第6話 真之介の難題 一 

 真之介はなんでも屋にいた。


万吉 「旦那、調べました」

真之介「やはり、曰くつきの娘か」

万吉 「まあ、曰くっちゃあ、曰くですね。それもある意味大変な曰く」

真之介「どんな曰くだ」

万吉 「それより旦那、旗本仁神家の若殿のことはご存知ですよね」

真之介「話には聞いておる」

万吉 「その、若殿がご執心なのが、旦那のお相手のふみ様」

真之介「……」

万吉 「このふみ様、旗本小町と言われるほどお美しい方だそうで。その噂を聞き

   つけた若殿が屋敷まで押し掛け、一目で気に入っちゃって。まあ、若殿とし

   ては正室に迎えたいところなんでしょうが、子供の頃からの許嫁がいるもん

   で、誰よりも大事にするからと側室に望んだんですけど、三浦様の方、特に

   お婆様が頑として側室にはやらぬと」


 その話は真之介も聞いたことがある。だが、相手の娘の名前までは知らなかった。まさかそれが、自分の縁談相手であったとは…。


万吉 「まあ、あの若殿が普通の男であのお家柄なら、誰でも喜んで側室に行くで

   しょうけど、何しろ…。とにかく、人が持ってるもの。それも特に大事にし

   ている物を横取りするのが好きってんですから。だからって、その物が欲し

   いと言うより、取られた相手がうろたえたり、困る様を見るのがぞくぞくす

   るほど楽しい。欲しいものは何でも買ってもらえるけど、それじゃ面白くな

   いって、子供の頃から公言してたそうです」


 年頃になってからの安行の所業は真之介も耳にしている。二人の家来を従え、往来の真ん中をのし歩いているのを見かけたこともある。


万吉 「大人になってからは尚のこと、たちが悪いですよ。気に入った娘がいると

   引っさらい、特に若い男女が逢引きしているのを見ると、これがもうたまら

   ないってんですから。どっちにしてもあの腰巾着共々三人にいい様にされ、

   後は知らん顔。人妻でもやられたことがあるとか。これが相手がお旗本なん

   で、みんな、泣き寝入り…。今は仁神の姿を見かけると大人たちはすぐにも

   若い娘を隠すんですけど、それでも餌食になってしまう娘もいて…。やり切

   れませんや、こんな話」


 聞いてるだけで、気分が悪くなってくる。


万吉 「そこへ持って来て」


 まだ、あるのか…。


万吉 「これがまた、気が短いんで。ちょっと気に入らないことがあると、物は投

   げる、壊す、男でも女でも殴る蹴るなんて日常茶飯事。あの屋敷で若殿に殴

   られなかったのは、両親と正室くらいだとか」

真之介「それ、親は注意しないのか」

万吉 「奥方は例によって息子べったり。息子を怒らせるほうが悪いという図式で

   して」

真之介「父親の方は」

万吉 「実はこの奥方、さるお大名の姫君なんですが、さらに、大殿も昔、ちょい

   とやらかしたもんで、もう、奥方に頭が上がらないんですって」

真之介「……」

仙吉 「はい、交代。旦那、兄貴が今までしゃべったことはすべて俺からの情報で

   すからね」

万吉 「何言ってんだい。二人して聞き込みに行ったじゃねえか」

仙吉 「でもさ、少しは俺にも、ねっ」

お澄 「いいじゃないの。交代しておやりよ」


 万吉は仕方ないなと言う顔をしている。どうやら、ここは女より、男の方がしゃべりたいようだ。


仙吉 「その後、若殿は正室を迎えられ、また、ふみ様の方にも縁組の話があった

   んですけど、それを知った若殿が、その相手に圧力をかけ破談にしたとか。

   それからはふみ様にはどこからも話が来なくなったんだそうです…」


 それからも、仁神の「ふみ詣で」は続いたようだが、祖母がかたくなに拒否した。


仙吉 「で、ある時、とうとうしびれを切らした若殿が、ふみ様を略奪すべく実力

   行使に打って出ようとしたんですが、それを必死に止めたのが、尾崎友之進

   様と言うお侍。その時は何とか止める事が出来たんですが、憤懣やるかたな

   いのが若殿。この尾崎様には許嫁がいまして、そこで、尾崎様に何でもない

   用事を言いつけて外出させ、その隙に許嫁を呼びつけ、手籠にしちゃって…。

   さらに、それを尾崎様に見せつけたって言うんですから」


 その後、この許嫁は自害したと言う。


仙吉 「それにしても、ものすごい執着心ですよね。再度、また、ふみ様を略奪し

   ようと家来を引き連れて行ったまでは良かったんですが、どうにも三浦家の

   様子がおかしい。実は、その日、お婆様が倒れられ、まあ、そのままお亡く

   なりに…」


 仁神安行の非道さに唖然とするしかない。


仙吉 「それで、近くそのお婆様の喪が近く明けるんです。うるさい人がいなく

   なっちまったもんで、また話を蒸し返すことは容易に想像付きますが。何し

   ろ、待たされ続けたもんで、喪が明け次第、略奪しに行く気満々で、尾崎様

   にも今度は止めても無駄だと言ってるとか」

真之介「それで、急いで俺のとこに話を持って来たという訳か」

仙吉 「そうでしょうねえ。いくら家柄がいいたって、あんな暴力男のところへな

   んざ、誰だって行きたくありやせんや」

真之介「それで、本当に親は何も言わないのか」

仙吉 「奥方も一緒なんですよ。格下の家の娘が断るとは何事かって、怒ってるっ

   て」

真之介「はぁ…」

お澄 「でも、旦那。これからは夜道なんか気をつけてくださいよ。ふみ様とのこ

   とが知れたら、仁神に狙われるかもしれません。それくらいやりかねません

   よ」

万吉 「いや、待てよ。旦那もだか、お嬢様、お伸様も気を付けねえと…」


 お伸とは、真之介の妹である。


真之介「んっ」

万吉 「だってそうでしょ。ひょっとして、旦那にふみ様取られるとしたら、その

   代わりに妹をってことになりませんかね」

お澄 「そうよ!それ、ありうる…」

真之介「また来る」


 それだけ言って何でも屋を後にした真之介はひたすら走った。





































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