第17話宮廷魔術師

翌朝、ドレッド帝国の王宮にいるスレイン一行は何事もなく、朝がきて朝食の最中であった。

 皇帝の安否が気になるが、わざわざ藪をつついて蛇を出すことはないとあえて聞かずにおいた。

 食事を済ませ、これから来て欲しい所があると案内された場所に現在はいる。

 その場所は、昨日訪れた皇帝の部屋の前だった。


 3人は部屋の前にたどり着き硬直してしまった。どうりで歩く通路は豪華な装飾が施されていると納得もしたが。

 タレルがノックをし、部屋に入るよう案内する。

 3人はお互い離れずに、恐る恐る中に入る。

 そして奥にベッドで寝ている、皇帝陛下の姿があった。だがおかしい、お世話するものも大臣も傍にはいないことに多少不思議ではあった。

 スレインは心中では、成功しなかったのかと焦りが生まれる。

 だが妹だけは守ろうと、傍にいる妹を確認し、皇帝の前まで歩を進める。

 皇帝の顔は昨日に比べてかなり顔色が良くなっていると感じた。


「タレル様、皇帝陛下のご容態はどうですか?」


 スレインは一番聞きたくないことを聞く。

 その言葉を受け、タレルは落ち込む様な姿をみせる。スレインの鼓動は一気に早くなる。


 そんな時。


「グハハハ、成功したか?」


 突然目の前で寝ている男が口を開け、体を起こす。

 スレインは目を見開く、これはどいうことだとタレルを見る。

 タレルは申し訳なさそうに頭を垂れて。


「申し訳ない、スレイン殿、陛下は悪戯が好きなお方でな。恩人にこんな悪戯はしたくはなかったのだが・・・・」


「悪戯・・・」


 そう呟くスレインをその皇帝は見て。


「お前がスレインか、そう驚くでない。ちょっとした悪戯じゃ。病を治してくれたそうだな、感謝するぞ」


 皇帝陛下はそう言って頭を下げる。

 3人は焦る。頭を振り、手を横に振ったりとまさに滑稽な姿でそれを否定する。

 興味ないかの様に皇帝はベッドからでてきて椅子に腰かける。そしてスレイン達にも椅子に腰をかけるよう促す。

 椅子に座ったのをみて口を開く。


「タレルから聞いた、勝負をしたいとな。もちろんその望みを叶えてやりたいと思う。だが、命の取り合いはだめじゃ。タレルは帝国にはなくてはならない男なのじゃ」


 スレインはそれに頷く


「それはこちらも望む所です。しかし、僕の見立てでは皇帝陛下はまだ数日はベッドから起きるのも大変だと思ったのですが」


「うむ、まだ本調子じゃないのう、8割といったところか。まあ動くには問題ない」


 そう言って皇帝は腕をぐるんぐるん回し、体を確かめる。

 スレインは驚く、体力を代償にするこの能力は表面の怪我ならともかく、中からの病を治すには相当体力を消耗していたはず、それなのに目の前の男は平然としてるのだから。


「よし、では日時を決めよう、10時に闘技場でどうじゃ?」


「はい、それで構いません」


「そうかそれならよかった。しかし礼にはそれでは足りんのう。ふ~む、どうじゃわしの孫に丁度いいのがいる。もらってくれぬか?容姿もなかなかのものだぞ」


 その言葉に3人は驚く、そして傍に控えていたタレルも目を見開く。


「陛下、それはさすがにまずいかと親族や重臣が黙っておりませんぞ」


「兄様には目的があります。お嫁さんなんか今はいりません」


「皇帝陛下といえど、それを妹である私は認めることできません」


 3人が声を揃えて、声を出す。それをスレインはただ驚くばかりだ。

 皇帝はそれを見て、失言だったかと大らかに笑う。


「そうか、そうか、すでにいたのじゃな。グハハハこれは失言だったわい」


 妹2人は顔赤らめ、否定するかのように手を振る。


「では、日時と場所は決まったな。スレイン、今回のことをとても感謝しておるぞ。なにかあればわしを頼ってくれ」


 スレインは頷き、皇帝陛下の部屋を後にする。



 約束の時間が来て、兵士に案内され闘技場の中に入る。

 アリスやティラは観客席の方へと案内され、スレインは闘技場の中央へと案内される。闘技場の観客席にはすでに皇帝陛下、重臣など多数の人がいた。

 スレインが闘技場の中心まで歩を進め、すでに到着していたタレルと視線を交わす。


「スレイン殿、手加減はしませんぞ」


「よろしくお願いします」


 軽い挨拶を交わし、開始の鐘が叩かれる。


 タレルはすぐさま詠唱に入る。


「ストーン」


 巨岩が突然宙に沸き、スレインの頭上に落とされる。

 スレインは回避行動をせずに、その場に立っている。

 当たったと思った瞬間、巨岩はバラバラになり、元の形を為さずに地面に落ちた。


「なんだと、何が起きた!」


 タレルは原因を探るように凝視する、スレインの周りを光の玉が幾つかみてとれた。


「あんな小さなもので破壊したのか・・・」


 ならばとすぐ次の詠唱に入る。


「ゴーレム召喚!」


 地面から土が次々と塊、人の形を成していく、それは3mほどもなる巨人の岩だった。


「やれ!」


 ゴーレムが命令と同時に動き出す。スレインを目指して。

 ゴーレムがスレインに近寄る一歩というところで、光の玉がゴーレムを次々と壊していく、何度も何度も部位を破壊する。

 ついには、形を成すこともできずに崩れ落ちる。


「むむ、厄介じゃのう。ならばこれならどうじゃ・・・・、ドラゴンアース」


 タレルの奥義とも言える魔法の名前を唱える。

 皇帝陛下はそれに驚く。


「いかん、殺す気か!」


 その言葉は届かず、ドラゴンアースは形を成す。ゴーレムのように土を取り込み姿を作る。

その姿はゴーレムよりも大きい5mほどの龍の頭へと形へと成す。その数は8頭にもなる。

 スレインはそれを見て、攻撃を変える。ファイアーボールを作り出す。

 それは何個も何個も、作りだす。その数はスレインの頭上を埋め尽くすほどの火の塊を作る。


「馬鹿な!なんだあの数は・・・。ありえん、人があれほどの魔法を同時に作りだすことなんぞ。ありえん!」


 タレルは驚愕に顔を歪める。

 土のドラゴンがスレインに襲いかかるのをみて、またファイヤーボールも発射される。何個も何個も次々とドラゴンめがけて降りかかる。まさに絨毯爆撃の様に。

 土のドラゴンは、次々と降りかかるファイヤーボールにどんどん壊され、ぼろぼろ壊れ崩れ落ちる。


「兄さんの能力初めてみたけど・・・まさかこれほどとは・・・」


 アリスは現実に起きていることにまだ信じられなかった。最強を目指すとか実はアリス自信本気で達成できるとは思ってなかった。だけどスレインの力になりたくて、付いてきた。だが今の光景はそれは夢物語ではないと、思わせる。

 アリスの驚く姿にティラは笑む。


「兄様すごいでしょ?あれでも兄様本気だしてないんだから」


「あれで本気をだしてないのか・・・」


「そうだよ!」


 エッヘンとティラは胸を張る。

 呆れたようにティラを見て、目の前の光景に集中する。

 もう土のドラゴンの形は体をなしてなかった、それはいまやただの土が地面に落ちている。

 タレルは頭を垂れる、自分の最高の魔法がいとも簡単に破壊される光景を現実にして、愕然とするほかなかった。

 頭を垂れるのタレルに声がかかる。


「まだ続けますか?」


 その声に恐怖した、まるで何事もなかったのように聞こえる声に心底恐怖した。

 タレルは頭を横に振る。


「いや、私の負けだ。降参しよう」


 タレルの降参と同時にティラはそれを大声で称える。


「兄様、さすがです!」


 だがその勝利に喜んでいるのはティラ一人で、アリス含めて観客席にいる周囲の者は呆然として声すらあげていない。

 一時の沈黙の後に皇帝陛下のスレインの勝利宣言で、場は終わりを迎える。


 その日、昼食を皇帝やタレルととり、その日に出発のことを伝えた。

 皇帝やタレルには是非、帝国に入ってもらいたいと懇願され、スレインを散々困らせた。なんとかそれを辞退し、孫をやはりもらってくれぬかとまた言われ、またそれを辞退し、城を出たのは、15時を過ぎた頃だった。その日は帝都に泊まり、次の日には聖王国に寄ることが決定された。

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