第18話危機

スレインが出発してはや十日が過ぎた。黒の砦内は騒然としていた。その原因は1通の手紙が原因であった。差出人はサイラス国宰相、その1通の手紙を中心に置き、シーク、グレン、レオンは苦悩する。



「おいおい、まじかよ。話は通ってなかったんじゃないのかよ」


 グレンは憤る、怒りをぶちまけたい衝動に駆られる。


「そのはずだったのですが、心替わりされたようですね」


「ここには500余名しかいないぞ、防げるのか」


 3人は円卓の会議で問題の手紙の内容を考える。

 その手紙の内容は、サイラス王が黒の砦に対して、兵を差し向けたということだった。その数、8000。更にサイラスの宰相が幽閉されたと手紙を持ってきた者の話だった。


 事の発端は、黒の砦がサイラスと傭兵稼業の契約をよく思わない宰相派を敵対する勢力が、王に讒言したことで、王は怒り兵を差し向けたのが原因であった。


「しかし、いまはその事は問題ではありません。スレインさんが不在の間、帰る場所を守らなければいけないのです」


「ああ、そうだな、だが8000か10倍以上だな。撃ってでるのは得策じゃないな」


「ええ、ここは籠城するのがよいでしょう」


 シークは冷酷な笑みを零す。

 グレンはそれを見て、驚く。


「おい、お前がその笑いをするってことはなにか考えがあるんだな」


「ふふ、恐らくは私の思惑どおりにいくでしょう。寿命を縮めましたなサイラス王」


「なにがなんだか、俺にはわからないが、まあやれることはやるさ」


 レオンはめんどくさそうに頭を掻き答える。


「では、私の作戦通りに動いてもらいます。いいですか決して砦からでずに防備に集中するようお願いします」


 シークの言葉に2人は頷き、グレンは気合を込めるよう手のひらに拳を当て。


「よっしゃ!一発ぶちかましてやるか!」


 こうしてシークの作戦の元、防備を固め、準備をする。



 黒の砦、スレイン達が占拠する前は、小さな砦だった。山賊の根城だったその場所を人数が増えることにより、改修を施し、改築をし、城と呼んでも過言でないほどの規模になっていた。


 そしてその5日後、黒の砦を囲むように、8000余の人数が取り囲む。


「へっ、いい光景じゃねえか」


 グレンは城壁の下を見て不敵に笑む。


「忘れないでくださいね。決して城の外に指示があるまで出ない事を約束してください」


「わかってるよ」


「レオンさんもよろしいですね」


「ああ、しかし守るってのは性にあわねえんだよな」


「いまは我慢です。必ず転機が訪れます」


 3人は拳をあわせ、作戦の行動に移る。



 攻撃はサイラス兵が到着した翌日に行われた、サイラス兵は魔法や弓で援護しながら梯子をかけようと動きだす。またそれと同時に城門を破城槌で破壊と進む。

 それを防ぐように、グレン、シーク、レオンの指揮の元、弓を打ち、魔法で応戦する。城壁には魔呪が掛けられていて、ちょっとやそっとの魔法では壊されることはない。故に、守る側が断然有利だった。しかし、人数が少ないことが時間が経過することによって不利になりつつある。負傷した兵の交代がいないのだ。


「ッチ、敵にも相当打撃与えたが、人数が違いすぎるな」


「仕方ありません。いまは我慢です」


「わかってるけどよ、このままじゃまずいぜ」


 確かにまずい、負傷した兵は増えるばかりだ。そうなると守りにつく人数が減る。その部分は薄くなり突破されやすくなる。時間がない。そろそろ策が発動してもいい頃合なのだが・・・。

 シークは平静を装いながら多少焦る。予想より時間がかかっている焦りだ。


「大変です、右の城壁に梯子がかけられ、突破されそうです」


 部下が傷ついた体で緊急を告げる。


「レオンを向かわせてください、彼らなら少ない人数で対処できます」


「ハッ」


 まずいですね、時間がない。


 今はなんとか保っているが、いつ崩れてもおかしくない。

 そんな思案をしているシークの眼前に希望の光がみえた。


「来た!」


 シークは前に躍り出る。

 グレンはそれに気がつき、シークに近寄る。


「ありゃなんだ・・・・」


「ふふ、作戦が成功しました」


 シークは笑む。


「あれはですね、私が手紙を受け取った同時に周辺の村や街に斥候を送ったんですよ」


「まさか、あれは・・・・民か・・・」


「そうです、激を飛ばしました。サイラス王の暴虐を訴え、今こそ変える時だとね。元々、サイラス王は政務を顧みない方でした、それを支えていたのが宰相でした。しかし、それが崩れたのですよ」


 サイラス兵の後方に数万の民が声を上げて向かっていく姿が確認できた。

武器ともいえぬ、鍬や鋤を持って戦っているのだ。


「グレンさん、今こそ前にでるときです。敵は混乱して浮き足だっています。将軍を討ち、戦況を変えてください。レオンさんにも打って出るよう伝えましょう。グレンさんよろしくお願いします」


「おう!やっとでれるぜ、腕がなるな」


 訛った腕をほぐすように、腕を上げ回す。


 いまやサイラス兵は混乱の極みだった、後方に突然現れたサイラスの民数万。それに合わせて、黒の砦から、グレン隊、レオンの門弟の一団が突如打って出たのだから。少数と侮っての出兵だった。いずれ落ちると考えていた砦だった。油断を完全にしていたのだ。指揮は行き届かず、逃げる者、戦う者が乱れ、なすがまま蹂躙される。グレンはその中に単騎で突っ込み、次々と拳で屠る。サイラス兵はその姿を見て、恐怖する。その中央に騎馬に乗った将らしき男をグレンは見つける。


「よぉ、お前がここの指揮官か、相手してくれよお」


 将軍らしき男は目の前に現れたグレンに動揺する。


「ぐぬぬ、下賎な者が舐めた口をきくなああ」


 将軍の剣がグレンに振りかぶる、それをグレンは難なく手で受け止める。

 将軍は素手で剣を受け止められ、驚愕の表情を浮かべグレンを見る。


「へっ、周りがすげえ奴ばっかりでよ、結構落ち込んでいたんだが、やはり俺は強いよな!」


 グレンの剣を持った手に魔力が込められる、剣は手の中で高熱によって溶ける。


「おらああああああ」


 グレンは魔力を込めた拳を将軍の顔面に繰り出す、それを受け将軍の頭が耐え切れず吹っ飛び首だけの体になる。グレンはそれを確認して。


「ほかに相手するのはいるかああ!」


 グレンは吠えた。

 その時に、レオンもまた副将を切り伏せていた。


 将軍が倒れ、副将まで倒れ、兵たちの動揺は極地に達する。

 その時に、シークは戦の真っ只中で、サイラス兵に聞こえるように叫ぶ。


「降伏するものは武器を捨てなさい、武器を持ってる者は降伏の意思なしとみなして、殺します!」


 その声を聞き、戦意をほぼなくした兵は次々と武器を落とす。

 まだ戦意あるものも周囲の光景を見て、武器を捨てる。

 それをみて、シークは腕をあげ。


「勝鬨です!」


「オオオオオオオオ!!!」


 歓声があがる。

 こうして、黒の砦の危機は一難去った。

 しかし、これはサイラス国との徹底抗戦の始まりでもある。

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