第50話 借金王、アーサー王に会う

まもなく全身鎧に身を包んだ騎士の一団がこちらに向かってきた。俺達を見つけると彼らはその場で止まり、馬上槍ランスを持った騎士がひとり近づいてきた。


「貴様ら、このような場所で何をしている!?」


けっこう離れているのに、耳元で太鼓が打ち鳴らされたかのような馬鹿でかい声だった。


「なにって……アーサー王を探しにきたのさ。あんた、アーサー王がどこにいるか知らないか?」

「へ、陛下を呼び捨てっ!? 貴様、モードレットの配下だな!」

「な、なんのことだよ!? 」

「問答無用! 我が名はベイリン! 覚悟せよ!」


槍を構えた騎士は乗馬に拍車を当てると、真っすぐに俺に向かって突っ込んできた。


「ダリルっち、怪我をさせずに倒すでち!」

「難しい注文だな! みんな、下がってろ!」


俺は盾を捨て、剣を両手で握りしめる。やがて迫り来る騎士と荒ぶる馬が視界全体を覆いつくした。


俺は最後の瞬間まで、まばたきもせずその槍の先端を見つめていた。同時に全身の力を抜き、両足に闘気を込めていく。


「食らえ、我が槍!」


大地を撃つ雷光のような速度で騎士の馬上槍が突き出された。


「ダリルさんっ!? 」


ジャンヌの悲鳴が聞こえた。騎士の槍が俺の身体を貫いたように見えたんだろう……だが、それは俺の残像だった。


〈残影剣〉シャドウ・ストライク!」


残像を残すほどの高速を誇る刀剣武技。俺は突き出された槍よりも速く騎士とすれ違い、その瞬間に馬の鐙紐を斬り裂いた。これでもう馬は操れない。


駆け抜けた黒い騎士がバランスを崩し、怒号をあげる。かぶっていた兜を地面に叩きつけ、燃えるような赤銅色の髪と岩のようなゴツゴツした顔をあらわにした。


「こしゃくな真似を! 貴様……許さぬ!」


馬から飛び降りた騎士は腰の双剣を引き抜いた。右手と左手に握られたその一対の剣を見た瞬間、俺の背中から冷や汗が吹き出る。


夜そのものを凝り固めたような黒い刀身と、ところどころに輝く星のような光。恐らくイングランド王国の武器庫で手に入れた剣とは、比べ物にならないほどの魔剣だろう。


「そこまでだ! ベイリン、剣を引け!」


そのとき、青地に三つの王冠を描いた盾を持つ騎士が俺達の間に割って入った。


「我らは巨人との戦いに赴く身。無用な争いは許さぬ」


ベイリンと呼ばれた騎士がうなり声をあげつつ剣を引くのを見て、俺も剣を収める。割り込んで来た騎士は兜の面頬を上げ、俺を見下ろした。  


その瞬間、お互いが驚愕に息を呑む。


騎士は初老、俺は二十代という違いはあったが俺達は瓜二つだったのだ。何度か口を開閉させた末、騎士は言葉を続ける。


「私はキャメロットの王アーサー……君達と話がしたい。客人としてお招きしよう」

「俺はダリル。その招待、受けさせてもらう」


そうこたえてからも、アーサー王と名乗る騎士は俺の顔をしばらくまじまじと見つめていた。

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