7・お金を稼いできたんですよ。お納めください!

【異世界・エムストラーン】

 場所・不明。

 「ちきゅーさん」とセーラ。

 宇宙にある? 


【目的】

 エムストラーンにいるモンスターを討伐。

 モンスター=バイラスビースト(略・バイストにする)。

 色々な種類がいる?


【原獣】

 エムストラーンに棲息する動物。

 職業が原獣使いなら仲間にできる。

 原獣かバイラスビーストなのかを確認するには携帯のカメラを使う


 青=バイストじゃない。食える

 灰色=バイストじゃない。食えない

 赤=バイスト。倒す。


 赤色なら、倒した時の賞金額が表示される。

 レベル8のサラダルス(だっけ?)は8000円。


【バイラスビーストの狙い】

 ユリーシャの光を闇に染める。 

 あの光は、エムストラーンの命の源?

 ちきゅー人さんに特殊能力を与えている。

 力はレベルによって決まる?


【異世界転送機】

 地球人を異世界へ転送する装置。

 ATMの役割も。

 異世界で稼いだお金は、ここで受け取れる。

 手数料10%。

 円からギルスなら手数料なし。

 クレジット払いなら全商品5%引き。


【ナビの名・セーラ】

 15センチほど。羽あり。胸は普通(C?)。

 キンパツ。口癖は「ッス」。

 ナビ料・30%

 ナビを断ることは可能?


【スロット】

 カルマ&マルカ。

 二人合わせて、なんだっけ? 忘れた。

 スロットの場所・転送先のロビー。

 他にもある?


 スロットは一日一回。

 外れはない。最低でもレベル3あがる。

 最高で99。確立は非常に低いと思われる。

 2回目は3000ギルスかかる。

 スロットに、クレジット払いで何万も使った人もいる。(気をつけるべし)


【職業】

 選択不可。転送時に肉体をスキャンして決定する。

 ・戦士。

 ・魔法使い。

 ・パラディン。

 ・原獣使い。

 の四種。

 水、火など8つの属性がある。

 4(職業)×8(属性)で32種類。


【浅田一吹=イブキアサダ】

 つまり俺。

 戦士の土属性。

 防御力が高い、らしい。


【街】

 そこには地球から来た人々がいる?

 姿は人型なら好きな姿になれる。

 性転換可。

 アバターのようなもの?

 異世界へは肉体でなく精神の移動?

 初回はデフォルト。

 変えられるは2回目から。


 セーラが「恋愛はちきゅーで」の忠告は、女と出会っても、中身は男の可能性があるから?


「ふむ」


 とりあえず、こんなものだろうか。

 喫茶店。レジで頼むタイプのどの駅でも一軒はあるチェーン店だ。

 俺は正面にガラス窓があるカウンターに座っている。

 980円(税抜き)のスパゲティーナポリタン、サラダ&コーヒー付きを食べながら、コンビニで買ったメモ帳とボールペンで、セーラが説明していた内容をまとめていた。


 ――もう二度といかない。


 とセーラに言ったものの、関心が無くなったといえば嘘になる。

 少しの時間とはいえ、ジュラシックパークのような現実ではありえないテーマパークを体験した驚きと楽しさがあった。

 それに恐怖も。

 紙幣がすっからかんだった財布の中身に、五千円札1枚に千円札が2枚入ったのだ。

 あやしいお金ではなかった。野口英世に日本銀行券の文字。真ん中のすかしに、左上と右下にはちゃんと発行番号が記されている。

 偽物ならありえない精密さだ。

 テストとして転送機に入っていた100円玉を自販機に入れてみても、問題無く100円と認識した。

 おかげで、久しぶりに外食をすることが出来ている。

 一攫千金は無理かもしれない。

 けれど、金欠である状態に、多少の潤いを与えることはできそうだ。

 確かに、ナビ料、手数料合わせて、40%も取られるのは痛い。

 エムストラーンでもお金が必要となってくるだろう。

 そう考えると、手元に残るのはごく僅かだ。

 少なくとも、レベルが低い間は……。

 でも、今、俺がスパゲティーを食べているように、一日分の食費を稼ぐぐらいならできそうだ。

 リーマン時代は、このような喫茶店でスパゲティーを食べて休憩するのが楽しみだった。

 働いた後なのもあり、スパゲティーを茹でて、パスタソースを混ぜただけのスパゲティーでも美味しく感じられた。


『セーラが「恋愛はちきゅーで」の忠告は、女と出会っても、中身は男の可能性があるから?』


 この箇所が気になり、ペン先でツンツンと突いていく。周り中にインクの点々が付いていった。

 ネカマの可能性が高いから、異世界のアバターに惚れるな、という意味なのか? 

 そんなの、誰でも分かることだ。

 なぜ、セーラはわざわざ忠告しようとしたのか。

 それも、刑事コロンボでいう、質問を終えたあとに「ああ、すいません、最後にもう一つだけ」と引き返す、コロンボが尤も聞きたかった質問のような言い方で……。

 重要なことなのだろう。

 けれど、どんな意味があるのかは分からない。

 とりあえず、


『異世界では恋愛禁止』


 と記入して、丸で囲んだ。

 アイドルグルーブのように禁止ではなさそうだが、そんな自分ルールを作ったほうがいいと判断する。

 少なくとも、セーラが言っていた意味を判明するまでは。

 尤も、女には懲りているので、恋愛する気にはまったくなれなかったが……。

 俺は目線をあげて、窓の外を確認する。


 この喫茶店のこの席を選んだのにはワケがある。


 ガラスの向こうにあるレンタルショップの、店の外にカプセルトイが並んでいる。

 その端に、自分がカプセルトイと勘違いしたように異世界転送機が設置されてあるのを見つけたからだ。

 だけど、ナポリタンを食べ終わり、1時間以上粘ってはいるけど、転送機の前で止まる人は一人も現われなかった。

 もちろん、ケータイをかざして異世界に転送された人もいない。

 本当にいるのだろうか?

 ケータイを見ると、アプリが1つ増えているのに気付いた。

 アイコンは、イラストとなったセーラの顔だ。

 タッチすれば、彼女と通話ができるのだろう。

 顔左下には、アンテナマークが付いている。無線の強さを知らせるものだ。

 100メートル以上先にある異世界転送機からは無線が届いていないようだ。棒線が入っていなかった。


【携帯電話】

 エムストラーンに唯一持って行けるアイテム。

 ただし従来のケータイとは使い道が変わる。

 ネット、アプリ類はできない?


 ・異世界への転送のキー。

 ・モンスターのサーチ。

 ・フレンドと連絡。

 ・地球上でも転送機の近くにいればセーラと会話が可能。

 ・セーラと通話するアプリが追加。

 それ以外の使い方も?


 ケータイで思い出し、メモに記入する。

 セーラが説明した内容は、だいたいこんなものだろう。

 太陽はすでに沈んでいる。ガラスの向こうは帰宅途中のサラリーマンが頻繁に歩いている。

 かつての俺も、その中にいたものだ。

 思い出すだけで、胸が痛む。

 結局、異世界に行こうとする人は現われなかったな。

 失望を覚えながら、俺は席を立った。


 ※


 家に帰ったら、女性が俺を迎えた。

 ただし、彼女ではない。そんな存在、とっくにいなくなっている。


「浅田さん。長いおさんぽでした、ね」


 大家だ。

 異世界の衝撃が大きくて、俺は彼女から逃げていたのを忘れていた。


「た……ただいま……」


 背中で、ドアのノブに手を付ける。


「おかえりなさい。また逃げるのなら、ここにあるもの全部、捨てますから、ね」


 ノブを握りしめていた手を離した。

 大家は自分の家のように床に横たわって、テレビを見てくつろいでいる。

 行方不明者が10万人超えたニュースをやっている。


「本当に物騒な世の中ですよ、ね」


 大家はそう感想を漏らしてから、リモコンを手にとってテレビを消した。


「アパートの経営仲間の中条さん。あの方の部屋に住んでいる、ちょうど浅田さんぐらいの若いお方、亡くなられたんですって。それも、背中の骨が真っ二つに折れているという……」


 サンドイッチを作るように、上の手と下の手を合わせた。


「あり得ない死に方だったんですよ」

「はぁ」

「でも、警察は自殺と断定したんですって。おかしいでしょ?」

「そうです……ね」


 いくら大家であるとはいえ、勝手に入るのは不法侵入だ。

 のだが、俺は家賃を滞納しているし、窓から逃げた身だ。

 出て行って下さい、とも言えず、大家の話にただ頷くしかない。


「本当はねぇ。追い出したいんですよ。直ぐに。今すぐに、ね?」

「はぁ……」


 と返事したあとに、俺のことだと気がついた。


「でも、若い子の考え方って分からないからねぇ。追い出したら、中条さんのように、死なれるんじゃないかって、ねぇ? そしたら、このアパートの価値がぐんと下がってしまうじゃないですか?」


 それが恐ろしくて、俺のことを追い出せない、と言っていた。


「いやいや、さすがに死ぬなんて考えたことないですよ」

「追い出していいんです、ね?」


 浮かべた笑みが恐ろしかった。

 異世界で戦ったバケモノ以上かもしれない。


「まっ、まってください。それだったら、俺としては、ここで自殺をしたほうがマシじゃないっすか。いや、俺、生きる価値のないろくでなしですよ。それは認めます。でも、死にたいなんて、思ったことはないんだから。そうそう、実をいうとですね、家賃がなかなか払えず、大家さんに本当に申し訳なく思いまして……」


 俺はポケットから財布を取り出した。


「お金を稼いできたんですよ。お納めください!」


 5000円札を大家に渡す。

 受取らなかった。

 冷たい目で、俺のことを見ている。


「浅田さん、何ヶ月分の家賃が溜まっているか知っていますか?」

「えっと……」


 大家は、指を三本立てた。


「三ヶ月です。これっぽっち、10倍にしても足りません、よ」

「でも、ちゃんと働いて……」

「働いたから偉いというのです、か? ちゃんと家賃を払っていても、偉くはありませんよ。当然のことなのです! ですが、浅田さんの気持ちはよーく伝わりました。払う気はあるようですから、今日のところはこれぐらいにしておきます」


 いただいておきますね、と5000円を引ったくって、ポケットに押し込んだ。


「5日です。いいですか5日!」


 俺の顔面を突き出すようにパーを出した。

 5という数字を出したのは単に、手の平の数なだけだろう。


「それまでに10万円を用意してください。できなければ、アパートを出て行ってもらいます」

「まってください。そんな大金、俺に払えるわけが……」

「ダメです。親に頼むなりして、必ず集めてきてください」


 無理だ。

 俺は両親から死んだように扱われている。実家に帰っても、顔を見るなり追い出される。金を貸して欲しいという頼みなら尚更だ。


「1円でも足りなければ、問答無用で追い出しますから、ね!」


 困ったぞ。

 五日までにお金を集めなければ、住む家を失ってしまう。

 10万だ。それでも滞納している家賃には足りない。全額にしなかったのは、大家なりの優しさであろう。

 その額なら、俺でも当てがあるだろうと考えての……。

 そんなものはなかった。

 そう、少なくとも昨日までは……。

 当てがあるとすればただひとつ。


「ウェルカムっス! ちきゅー人さん、エムストラーンへようこそっ!」


 セーラの顔が浮かんできた。

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