第16話ドレッド帝国
ドレッド帝国首都であり帝都にスレイン一行は到着する。ここまですでに22日の道程が過ぎていた。
ドレッド帝国は広大な土地と肥沃な土地を背景に、強力な軍隊を持つ国で知らされている。実際、帝都は行き交う人々は旅程で見た人々よりも裕福そうであり、兵士の数も他国よりも多かった。
そんな大国ドレッド帝国にスレイン一行はまずは宿をとる。そののちに、帝都の王宮魔術師タレルに面会の予約をとる手はずとなっている。
「うわぁ、大きい」
ティラは周囲を見渡しながら、喜んでいる。
「確かに、他国と比べると建物は大きいです。それに物流も盛んです。さすが大国ドレッド国というべきでしょう」
アリスも同意するようにそれに答える。
スレインもそれには同意だった、初めて見る建物、人々の活気は目がくらむほどだったのだから。
「兄様、はやく宿をとりましょう」
「ティラ子供みたい」
「アリスだって、目をキラキラさせてみてるじゃん」
「ちょっと驚いただけだ」
2人のそんなほほえましやり取りをみて、とても楽しい気分にスレインはなった。
夜のあのことを忘れて・・・。
宿に入った感想は一言で言えば立派だった。
他国の貧相な作りと違いしっかりした作りと装飾品、そしてベッドも綺麗だった。
しかし、値段もそれなりに高い。
他国だと、1日3人泊まれば、銀貨7枚ほどだったのが、帝都では金貨1枚ほどだった。多少割高だがそれは仕方ないと思う。
宿の予約をとり、帝都に赴く。都市と城の堺である立派な橋を超え、門の前に行く。その門の前に2人の門番がみてとれる。
「王宮魔術師タレルに面会したいのですが?」
門番は訝しがる素振りを隠しもせず、スレイン達をみる。
「約束はあるのか?身分はなんだ?」
「予約はないです、ですがこれが身分の代わりになると思います」
スレインは2通の親書を手渡す。
門番はその一通をみて、興味もなさそうにスレイン達と見比べる。
そしてもう一通も確認して、門番は動きを止める。
「なっ・・・聖王国巫女の手紙だと・・・」
「なんだと、そんなことがあるものか。あの巫女はかなり気難しいと噂だぞ」
「しかし・・・これを見てくれ聖王国の紋章入りだ」
2人の門番は慌てながら、相談している。
そしてなぜかティラはふふんどうだと言わんばかりに胸を張る。
「しょ・・少々お待ちください。上の者に確認をとってきますので」
横柄な態度から一変、門番は丁寧に対応をする。
やはり、サイラス国宰相の親書より、聖王国の手紙の力のほうが圧倒的に上なんだとスレインは思った。
待つこと15分、息を切らせた門番がやってきた。その後ろにも貴族風の男が息を切らせて走ってくる。
貴族風の男がスレインの前にやってきてすぐに口を開ける。
「お待たせして申し訳ない、私は上級貴族のバイルと申します。タレル様に面会とのことですな。ささどうぞまずは中へ」
バイルと名乗る男は平身低頭にスレイン一行を中へ通す。
そして案内された部屋は、どうみても貴族を待たせるそんな立派な装飾、ソファー、机だった。
3人は固まる、汚れをつけたらどうしよう、傷をつけたらどうしようと身動きできない、そんな3人をメイドと思わせる女性がとても丁寧に誘導する。
「お客様どうぞソファーへ、タレル様はご多忙の方。少々お時間がかかります」
恐る恐る座る3人、それを見てメイドはクスッと笑って。
「緊張なさらなくても大丈夫ですよ。今、飲み物をお待ちいたします」
去っていくメイドの後ろ姿を見送りながら、いまだ緊張がとけない。
そもそも、3人はこんな場所に1度たりともきたことがないのだ。
さらにいえば、礼儀作法もまったくわからない。
緊張するなという方がおかしい。
「兄様・・・・今、来たこと多少後悔してます」
「私も、師匠は礼儀作法なんてしらない粗野な方だったので、どうしたらいいのか」
スレインはここで兄として頑張らねばと思うが、2人よりも人と触れ合う機会が少なかったスレインのほうがわからない。
「僕もだよ、転移の準備して逃げる準備しておく」
ガチガチの3人の前に、お茶を出してくれるメイドさんに礼をして待つこと30分。
扉が開け放たれ、そこに初老の男性がやってきた。
おおらかな笑顔を浮かべた初老の男性は、シークの情報で言えばすでに100歳を超えている。それなのに、とてもご老人とは思えない彼に、驚く。
「お待たせしました、私がタレルです。」
「3人は立ち上がろうと、腰を浮かせるとタレルはそれを手で制し
「いやいや、そのままで結構ですよ。」
タレルも腰を掛け。
「では、早速要件を聞きましょうかな?なんでも巫女様の手紙をもっておられたとか、こりゃいかんと急いでまいりました」
タレルの大らかな態度に3人は多少気が緩み、安堵する。
「実は僕と勝負してほしいんです」
「ほう!勝負ですか?それはなぜですかな?」
スレインは事情を話す、自分達の目的を。
「なるほどなるほど、世界で最強になるためとはこれは驚きましたな」
タレルは悩む仕草をする。
「実は今は立て込んでおりましてな、ここだけの話ですが。皇帝陛下が重病なのですよ。そんな時に、勝負なんてしたら顰蹙をかってしまうのですよ」
「ならお兄様が治せば解決しますね」
タレルは初めて驚く顔をみせる。
「できるのですかな?高位の治癒魔法ですら治せない病を・・・・」
ティラは当然とばかりに胸を張る。
「兄様にできないことはないです」
スレインは困惑する・・・・ティラは何故そこまで自信満々に言えるのか。
僕はまだ治せるかどうかなんて言ってないのに・・・。
アリスに至っては、実際にみたこともないので、そんなことが可能なの?と驚いた顔でスレインを見る。
タレルはスレインを穴が開くほど凝視し、頭を下げる。
「よろしければ、見るだけでも見てもらえないだろうか。巫女様の知り合いとなればただものではないとわかります。お願いします」
スレインは思う。
これ治せなかったら、恥をかくよね・・・。
「わかりました、ですが僕もすべての症状を治せるかわかりません。試したことないので。その時はあの申し訳ないですが・・・」
「それは仕方のないことです、ですが今は藁にもすがる思いなのです」
必死の願いにできるだけ答えようとスレインは思った。
タレルに案内され、皇帝の部屋に通される。
通る警備、大臣などは怪しいものをみるような顔つきでスレインを見る。
みすぼらしい格好をしてる姿で皇帝陛下の部屋に入る姿は非礼という視線。
スレインを案内するタレルの執事のような姿に困惑する視線。
「タレル殿、本当に病気を治せるのですか?不治の病は魔法では治せないのではなかったのですかな」
「巫女様の知り合いの方です。その言葉は無礼ですぞ、治せるかどうかはやってみなければわかりませんぞ」
大臣とタレルのやり取りを経て、皇帝陛下の御前まで行く。
「治りますかな?」
スレインは皇帝陛下を見る、息が荒くもう長くないだろうと思わせる。それに何よりもう高齢だ、例え治っても、あと数年の寿命かもしれない。
「とりあえずやってみます。ただ寿命が延びることはないので・・・」
タレルは頷く。
「もちろんです、私のように魔導に身を置いてるものならともかく、それはわかっております。不治の病を今は治していただきたい」
「わかりました」
スレインは皇帝の体に触れる。
スレインの能力は、例え腕が斬られてもそれすらも治すことができる。
しかし怪我と病気はまた違う。それに、スレインの能力は対象の体力を代償にもする。もたないかもしれない可能性もある。
スレインは力を込める、皇帝の体が淡く光る。
どうやら、内蔵に病魔が無数に巣食ってると判断できた。
それを能力で少しずつ除去する、負担をなるべくかけないように少しずつ
約5分ほど能力を行使して、除去はできたが。
「一応は治りました、しかし・・・」
スレインが言い終わる前に歓声とも驚きともいう声があがる。
「まさか・・・そんな」
「さすが巫女様のお使いじゃ」
「信じられん・・・」
スレインは驚きながらも最後まで言う。
「しかし、あとは皇帝陛下の体力次第だと思います。明日にはわかると思います」
「スレイン殿感謝します、陛下の息が安定しています。本当に・・・・」
タレルは涙目で皇帝陛下をみながら語る。
「スレイン殿今日はこの王城にお泊りくだされ」
「いえ、帝都ですでに宿をとっておりますので」
「このお礼がしたいのです、あれほど苦しんでいた陛下がいまは苦しまずに寝ておる、結果がどうあれなにかしなければ帝国の名がすたります」
スレインは困惑する。
タレルはその間にスレインを泊める部屋を作るよう命令し、宿のキャンセルなど進める。スレインは観念し、妹達に応接間で説明をする。
「だけど・・・それってもし皇帝陛下が崩御されたら私たちのせいにされて、処刑されるんじゃ・・・」
「逃げださないようにするためかも」
スレインは妹達の言葉を聞き後悔した、そうかもしれないと今更ながらその結論に達する。
「アリス、ティラ僕の傍を離れないで、いつでも転移できるようにする」
2人は神妙に頷く
その夜、盛大な歓迎の食事会が行われ、スレインたち3人は最後の晩餐と戦々恐々しながら時間を過ごした。部屋も別々の部屋は断り、3人で同じ部屋を無理やり頼み込んだ。スレインは妹を守る為、同じ部屋で眠る彼女達の横で寝ずの番を過ごす。そして夜が明ける。
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