僕と彼女のフラグの立たない日常

@kamiyaraku

第一話

「...わかったか?このまま成績が下がり続けていけば三者面談もありえるぞ」

 そう言って俺の担任の〈斉藤俊道さいとうとしみち〉 が額に手を当てながら成績表を渡してきた。

「...はぁ、わかりました、勉強します」

「そうだといいんだが...」

 斉藤先生はため息をついた、生徒の前でため息つく教師ってどうなんだろう...いや俺が悪んだが...

「最近どうかしたのか?悩みがあるなら聞いてやるぞ」

「特にないですね」

 俺がキッパリそう言うと斉藤先生は悩ましそうな顔をした。

「ならいいが...何かあったら相談しに来るといい」

「ありがとうございます、それではしつれ...」

「あーそうだそうだ」

 斉藤先生は思い付いたかのように言ってきた。

「一ノ瀬、部活とか入っていたか?」

「いや、入っていないですけど...」

 俺がそう答えると斉藤先生はさらに悩ましそうに頭をかいた。

「そうか...部活じゃなくてもいい、いつか自分の居場所というところを作れるといいな」

 いつもだったら冗談を一つでも言うような台詞だったが、彼の真剣な表情に俺は何も言うことができなかった。

「失礼します」

 俺は職員室を後にした。



「あ、いたいた、君、部活探しているんだってね」

 そう言って俺の一年の時の担任、〈渡邉わたなべ六花りっか〉が早足で駆け寄ってきた

「いや別に探してないですけど...もしかしてさっきの話聞いていたんですか?」

 そういうと渡邉先生はニッコリ笑った。おしい!!!これであと十五歳くらい若ければストライクゾーンなんだけどな...三十台はちょっときついです。

「なにか、失礼なこと考えてませんか?」

 渡邉先生は少しため息をついて聞いてくる。

「いえ、なんでもありませんよ」

 こう見えて渡邉先生は、怒らせると怖いことで有名である。俺は間髪入れず、彼女の質問に対して否定する。

「本当ですかー?」

 妙に甘ったるい口調で聞いてくる。その声を聞いているだけで胸焼けしそうだ。

「本当ですよ、でさっきの質問に答えてください」

 どうもこの話題が長く続くとボロがでそうなので、俺は無理矢理会話をそらした。

「二年の一学期まで学校で十位以内入っていた生徒がどんどん成績が下がっていくんだもん、そりゃー、気にもなるよ」

 元担任として気になるのも当然か...

 こんなことを考えてると渡邉先生は再びニッコリ笑った

「...で君、部活探してるんだよね?」

 俺はわざとらしくため息をついた。

「だから、探してないと...」

 ガンッ!!

  壁ドンされた、それも当たったら軽く青アザできそうなぐらいの勢いの。

「...部活探してるんだよね?」

 渡邉先生の表情は変わらない。ニコニコ顔である。

「...はい」

 俺は渋々うなずいた、すると渡邉先生はパァーと顔が明るくなった。

「本当ですか、嬉しい!!なら囲碁部に入りませんか!?」

「囲碁...部?ありましたっけ、そんな部活」

「ありますよ、ただ...」

「ただ?」

「部員が二人しかいないんです...」

 渡邉先生は悲しそうな表情を見せる。

「しかも一人は幽霊部員...」

「囲碁できねぇじゃねぇか...」

 なにそれ?もう囲碁できないなら廃部にするべきじゃないのー?


「まぁ、囲碁部といっても名前だけですけどね」

 渡邉先生はそう言って笑っている。

「そうなんですか?」

「はい、普段は生徒からの相談を聞いてあげるという部活になっているんです」

「本当に囲碁部の面影ないですね」

「で、でもーちゃんと相談や雑用がないときは先生と囲碁してますよー」

 先生は必死に弁明のようなことをしてくる。あたふたしているのは演技なのか素なのかはわからない。

「はぁ、でも一人で生徒との相談に乗ってたんですね、その人」

「まぁーその部員の子かなり優秀ですから」

 先生は苦笑する。

「でもこれからは一ノ瀬くんがいてくれるから安心ですね」

「俺に拒否権はないんですね」

 俺はわざとらしく肩をすくめる

「いや、一ノ瀬くんは断らないでしょ?」

 先生は『こいつ何言ってんの?』といわんばかりの目で俺を見てくる。

「先生俺のこと頼まれた断らない超善人だと思ってるんですか...」

 そんな印象を俺に抱いているのなら即刻、眼科か精神科を受信することをおすすめする。

「本当にいやなら断ってくれてもいいんですよ?」

「先生、その言い方はずるいですよ」

そんなこと言われて断れないではないか。やめたいならやめろって言われているようなものである。

「確かにずるいですね」

 そう言って渡邉先生は微笑む

 この人って変に俺のことを考えてくれてるから無下に断ることができないんだよなーまぁ俺はそれに振り回されていい迷惑なわけだが...

 俺はせめてもの抵抗に大きなため息をついた。

「わかりましたよ一度部室につれていってください」

 俺がそう言うと、渡邉先生はニヒルな笑みを浮かべた

「行くって言いましたね、もう撤回はできませんよー」

 そんなこと言われると行きたくなくなるんですけど...

「先生、なんか腹痛くなったんで家に帰っていいですか」

「さぁー行きましょう!!」

 渡邉先生は俺の腕をがっしりホールドしてきた

「先生...本当に痛いです腕が」

「わざとですよ」

 渡邉先生はニッコリ微笑み、さらに力を入れる

「ちょっと待って!本当に折れる折れるから!!もう逃げませんから離してください!!」

「もうー、しょうがないですねー」

 そう言って渡邉先生はパッと手を離した、これ俺以外にやったら確実に教育委員会に訴えられるからね!!

「じゃあついてきてください」

 渡邉先生は、そう言って歩き出した。

「早くしてください」

 俺がどう断ろうか考えていると、先生はニッコリ微笑んでいた、目が笑ってないんだよなこの人...

「だから男に逃げられるんだよ」

「なにか言いました?」

 渡邉先生は振り返り聞いてくる。その表情は和やかだが漂っているオーラが全くもって和やかではない。

「イエナニモ...」

  俺はそう片言で答えで、俺は渡邉先生の後を追った

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