第4話 何でも屋

万吉 「チーヨちゃん。今日はどこなのぉ。いつまでも隠れてないで、早

   く出ておいでよ。俺ってさぁ、もう、かくれんぼなんて飽きちゃっ

   たからさあ」


 そして、潜んだままじっとしているチヨを発見する。


万吉 「あらぁ、チヨちゃん見っけ。さあ、早くお家に帰ろうね」


 と、そっと手を伸ばすものの、今日もチヨの襲撃にあってしまう。


万吉 「ぎゃああああ」

仙吉 「やっぱり兄貴は駄目ですね」


 猫のチヨを抱いた仙吉が言う。


仙吉 「雌猫にまで嫌われてどうするんす」

万吉 「うるせっ」


 チヨは一人暮らしの老女、お種の飼い猫。それこそ猫かわいがりで、ちょっとチヨの姿が見えないと、すぐに「よろず何でも引き受けます」の札が掛かっている通称「何でも屋」に駆け込んでくる。これも仕事なので、万吉は早速に探しに出かける。いくつかあるチヨの潜伏先は知っている。そして、いつもチヨにやられてしまう。


万吉 「お前、あっちは片付いたのか」

仙吉 「ええ、そればかりか、こうして兄貴の仕事まで助けてあげてんじ

   ゃないすか」

万吉 「なら、いつものように頼むわ。なあ、雌猫にしか、もてねえ仙吉

   さんよ」


 と、言い捨てて、万吉が事務所兼自宅に帰って見れば、そこには真之介がいた。さらに、妹のお澄が真之介に張り付いている。


万吉 「おや、旦那。ご無沙汰してます」

真之介「また、どこかの猫にやられたか」

万吉 「いえ、これは公傷です」

お澄 「何が公傷なものかい。かすり傷の一つや二つ」

万吉 「それより今日は何です。お澄なんかと内緒話でもあるまいに」

お澄 「それがさ、私、今ね、旦那に口説かれてたの」

万吉 「うるせっ、寝言は寝てから言やがれ。誰がお前みてぇな、亭主持

   ちのおかちめんこなんぞ、誰が口説くもんか」 

お澄 「おかちめんこだけ余計だよ。それが世話になってる妹に言うこと

   かい」 

万吉 「世話になってるったって、俺だってちゃんと仕事してるじゃねえ

   か。おまけに亭主が留守の間の用心棒もしてやってんだ。ありがた

   く思え」

お澄 「あ~あ、こんなことなら、旦那の妹に生まれりゃよかった」

万吉 「何を今更、あほらしくて欠伸も出やしねえ」

お澄 「ふん、何さ」

真之介「おいおい、まあ、後は仲良くやってくれ。それじゃ頼んだぜ」

万吉 「あれ、旦那。もうお帰りで。もっとゆっくりなさってください

   よ」

お澄 「何言ってんのさ。折角二人きりだったのに、誰かさんが水を差し

   に帰って来たんじゃないか」

万吉 「そんなことより、旦那の頼みって何だ」

お澄 「おっといけない。仕事だよ。待望の調べ仕事だよ」


 猫探しなんかより、本当は「調べましたぁ」なんてやりたい。そこへ仙吉が帰って来る。


仙吉 「帰りました。ところで今、真之介旦那にお会いしましたけど、何

   か仕事ですかい、姉さん」

お澄 「仙ちゃんは察しがいいね」

万吉 「あのよぅ、俺だって聞いたじゃねえか」

お澄 「それより、大変な仕事だよ」

仙吉 「何なにぃ」

お澄 「実は旦那に縁談があってさ。その相手と言うのが旗本の姫様」

万吉 「ええっ」

仙吉 「そりゃ、また」

お澄 「旦那もね、俺んとこへ来るような話じゃねぇ、調べてほしいと

   さ」

万吉 「で、その姫様はどちらの」

お澄 「三浦播馬様と言うお旗本の娘で、名はふみ様」

仙吉 「三浦ふみ様…。どっかで聞いたことのある名だなあ…。ああっ!

   思い出したっ」

お澄 「なになに、何を思い出したのさ」

仙吉 「こりゃ、大変だあ」

お澄 「だから、何なのさ。ちょいと仙ちゃん、早く聞かして」

仙吉 「姉さん、ほら、仁神の…」

万吉 「おい、仁神って、あの仁神?」

仙吉 「兄貴、他にどこに仁神なんて名字ありますかい」


 万吉とお澄は二人してため息をついてしまう。


万吉 「しかし、寄りによって、それが旦那のとこへ来るとはなあ」

お澄 「とにかくこうしちゃいられない。出来る限りのこと調べて一日も

   早く旦那に知らせなくっちゃ」

万吉 「そういや仙吉、確か仁神とこの誰かと知り合いとか言ってたよ

   な」

仙吉 「出入りの米屋の小僧ですが、こいつが人懐っこい野郎でして、仁

   神の女中たちに気に入られてまして、そんであれこれ聞いているそ

   うで」

お澄 「仙ちゃん、その小僧さんや女中さん達からも、出来るだけ聞き出

   してみて。あ、兄貴も一緒がいいか。私も横町のご隠居に聞いてみ

   るから」


 「へい」と言って、仙吉は手を出す。


お澄 「何さ」

万吉 「もう、とぼけんな、軍資金。手ぶらじゃ人の口は開かねえぜ」


 お澄は財布をひっかきまわし、一朱金を取りだす。


お澄 「悔しいけど細かいのないし、まあ、旦那のためだから。でもさ、

   調子のって全部使うんじゃないよ」


 金を掴んだ万吉と仙吉は飛び出して行く。


お澄 「おっと、私もこうしていられないっと」


 お澄は隣に声をかける。


お澄 「お鹿さん、留守番お願いね」


















































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