第51話 借金王、円卓に招かれる

 やがてアーサー王が合図をすると、騎士達が天幕を張り始めた。茂みから出て来た三人は少し離れた場所からその様子を眺めつつ、ぺちゃくちゃとしゃべり始めた。


「にゃはは……ばっちりアーサー王のところに出られたでち」

「アーサー王とダリルさん、そっくりでしたね!」

「ダリルが年を取ると、あんな風になるのか。なかなか悪くない……」


そこへ弓を背負った美しい女騎士がやってきた。


「……客人、陛下がお待ちです。よろしければ天幕へお越しくだ……」


今度はクリスが絶句する。二人は双子といっていいほど似ていたからだ。同時に女騎士も絶句した。


「ああ、いま行く。えーと……」

「わ、私はトリスタンと言います。あ、あの……皆様はいったい……?」

「俺はダリルだ」

「へ、陛下!? いや、若過ぎる……?」

「わたしはジャンヌと言います。よろしくお願いします!」

「あ、あなたはエレイン殿! 亡くなられたはずでは……?」

「にゃはは。ボクはアリーゼでち」

「ま、マーリン殿!? 先ほど天幕内に……」

「……クリスだ」

「わ、私と瓜二つ……こ、これはいったい……」

「まあまあ。よく似た顔はこの世に三人はいると言うでちよ。偶然でち」

「い、いやそんな偶然は……」

「ぐ・う・ぜ・ん・で・ち」


アリーゼが迫力の笑顔で押し切った。


「アーサー王が待ってるんだろ? トリスタン、案内頼むぜ」

「承知しました! あ……いや、貴殿は陛下ではないのだったな。では、こちらへ……」


トリスタンと名乗った女騎士は首をひねりつつ、俺達を天幕へと案内してくれた。


                ***


アーサー王の天幕には、伝説通り〈円卓〉が置かれていた。そこにはアーサー王と先ほどのベイリン、そしてアリーゼにそっくりな少女が座っていた。頭に生えた猫のような耳までまるで同じだった。


だが俺達が天幕に入るなり、アーサー王が椅子を倒して立ち上がった。


「な、なんと……? エレイン、トリスタン、マーリン……に似た、そちらのご婦人方はいったい……?」


不機嫌そうな赤銅色の髪の騎士ベイリンも俺をにらみつけてきた。こいつ、俺がアーサー王に似てるのに躊躇無く殺しにきたが……気がつかなかったんだろうか?


横からトリスタンがベイリンに耳打ちしている。するとベイリンはアーサー王と俺を交互に見比べ始めた。そしてでかい声で独り言を言う。


「似ていないことも……ない。いったいこいつらは何者だ?」


アリーゼそっくりの猫耳少女は興味深そうに俺達を見つめていた。彼女と同じく長衣を着ている。違うのはその衣の色でアリーゼは黒、少女は緑色だった。


「あー、とにかく改めて自己紹介させてもらうぜ。俺はダリル。こっちからジャンヌ、クリス、アリーゼだ」

「陛下に対して何たる無礼な口を……」


ベイリンの額に血管が浮き上がり、立ち上がろうとする。アーサー王は片手をあげてそれを制し、音をたてて椅子に座り直した。


「……私はキャメロットの王アーサー。こちらからベイリン卿、トリスタン卿、賢者マーリンだ。我々は妖精達の女王に操られた巨人族の討伐に向かっている。君達はいったい何者だ? そしてここで何をしている?」

「あー、その。なんだ……」


俺は助けを求めてアリーゼを見た。ところがアリーゼの奴はそっぽを向いている。


「やはり怪しい連中だ! 〈女王〉の手先に違いない!」


ベイリンが円卓を叩く。話の流れや状況からして、どうやら本物のアーサー王のようだった。だが、正直に「千年後の世界から〈聖剣〉を貰いに来ました」と言っても、納得するわけねーし……。黙っていると、マーリンと呼ばれた少女が静かに口を開いた。


「……陛下。この者達は大いなる運命に導かれています。決して悪しき存在ではありません。何も聞かず、そっとしておきましょう」


アーサー王はゆっくりとため息をついた。


「……そうか……。賢者マーリンがそう言うならば……良かろう。君達の素性や目的は問わぬ。戦えるならば、巨人討伐に加わってもらえればありがたい。長き戦乱に〈円卓の騎士〉も残りわずかとなった……」


よく見るとアーサー王の顔には無数の深い皺が刻まれていた。


「森を抜ければすぐに巨人達との決戦になる。君達も今宵は天幕でゆっくりと休まれるがよい」


そうして円卓の会議は終わった。

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