第17話 月夜の晩に 三

 一方、安行を担いだ壮太たちは、町外れの通称「かっぱ寺」の近くに来ていた。それほど辺鄙なところでもないのに、河童が出ると言う噂があり、また、その寺の和尚の風貌が河童に似ている所から「かっぱ寺」と呼ばれていた。

 寺から少し離れたところに一本の木がある。そこで、安行を下ろす。ぐりゃりとしたままの安行に、壮太が気付けをすればバタバタあがき始めるも、すぐに木に括りつけられる。

 弦太は匕首を抜き、弥助に握らせ、さらにその上からがっちりと押さえつけるように弥助の手を掴む。そして「わかってるな」と弥助の顔を睨めば、弥助は力強くうなづいた。

 安行は恐怖で唸りながら、それでも必死の抵抗をしている。壮太は安行の頭を押さえつけ「早くやれ」と合図をしている。

 弥助は震える手で安行の髷を掴み、根元に匕首を当てる。じょりじょりと軋む音を立てながら髷を切り落とせば、弦太は素早く弥助から匕首を取り上げる。

 弥助は安行の目隠しを取った。ここまでくればもう顔を見られても悔いはない。だが、月は弥助の背にあった。


----よくも、よくも…。


 弥助は思い切り安行を殴りつける。安行が鼻血を出すと壮太が弥助を止め、弦太が小声で言う。


弦太 「もういいだろ」


 ふたりして、その場から弥助を引き離す。

 一部始終を見ていた繁次だったが、安行の様子を確認すると、すぐに三人を追いかけ、牛川と猪山の二人の行き先を聞き出し、それこそ一目散に走り出した。

 月は最後のフットライトの様に安行を照らし、弦太と壮太に挟まれ帰路に付く弥助の背も照らしていた。








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