第19話巫女クレア

旅に出て、25日が経過した。現在、聖王国へ到着したところだ。一度寄ったところなら転移できるため、帰りはほとんど時間がかからない、巫女クレアとの約束で聖王国にいる。聖王国の町並は帝国程立派な建物ばかりではないが、伝統ある古風ある建築物が建ち並ぶ。


「なんだか、他の国と違うね」


「確かにな、建物は見たことないものばかりだ」


「前来たときは簡単に通り過ぎただけだから、周り見る余裕なかったけど、改めてみるとすごいね」


「あの建物なんかすごい高いぞ、城でもないのに、時計まで着いている」


 妹2人は新鮮な建物を見てはしゃいでる。スレインは女子2人の話に入れず、またそれほど興味もないので、話には入れなかった。

 聖地と呼ばれるこの場所は、警戒が厳重で約束はしたものの、城の中に入れるのか一抹の不安を感じる。

 まあ、スレイン的には入れないなら入れないで、黒の砦に帰還すればいいだけなのだが。

 城の前まで到着するとまた城も一風変わっていた


「なんだか・・・大きい教会みたい」


 教会を何十倍にもすればこんな感じになるかなという建物が目の前にある。


「まあ、とりあえず門の兵士に話してみよう」


「兄さんは結構淡白なんですね。興味とかはないんですか?」


「う、うん、僕としてはあんまり・・・」


 スレイン的にはさほどの価値が感じられない、それよりも黒の砦のほうが価値としては優先させる。


 門の兵士はジロリと睨みながらこちらを観察する。その視線に妹2人は多少浮き足立つが、スレインは気にしてないかのように、兵士の前に行き、巫女に会いに来た旨を伝える。当初は兵士は当然のごとく断ってきたが、名前を出したらすんなりと通してくれた。どうやら話は通っていたようだ。スレイン的にはすぐ帰れずに少しがっかりした。兵士が案内をしてくれるようで、その先導に着いていく。

 中は帝国程飾りなどは豪華には見えなかったが、芸術的にはこちらのほうが価値は高そうなのが通路を歩いて伺えた。随分、歩いてやっと目的地に到着し、兵士が中をノックして、中の人と一言二言話して、中に入るよう促される。

 中に入って、3人はびっくりした。てっきり応接室かと思っていたら、中にいたのは巫女クレアだったのだから。どうやらスレイン達が来たら直接通すように言われていたようだ

 スレイン達の姿を確認して、クレアは嬉しそうに笑む。


「ようまいった、随分遅かったようじゃな。てっきり来てくれないかと不安じゃったぞ」


 そう言って、席に座るよう促される。


「妾は本当に嬉しいのじゃ、この時を待っていた」


 喜ぶクレアにアリスは口を開ける。


「あの・・・私達が呼ばれた理由ってなんですか?兄さんの黒髪と黒目に何か関係があるのですか?」


 クレアは驚いた顔をして。


「そうじゃったそうじゃった、嬉しくて本題を話しておらんかった。よいか、ここで話すことは口外してはならんぞ、よいか?」


 3人は頷く、それを確認して話始める。

 クレアが話した内容は現実では信じられない話だった。



 約3000年以上前、東洋に一人の大魔導師の男がいた。その大魔導師は世界でも同格の者が存在しないほどの魔法使いだった。彼は魔導の為に人生を捧げていた。魔導を追求するあまり人が触れてはいけない禁断の召喚を行った。世界の知識とも言える、グリモアの書を得ようとしたのだ。グリモアの書は世界の知識であり近くにもあり、近くにない存在、そして魔術とはグリモアの書の知識の一部を与えられて使っている術でもある。姿ない知識。

 それを彼は得ようとした、その結果、世界は滅んだ。実際は生きている人間がいるわけだから、滅んではいないのだが、滅んだと言っても過言ではないだろう。

 グリモアの書は知識を与えもするが奪いもする。

 失敗したことでグリモアの書は、すべてを奪った、人、動物、植物、そして大陸すらも。


 話を一通り聞いて、スレイン、アリス、ティラは驚きを隠せない


「では何故僕達が生きているんですか?」


 クレアはそれを待っていたかのように頷く。


「それは台風の目というのがあるじゃろ、あれと一緒じゃ被害が少なかった。じゃが、被害が少なかったとも言うても、大陸すら奪った力じゃ甚大な被害じゃった。今住んでいるこの大陸を残して全て奪われた。そして今住んでいる人間も被害を受けた。元々はな、ここに住んでいる民族は黒い髪と黒い目をしていたのじゃ・・・。だが知識の一部として奪われ変貌してしまった。母様はイデンシソウサされたとか言ってたかのう。それは動物も同じじゃな。怪物が生まれた」


「母様とは?」


 ふと疑問をアリスは口に出す。


「母様は、妾を拾ってくれた人じゃ。1000年くらい前にのう。母様はグリモアの書を呼び出した男の妹じゃ、一番影響がある場所におり、唯一それに奪われなかった人じゃな」


「1000年前・・・・」


「母様は唯一耐えることができ、恩恵を与えられた。それは知識の一部を直接体内に収めたことを意味する。ゆえに、変貌はせずに黒い髪と黒目じゃった。母様以外ではスレインお前が初めてじゃよ黒髪と黒目を持つ人を見たものは。母様は3000年の時を生きていた。それはグリモアの書の莫大な知識が寿命を延ばしてくれたと言えよう」


 クレアは飲み物を一口いれて。


「母様はな、唯一生き残った人達を救おうとした。他の人たちは知識の大半を奪われてしまって、人の形はしていたが抜け殻のようじゃったそうだ。母様は少しずつ周りに生きる知識を与えた。その最初の場所がここ聖王国なのじゃ。聖王国と呼ばれるようになったのはここ数百年のことじゃがな」


 スレイン、ティラ、アリスはクレアの話が別次元の話の様に感じられ、何も言えなかった。

 クレアはその表情を見て、少し悲しそうな顔をする。


「妾も母様が言わなんだ、信じようとはせんかったよ。お主らの表情は仕方ないのう。まあ、母様は人を導くと同時に、2度と悲劇を起こさないよう、グリモアの書を呼び出すものがいないよう監視もした。母様はグリモアの書に与えられた、先読みの力で先を見ることができたからのう」


「先読みって・・・未来を見ることができたのですか?」


「そうじゃ、グリモアの書の知識は世界そのものじゃ。その力に耐えられた者には1つだけ根源が与えられる。それが未来を見通す力じゃった。母様は3千年見張ってきた。じゃがな・・・」


 クレアは口を閉ざす、その表情はとても辛そうだった。


「じゃがな、力を使えばいくら強大な力を与えられた母様でも、少しずつ失われる完全に失えば寿命を長らえることもできなくなることじゃ・・・。500年前に母様は私に跡を譲って亡くなってしまった・・・。妾は母様の跡を継いでいるわけじゃが、母様ほど力はない。1500年ほどで妾の力はなくなるじゃろうな・・・」


「クレア様も先読みの力を?」


 クレアは頭を横に振る。


「妾の根源は、摸倣じゃ。母様の力を真似たのじゃ。ゆえに母様ほど未来は見えんし、寿命も母様ほど長くはない・・・」


 ティラはハッとして口を開ける。


「まさか・・・・兄様にその跡を継げというわけですか・・・?」


「そうじゃ・・・完全な黒髪と黒目じゃ・・・根源がなにか知らんが、跡を継いで欲しいのじゃ」


「そんな・・・」


 ティラは手を口に当て動揺する。


「今すぐというわけではない、お主らの目的が終わってからでかまわぬ」


 沈黙が降りる。

 クレアの考えは理解できると同時に、悲しいことだとも思った。

 それにいまだに話が完全に理解できたわけではない。


「ですが僕には先を見る力なんてないです」


 スレインは沈黙を破る、クレアはスレインの目を見る。


「お主はどういった力が使えるのじゃ?」


 スレインは少しためらいながら。


「魔法の様なものが使えるだけです・・・」


 クレアは少し思案する。


「どういった魔法じゃ?」


 それにティラがスレインが答えづらいと代弁する。


「兄様は魔法なら詠唱なしで使えます。それに魔法を新しく作ることもできます」


 クレアの顔が一瞬驚く。


「何!新しく魔法を作るじゃと・・・」


「ええ・・・ある程度のことならできると聞きました」


「不可能じゃ、いくら黒髪と黒目の母様ですら、作ることはできなかった。魔法とはな、グリモアの書の知識を人間が多少借りて使うものじゃ、すでに全ての魔法は母様の時代には魔法は開示されつくしておる。今この世界に広がっているのは母様がその知識を元に広めたものじゃ」


 クレアは声を荒げる。


「でも・・・・」


 クレアは少し思案する。

 もしかしたら魔道書の中にあると知らずに新しく発明したと勘違いしておるのかもしれないと。


 そう考え少し落ち着きを取り戻し。


「ほかに何ができる?」


 ティラは多少動揺しながらこれ以上言ったらクレアがまた声を荒げるんじゃないかと、言葉をためらう。

 クレアはその表情を見て、安心させるよう微笑む。


「治癒の力を使います・・・一昨日も魔法で治せない、不治の病を治しました」


 クレアは絶句する。

 そして呟く。


「ありえん・・・不治の病を治したじゃと・・・皇帝ということは魔法も薬も一流のものがそろっていたはず・・・それでも治せないものを治した・・・」


 クレアはそこで口を閉じる。


 それは、つまり寿命がそこで尽きるはずだった因果を覆したことになる。

 人には必ず寿命がある、どうやっても覆せない因果が、ただ一つだけできる力は・・・・。


 それでは、スレインがグリモアの書そのものを内包していることではないか

馬鹿なこと・・・それでは・・・妾や母様がやってきたことが無駄だったということになる。

 そんなことは不可能だ、人には不可能だ。それをすれば母様の兄のようになる。

 クレアは動揺する、胸の鼓動がいまだに聞こえるほどの音が鳴る。

 クレアのそんな様子を見て、ティラは困惑する。


「あの・・・・」


 クレアは声が聞こえ、俯いていた頭を上げる。


「すまぬ、少々驚いてしまってな、話は今日はこの位にしようぞ。宿はとっておるのか?」


「いえ、話が終わったら黒の砦にもどりますので」


「しかし、距離があろう・・・」


「兄様が転移すれば一瞬です」


 クレアは顔を歪めそうになる、しかしなんとか保つ。平静を装い。


「そうか、わかった。気をつけて帰るのじゃぞ。また用があれば来てもらえると嬉しいのじゃが?」


 それにスレインは頷く。


「突然来て申しわけなかったです。では失礼します」


 挨拶をしてスレインたちは立ち去る、クレアはその去る姿を微笑みながら見送る。

 見送ったあと、クレアは苦渋の表情を浮かべる。

 転移じゃと・・・ここからサイラスまで300キロ以上はある・・・。

 魔道具同士の転移なら可能だが、それは母様が禁止した。

 魔法だけなら普通の魔道士ならせいぜい数キロが限界・・・。

 母様にもそんなことは無理じゃった・・・。

 妾でも無理じゃ・・・。

 他の会ってきた黒い髪、もしくは黒い目のどれもがそんなことができんかった。

 あくまでも根源が中心なのだから、魔法は普通の人よりはグリモアの書の一部を手に入れたことによって、並の人よりははるかに強力に使うことができるが、桁が違いすぎる。


「スレイン、何者なのじゃ・・・・」


 クレアの言葉が虚しく部屋に響く。


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黒の王 @kakine

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