第52話 借金王、しらばっくれる

「なあ、これはやっぱり……生まれ変わりって奴か?」

「そうでちよ。まあ、記憶も外見も引き継いでるわけでちから、〈転生〉と言った方が正しいでちね」


あてがわれた天幕の中で鎧を脱ぎながら、どうにも信じられない俺が頭をかいていると、いつの間にかジャンヌがとなりに座ってきた。


「エレインって……ずいぶん早くに亡くなってたんですね」

「ん? ああ、そうみてーだな」

「……だから修道院では一緒のお墓に入れなかったのかも……」


一方、クリスは天幕の隅で首を振り、考え込んでいた。


「私が円卓の騎士だと? しかも先ほどのダリル……いや、アーサー王を見つめる熱っぽい眼差し……」

「なんだよ、クリス。調子でも悪いのか?」

「なっ、なんでもない! いきなり話しかけるな!」


クリスは顔を赤くして天幕を出て行ってしまった。


「そう言えば、マーリンもアリーゼにそっくりだったよな?」

「ドルイドの長マーリンが転生してボクになったわけでちからね。ここに来るとき使った魔術も、彼女の記憶にあったドルイドのものでちよ」


なるほど、だから普段の呪文と雰囲気が違ったわけか……。


「まぁ、それはそれとして……どうやって〈聖剣〉を手に入れる?」

「大丈夫でちよ。アーサー王に残されている時間はそれほどないはずでちから」

「そうなのか?」

「それよりボクの胸を揉んで欲しいでち」

「脈絡無さ過ぎだろ! ジャンヌも目を丸くしてるじゃねーか!」

「にゃはは……冗談でちよ。さすがに今日は疲れたから、もう寝るでち」


そう言ってアリーゼは自分の寝床に潜り込んだ。

 

            ***


翌朝。

俺達は予備の馬を与えられ、一行に加わった。道中の話し相手になってくれたトリスタンは俺の顔のせいか最初はぎこちない態度だったが、やがて慣れてきたようだった。


「なあ、円卓の騎士ってもっとたくさんいるんだろ? ランスロット、ガウェイン、ガラハッド、パーシヴァル……」

「よく知っているな。だが……皆、妖精達との戦いで死んでしまった」

「そ、そうなのか……。ところで、これから戦う巨人達ってのは?」

「連中は……妖精達の女王に唆され、我々人間達を滅ぼそうとしている。率いるのは円卓の騎士の裏切り者、モードレット。この森を抜けたカムランの丘で待ち構えているはずだ」

「へえ……カムランの丘? それって」


そこまで言ったとき、後ろで馬を走らせていたアリーゼが杖で思い切り俺の頭をひっぱたいた。


「いてっ! ……な、なにすんだよ!」


振り返るとアリーゼはゆっくりと首を振っていた。


「ダリル。貴公はカムランの丘を知っているのか?」

「あ、いや……ぜんっぜん知らねーよ?」


俺はとっさにごまかした。吟遊詩人が語る物語ではカムランの丘こそアーサー王伝説が終わる土地。そこでモードレットとアーサー王は相討ちになる。


アリーゼは、それを言うなってことを伝えたかったんだろう。確かにそれを言えば、歴史が変わってしまうかもしれない。俺が黙っていると、やがてトリスタンは静かに微笑んだ。


「貴公も陛下同様、嘘が下手だな。まあいい……たとえどんな運命が待ち受けようとも、我らは命の限り戦うまでだ。貴公らはそれを見届けてくれ」

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