第15話 月夜の晩に 一

 今夜、決行する。

 これ以上長引かせる訳にはいかない。

 密花、雪路、糸路の話を合わせれば、ふみとの縁談は真之介が金の力で強引に押し進めている。金のためにあんなにわか侍の所へ嫁ぐと言うのでは、あまりにふみが気の毒だ。何とかしてやりたいと思っているところに、真之介の方からすり寄って来た。そこで「敵」を知るために誘いにのってやった。

 だが、その後の彼らの落ち着きぶりを見れば、今すぐ何か行動を起こすのではなく、もっと先の方へ焦点を合わせているようだ。

 多分、いや、きっとそうだ、真之介とふみの祝言当たりに、何か仕掛ける気だろう。

 幸せの絶頂から突き落とす…。

 安行の性格ならありうることだ。

 そうはさせるものかと忠助と計画を練った。さらに、何でも屋との事前の打ち合わせの時、弥助と言う男の話を聞いた真之介は、その弥助も計画に加わらせることにした。

 何も知らないこの三人は今夜も上機嫌だった。雪路と糸路にしなだれかかられ、目尻が下がりっぱなしの牛川と猪山。ふみも密花も手に入れたい安行。

 芸者たちには計画を伝えてある。皆、協力を惜しむものではない。それこそ腕によりをかけて、彼らをたらし込んでいるのだ。

 真之介は酒を隠してある器に捨てるか、静奴が代わりに飲む。また、静奴はそれらを実に巧妙にやってのけた。

 そして、今夜もお開きとなり、いつもの分かれ道で、いつもの様に笑って彼らと別れた真之介は、少し酔った態で歩いていたが、やがて足を止めチラと後ろを振り向いたかと思うと、何かを吹っ切るように走りだした。

 だが、そこには思わぬ「伏兵」がいた。

 振り向きはしたが、その伏兵は目に入らなかった。


 それは、拮平だった。

 月夜の晩に、拮平は一人で歩いていた。

 毎日面白くない。日頃はウザく感じる真之介の上昇志向も、今夜はなぜか羨ましい。

 どうしたら、あんなに上ばかり目指せるのだろう…。

 決して、現状に満足している訳ではないけど、何かもう、面倒くさい。父親は嫁を貰えば気持ちも変わると言うが、今はそれすら面倒だ。

 面白くないので町をぶらついてみたが、変わり映えのしないいつもの町でしかない。

 とにかく、面白くない…。

 面白くなくても腹は減る。ちょうど蕎麦の屋台が出ていた。最初の一口で胃が動き出し、次々と蕎麦が流し込まれていく。気がつくと三杯目を食べていた。さすがにこれ以上は無理だ。

 屋台を後にすると、騒々しい酔っ払いの声が聞こえて来た。見れば、四人の侍がオダが上げていた。


拮平 「真ちゃん…」


 四人のうち、一人は真之介だった。


拮平 「ああ、最近付き合いが悪いと思ったら、こう言うことだったのね。ふん、

   偉くなったもんだよ。こっちはかけ蕎麦三杯なのに、金持ちは茶屋遊びか

   い。何さ、いい気なもんだよ、まったく」


 だが、三人と別れた真之介がチラと後ろを振り向く。拮平は自分に気が付いてくれたのかと思い、声をかけようとした時、真之介は勢いよく走りだした。

 釣られるように、拮平も走り出すが、すぐに脇腹を押さえる。


拮平 「いたたたぁ」


 それでも脇腹を抑えつつ、真之介の後を追う拮平だった。


拮平 「真ちゃーん。君の行く道は遠いよぉ。だのに。なぜ。君は行くのか。そん

   なにしてまで…」


































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