのホテルが温泉差し止められてなかったっけ。温泉料金滞納とかで」
高清水が水を差すようなネタを出してくるが、大平は問題なく切り返す。
「大丈夫だ、さすがにそのホテルはすでに破産してしまったよ。しかし、おい高清水」
「なにかー?」
「お前よくそんな『ビブリボン』なんかやりながら話せるな」
「楽勝らくしょう。久々にやると『ビブリボン』いいねー」
そう、さっきから普通に会話をしているが、ずっとPSoneで音ゲーの『ビブリボン』をプレイしているのだ。対決のお題にするかどうかは別として、大平が仕込んでおいたソフトの一つだ。高清水が嗅ぎつけて車の中で遊び始めたのだ。
曲に合わせて歌い出す高清水。画面上のビブリはループやら穴やらギザギザやら、それらが混ざったものやら、とにかく軽快にステップしていく。
「しかも超絶うまいんだよね……」
感心しながら亜也子も見物し始める。高清水は音ゲーが大の得意分野なのだ。
「ねね、泉さん、歌詞これわかるんですか? ぜんぜん聞き取れないですよわたし」
旭川にそう聞かれると、高清水は一旦歌うのをやめ、でもプレイの手は止めず、ちょっと恥ずかしそうに、
「んー、実はあたしも適当に曲に合わせてるだけー」
と、にゃははと笑うのだった。
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