第16話 月夜の晩に 二

 約束の場所に行くと、忠助、弦太、壮太の三人はすでに来ていた。


万吉 「すいません、遅くなりまして」

忠助 「いや、俺たちも今来たところだから」

万吉 「実は、嗅ぎつけられまして…」

繁次 「どうも」

仙吉 「すいませんねえ」


 忠助は繁次を知っているが、弦太と壮太はよくは知らない。


繁次 「かわら版屋の繁次です」

忠助 「いいから、それなら、向こうへ」


 言われるままに向かい側に身を隠す繁次だった。それにしても、これから何が始まるのか気になる。


忠助 「今一度、辺りを」


 万吉と仙吉の役割は、見張り兼後片付けだった。


仙吉 「兄貴、旦那遅いですね」

万吉 「何だ、お前、震えてんのか」

仙吉 「武者ぶるいですよ」

万吉 「俺たちは見張り役じゃないか、見張りが震えてどうすんだい。それに、も

   う一つ大事な仕事がある」

仙吉 「しっ、もう私語は禁止でさあ」


 万吉は口パクで、うるせえと言う。その時、走る足音が近づいて来た。二人は顔を見合わせ、口パクで「旦那だあ」と言う。

 真之介がやって来た。


真之介「みんな、揃ってるか」

忠助 「揃ってます」

真之介「もうすぐ来る」 


 身を潜めれば、やがて、安行たちのダミ声が響いてきた。弥助は万吉と仙吉に両腕を掴まれる。これが二人のもう一つの仕事だった。血気に逸った弥助が飛び出さないようにしっかり押さえて置くことだった。

 安行、牛川、猪山の三人が与太りながら、隠れている真之介たちの前を通り過ぎれば、荷車を引いた忠助が三人の行く手を阻む。


牛川 「何やつ、どけ」

猪山 「どかぬか、どけ」

牛川 「邪魔立てする気かあ」


 そして、真之介の合図で、棒を持った弦太と壮太が飛び出し、三人を殴って気絶させると、皆一斉に飛び出す。先ずは腰から刀を抜き、目隠し、猿ぐつわ、着物に足袋まで脱がせ、縛り上げた安行を大男の壮太が担ぎ上げる。

 真之介が「行け」と目で合図をすれば、弦太は弥助の腕を掴み、壮太とともに歩き出す。牛川と猪山の二人は荷車に縛り付けた。だが、荷車は反対側の方へと動き出す。

 これに慌てたのが繁次だった。やつらを気絶させた後、着物を脱がせどこかへ縛り付けるくらいのことは想像ついたが、それを別々にどうするのかと焦りまくる。

 こんなことなら、もう一人誰か連れて来るのだったと今更後悔しても始まらない。迷ったが、やはり、安行の方の後を追うことにした。


万吉 「かわら版屋です。嗅ぎつけられまして」


 と、万吉が真之介に言っていると、仙吉が万吉の袖を引く。こんな時にと思いながら振り向けば、今度は万吉が真之介の袖を引く。

 真之介が振り向いたその先には、ガクブル状態の拮平がいた。


真之介「ここで、何をしておる」

拮平 「い、いえ、何も」

真之介「何も見てないなら、早く失せろ」

拮平 「は、はい」


 拮平は体半分ほど、その向きを変えたが、腰が引けて中々最初の一歩が踏み出せずにいた。


真之介「早く、行け」


 と、真之介に腰の当たりを蹴飛ばされ、体をガクガクさせながら、もつれるような足取りで走り出す拮平だった。


万吉 「大丈夫ですかね」

真之介「心配いらんだろう。後は適当にごまかしておけ。それより、後始末を

   頼む」


 忠助が荷車を引き、万吉と仙吉は、彼らの刀や着物を風呂敷に包み、辺りの足跡や荷車の轍を消していく。







































 














 






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