2・RPGで最初にすることってなんだと思います?
ID 479371××
職業 :戦士(土)
レベル :1
HP :23
MP :0
攻撃力:15
防御力:24
魔法力:0
すばやさ:16
運:4
俺のケータイの液晶画面は、RPGのステータスのようなものが表示されていた。
「なんだこれ?」
小学生の頃にクラスメイトとノートで遊んだ、RPGごっこを思い出して恥ずかしくなってくる。
「あなたさまの肉体がエムストラーンに転送された際に、身体能力をスキャンいたしまして、適合した職業を選ばせていただきました。こればかりは、あなたさまの自由に選択できないんすよ、スイマセン」
笑いながらもペコペコと謝った。
「防御力の高い戦士さんは、剣を手にして前戦でガンガンやっつけられます。将来有望じゃないっスか」
エムストラーンという異世界のナビケーションと名乗った妖精っぽい生き物が説明をする。
「IDはなんだ?」
見覚えのある数字が並んでいたけど、なんなのか思い出せない。
「分かりませんか? ケータイの番号の090、080を抜いたものっス。ダブることないから、便利なんすよ。お仲間さんとフレンド登録すれば、彼らがエムストラーンでお仕事中かどうか分かるし、連絡を取り合うこともできるっス。ケータイと番号が同じだから、調べたら、ちきゅー世界のお友達さんが、エムストラーンにいるかどうか分かるッス」
「…………」
「どうしました?」
「相手から知らないように設定できるか?」
登録している友人は十数人いるけど、無職の身の俺は、誰一人として相手にしたくなかった。
「あいや、なんか訳ありっスか? 大丈夫っス。拒否すれば向こうからは分かりません。こっそりお金稼ぎしたい人もいますしねぇ、そのための設定もちゃんと用意してあるから、ご安心くださいっス!」
「そうしてくれ」
「あいっス。まだ設定できないから、チュートリアル終わったらうちがやっておくっス」
ナビはビシッと敬礼をした。
「戦士の隣の、カッコ内にある土はなんだ?」
「属性っスね。職業の種類は、戦士、魔法使い、パラディン、原獣使い、とたった四つだけど、火、水、土、風、雷、毒、闇、光、の八つの属性によって差別化するっス。レベルがあがったら、土に関連する必殺技が使えるようになりますよ。防御系の技が多くありまして、これが地味なようでいて、なかなか役に立つんすよねぇ」
「ふーん、まんまRPGだな」
「そうっス。そのほうが、ちきゅー人さんが入ってくれやすいと、ゲームに真似た設定を作ってみたですよ。おかげでゲーマーの方は、リアル世界となったオンラインRPGだと、さほど苦労なく冒険に出てくれています、ありがたいことっス」
「冒険ねぇ。それはいつ出来るんだ?」
「今からっス。そのまえに、あなたさまの登録をさせてもらいます。エムストラーンについて、退治して欲しいモンスター、稼ぎ方なんかは、実践が一番だから、冒険しながら教えるっスよ」
「それで最初はなにするんだ?」
「ゲームでいうRPGで最初にすることってなんだと思います?」
と聞いてきた。
俺は暫く考える。テレビゲームは中学生のころにやったっきりだ。今はスマホの無料ゲームを軽くやるぐらい。お気に入りはソルティアだ。
「なまえ?」
「ぶっぶー」
ナビは両手でバッテンを作った。口もバッテンとしている。
「性別っス。あなたさまの性別を教えて下さい」
「見りゃ分かるだろ。男だ」
「いやいや。実はいうとですね、これは、なんと!」
ナビは焦らしてから、
「びっくり仰天! エムストラーンでは、ちきゅー人さんの性別を変えられるんです!」
「男だ」
ナビはずっこけていた。
「即答とはビックリだねぇ。なりたがる人多いっスよ。異性の体のあれやこれやと、色々と試したいようで。まず最初にしたがることは、あっは~ん。イッシッシ、みーんなやること一つッスねぇ」
ゲスい笑みを浮かべた。
「女になるつもりはない」
女はこりごりだ。
自分でなるのも遠慮したい。
「じゃあ男で決まりですね。登録登録っス。あと、性別は後で30万ギルスで変更することが可能です。もし、異性になって、女体のすばらしさを体感してみたかったら、どうぞ」
「ギルス?」
「エムストラーンの通貨っス。1ギルス1円だから、円がギルスになったと思っといてください」
つまり30万円で性別変更可能。この世界でどれぐらい稼げるのか分からないので、この金額が高いのか安いのかは良く分からない。
「お次は名前っスね。なんにします? 本名じゃなくても大丈夫ですよ。ただ、名前は変更できないので慎重にお願いします」
それなら尚更だ。
「あさだいぶき」
俺は本名にした。
「漢字は、底の浅いの浅に、田んぼの田、名前の方は、一番の一に吹き矢の吹くでいぶき」
浅田一吹。
それが俺の名だ。
「わざわざどうもだけど、漢字はいらないッスよ」
「そうなのか?」
「ええ、あなたさま、いえ、もうイブキさんでいいっスね。イブキさんとこの地球とエムストラーンは言語が違うので、実はうちたち翻訳機能を使って会話してるっス」
「その、語尾にッス、ッスを付けてるのはそういうわけなのか?」
「ああ、これはわたしの癖っス。申し訳ないっス。ウザイって仲間からも良く言われるっス」
「確かにうざいっスな」
「ッス、ッス」
真似をしたら、ナビは宙返りをして喜んだ。
「それで、翻訳機なんですけど、これがメッチャ性能悪いのなんの。イブキさんとこにあるGoogleっていうんすか? 日本語を英語にする便利な機械があるそうですね。うちはその翻訳機能よりも劣っているって残念評判なんス。漢字って画数が多くて、幾つもの読み方があるじゃないっスか。必ずミスがでちゃうんですよねぇ。だから、日本語でいうカタカナで入力させてもらうっス。名字と名前を逆にだから、イブキアサダにいたします。よろしいっスか?」
「よろしいっスよ」
「さて、こっからが私的にドキドキもんなんだけど……」
ナビは間を置いた。
「ナビケーションの名前をつけて欲しいっス! つまり、私の名前っス! よい名をよろしくおねがいします!」
「おまえを?」
「そうッス。わたし、イブキさんのサポートをするナビケーションなんだけど、実は生まれたてホカホカなんですよ。イブキさんに、私にピッタリな名前をつけて欲しいっス」
「ナビで」
「ちょ! ナビケーションだからナビって安直っスよ。NG!NG!もっと可愛い名前を希望するっス」
「じゃあ、セーラ」
「セーラー服着てるからセーラっスか。名前は大事なんだから、ちょっとは考えてくださいよ」
「なんで、セーラー服を着ているんだ?」
「ちきゅー人さんの服を着てみるのが私のマイブームなんですよ。他にも、色々な服を着ること出来るっス」
妖精は一回転をする。
スクール水着。
ナース服。
ウエディングドレス。
着物。
クルリと回転するたびに、服装が替わっていった。
「えへへ、どうっスか可愛いっスよね」
ナビはくるりとセーラー服に戻った。
「サービスするっス、あっは~ん」
色っぽい表情をして、スカートをちらっとめくった。
パンツは見えず。
中は白いショートパンツをはいていた。
「そのズボンを脱いでくれ」
「それはダメっス。うちも乙女心はあるっスよ」
んべーっ! と舌をだした。
「生まれたばかりなのにマイブームって矛盾してないか。それに、ッスッスって仲間にウザがられるって言ってただろ?」
「矛盾ないっスよ。生まれたてなのは事実だけど、魂は引き継がれているんです。転生というのかね? 記憶もちゃんとあります。そうじゃなきゃ、いちから勉強やりなおさなければ、イブキさんにエムストラーンのこと説明できなくなるじゃないですか。つまり、ナビはちきゅー人さんとは生死のあり方がちょっち違ってできてるってことっス」
「前のってことは、以前の名前もあったんだ?」
「あぁ、まあ、あるにはあったけど……」
困ったように、目をそらしている。
「何て名前だったんだ?」
「……ゲロッスケ」
「じゃあそれで」
「嫌! セーラがいいっス!」
「わかった。よろしくな、セーラ」
「よろしくっス、イブキさん」
手を出すと、セーラは照れくさそうに笑って、中指に握手をした。
俺の指でも握りきれないほどの、小さな手をしていた。
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