第15話聖王国

スレイン一行は10日ほどの道程を進み、サイラス国とドレッド国のほぼ中間に位置する聖王国の首都に現在はいる。

 この国は神の託宣を受ける巫女を中心とする国家であり、またこの国の国教はほぼ全ての国に伝播されて、その力は国という価値観を超え、強大な力を持つ国でもあった。その中心の巫女は聖王国の建国と同じ歳月を生きる500歳の巫女であると噂があった。姿は民衆の前にはほとんどださす、謎が多い人物でもある。


 そして現在スレインは精神的に疲労していた。その原因は妹2人の諍いだった。

 妹2人は、旅の途中で幾度も争う姿を見せている、ティラがスレインの腕を組めば、アリスも負けじとスレインの空いた腕を組む、非常に歩きにくい。スレインが一人を褒めれば、もうひとりの妹もそれに負けじと褒められようとする。そんな些細な事が何度も行われた。それだけならまだ精神的に疲労は少なかった、理解はスレインにはできないが。


 一番の精神的疲労の原因は、宿屋の事であった。

 宿屋に別々の部屋をとる予定であったのが、同室に泊まったほうが安上がりということで多少広めのベッドが3つある部屋に泊まったのだが、ティラがいつのまにかスレインのベッドに忍び込んで寝ていたのが、アリスの闘争心に火をつけ、いまでは3人が同じベッドで寝ることになったことが最大の要因である。

 スレインはそのせいで腕を枕替わりにされ、身動きができず、またその中心にいたせいで暑かった。それゆえにスレインは現在睡眠不足なのである。

 スレインはこの旅を非常に後悔していた。一人で行けばよかったと・・・・。

 妹2人がなぜここまで張り合うのか理解できないのがまた悩ませる。

 原因が分かれば解決もできるのだが。


 だがスレインは安全に寝る方法を編み出したのだ、聖王国の宿屋で泊まることになった現在、2時間ほどで寝息を立ててるのを確認し、腕を引き抜くと同時に枕を転移させる、起きていないことを確認し、自分の体を別のベッドに転移させる。これで多少睡眠時間は少なくなるが、安全に寝ることができた。

 もちろん妹2人は起きてから、不機嫌ではあったが・・・睡眠には変えられないとスレインは思う。


 聖王国を観光もせず抜けている道中。

 行列の場所に出会う。総勢1000名はいるだろうか、その一団を道の脇に避け通り過ぎるのを待つ。一団の中ほどになったころ、行列は止まる。

 一番豪奢な馬車に人が行ったり来たりしているのが、スレイン達に確認できた

何事かと見ているスレイン達に護衛の騎士と思しき一人が近寄る。


「巫女様がそなたたちに御用があるそうだ、来い」


 命令口調と思える言葉を言う騎士にアリスは憤る。

 ティラとスレインはそれをなんとか宥め、問題ごとを起こしても得にはならないという結論に達し、騎士に着いていく。

 案内されたのは一番豪奢な馬車の前であった。


「膝をつけ!」


 騎士のぞんざいな言葉が、スレインを困惑させる。膝をつけということは目上の人に対する行為なのは理解している。しかし今はスレインは黒の砦の主である。それが簡単に膝をついていいものかと、悩ませる。

 いまだ立っている、スレインに騎士は苛立ちを隠せないのか。


「膝をつけといっておるのがわからんのか!」


 厳しい口調で言葉が飛ぶ。

 そんな言葉に反応するかのように、豪奢な馬車から声が聞こえた。


「よい、妾が許す。中に入れよ」


 これには護衛の騎士、神官たちが動揺するかのように、慌て出す。


「しかし・・・・」


 騎士達が止めようと言葉を言おうとするも。


「よい、許す、入れよ」


 少し厳しい口調に騎士は諦めたのか、スレイン達を馬車の中に誘導する。

 スレインは困惑する、それは妹2人も同じだろう。入っていいものかお互いの視線が交わる。


「心配するな、妾は害したりせん、なに少し興味があったのでな、少し話をしようぞ」


 その言葉を受け、半信半疑の視線を交わしながらゆっくりと馬車に進む。

 馬車の扉があけられ、中に入る。その内装はとても広く、一般的な場所の2倍以上はあり、中も見事な装飾がほどこされていた。空いた席に座り、中の声の主を見て愕然とした。銀髪の15歳ほどの少女で、美少女と言っても過言ではないだろう。しかし、驚いたのはそのことではなかった、少女の目がスレインと同じ黒い目をしていたことにだった。

 この世界では黒い髪、又は黒い目はとても珍しい存在、それはこの世界に生きる誰もが知っている話だ。スレイン達ですら、その存在をみたことはなかった。サイラス、ロンデブルクの中では・・・。


「兄様と同じ目・・・」


 ティラは驚きと同時に声が零れる。

 少女は端正な顔立ちで薄く笑う、ティラの反応を面白がっているように。


「ふふ、妾も驚いたぞまさか同じ黒い目をしたものに会えるなぞ、ここ2,300年ではなかったことじゃ」


それも・・・


「黒い髪に黒目じゃと・・・・初めてみるわ。ふふふ」


 とても驚いたとは思えない顔で話す少女に、スレインは驚きで言葉が発せ無い。


「ああ・・・言い忘れておった自己紹介がまだじゃったな、妾はこの聖王国の巫女で名前はクレアと申す、そなたらの名前を聞かせてもらえんか?」


「巫女様ですか・・・」


 アリスは恐る恐るその言葉を話す。


「そうじゃ、巫女じゃ、でそなたらの名前はなんと申す」


「僕はスレインと言います、緑髪の女の子はティラです。金髪の女の子はアリスという名前です」


うんうんと頷く少女、とても巫女と思えないそのあどけなさにティラとアリスは動揺がいまだに隠せないようだった。それはスレインも同じことではあったが、顔にでないぶん隠せているだろう。


「スレインと申したか、その黒髪や黒目のことはどこまで知っておる」


「いえ、なにもわかりません・・・」


「そうか、なにもしらぬか、ふふ、まあよいどうじゃここではあれじゃ、妾の部屋でゆっくり話さぬか」


「それはできません。僕達には目的があるので」


 クレアは顔を眉をひそめる。


「なんじゃ、急ぎの用か、それはどういった用じゃ」


 スレインはこの旅の目的と概要を話す。

 少女はそれを聞いて残念そうな顔をしている、スレインの目的自体にはさして驚いてないようだった。


「ふむ、そうか・・・ならば仕方ないのう、ならばドレッド帝国の帰りにでも寄ってくれば良い、1日くらいなら問題なかろう?」


 スレインは妹2人を見る。


「1日くらいなら大丈夫じゃないですか?」


「兄さんの事をなにか知ってるかもしれないし、話を聞いてみたいのもあります」


 2人の妹はそれに同意する。


「わかりました、帰りに寄らせていただきます。」


 クレアはそれを聞いて笑顔で喜ぶ。


「そうかそうか、ならばよし、ドレッド帝国の用が速く済むように妾のほうでも手紙を書いておこう」


 その言葉に妹2人は驚く、聖王国の巫女の地位は絶大である、その手紙ともなればどこの国も無下にはできないどころか国賓待遇でもてなしてくれるだろう。


「よろしいのですか?」


「かまわんかまわん、妾は今日は嬉しいのじゃ」


 こうして、巫女クレアの親書をもらえることになった。

 いまや、シークが苦心した親書がかわいそうになるほどだ。

 何度もお礼を言い、手紙を受け取り馬車をでたとき、あの偉そうな騎士はずいぶん丁寧な態度をとってくれていた、巫女の客とみなされたのであろうと推測できる。

 思わぬ、出会いを終え、スレイン一行は聖王国を抜ける。

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