第11話 若者たち 一
真之介「お前も一緒にやるか」
弥助 「はい!是非!あんな奴、本当、殺してやりてえ!」
真之介「おい、勘違いするな。やると言っても、殺すんじゃねぇぞ」
弥助 「そんな!そのためなら、俺、死んだっていいんです!」
真之介「お前なぁ、旗本殺して自分も死んで、それで済むと思ってんのか。そんな
ことしてみろ、お前の家族も皆殺しにされるぞ。旗本、なめんな」
弥助 「えっ、そんなら、一体どのように」
真之介「但し、仲間に加わるとなった以上、もう、ここからは一歩たりとも出せね
え。ここにいるのは口の固い信用がおける者たちだ。だが、お前とは会った
ばかりで、気持ちはわかるが、つい口でも滑らされたら、それこそこっちは
一大事だ」
弥助 「……」
真之介「もし、気が変わったなら、それでもいい。だが、明日の朝まではここから
出せねえ。おい、こいつ縛っておけ」
万吉と仙吉がうなづく。
弥助 「そんな、気が変わるだなんて…。是非一緒にやらせてください。言う通り
にしますから、お願いしますよ、旦那」
何でも屋には、真之介と下男の忠助、妹お伸の護衛の弦太と壮太の他に、弥助と言う青年がいた。
この弥助には、お志乃と言う恋人がいた。周囲も公認の仲で、弥助はお志乃と所帯を持つために、必死に働き金を貯めていた。
そして、たまの楽しい逢瀬。日も暮れてきたとはいえ、別れがたい。そんな二人が別れを惜しんでいた時、二人の侍にお志乃が連れ去られてしまう。抵抗した弥助も怪我を負ったが、それでも、お志乃を探しまわった。ようやく明け方近く、ぼろぼろになっているお志乃を見つける事が出来た。
家に連れ帰り、泣きながら看病したものの、逃げる時に出来た傷口から、ばい菌が入り、それが元でお志乃は亡くなった。
お志乃の最後の言葉が「じんがみ…」だった。
いてもたっていられない弥助は、仁神を付け狙うもすぐに二人の供侍にボコボコにされてしまい、その後は漫然と生きていた。だが、思いがけずも仁神たちを襲撃する話が舞い込んできた。
弥助のことを知った真之介が仲間に引き入れたのだ。
真之介「いいか。何と言っても相手は侍だ。決して油断するな。そして顔は見ら
れないよう、声も出すな。手筈通りにやれ。わかったな。弦太と壮太は先
ずは店に帰れ」
二人は何でも屋を出て行く。
真之介「弥助、お前の悔しさはよくわかる。俺には妹がいるんだ。その妹のために
やるんだ。いや、妹のためだけじゃねぇ…。だからな、力を貸してくれ」
弥助 「はい!」
真之介「じゃ、後のことは頼んだぜ」
万吉 「合点だ!」
仙吉 「任せてくだせえ。頼りない兄貴には俺が付いてます」
真之介と忠助も何でも屋を出て行く。
万吉 「うるせっ、お前はいつも一言多いんだ」
お澄 「そんなことより、早めの準備だよ。うちの縄はもう古いからさ、新しくて
丈夫なのを。それと」
仙吉 「はいはい」
お澄 「仙ちゃん、返事は一回」
仙吉 「いえ、もう一回は兄貴の分です」
万吉 「何だと、それが余計なお世話ってんだ。大体お前はな」
お澄 「はい、今日はそこまで。早く、行っとくれ」
万吉と仙吉も出て行く。
お澄 「まあ、いつもこんな調子なんですからね。さっ、弥助さんはこっちへ上
がってくださいな」
弥助 「へい」
お澄 「まだ、時間もありますから、もう少しゆっくり出来ますよ。ああ、あの二
人はさ、ゆっくりと言えば、本当にゆっくりしてしまうんでね。困ったもん
ですよ」
弥助 「それで、姉さん。あの旦那の妹さんはどうされたんですか」
お澄 「それが…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます