第53話 借金王、巨人との戦いを目撃する

森を抜けるとそこは緑の草原だった。前方には険しい岩山が広がっている。俺の故郷スコットランドの典型的な風景だった。


「散開せよ!」


突然、アーサー王の声が鳴り響く。

見上げれば牛一頭ほどの大きさの石がいくつも飛んで来ていた。人間の身長の三〜五倍ほどもある巨人達は巨石を武器として投げつけてくる。当たればもちろん命はない。


「巨人の投石なら大丈夫でち!」


その言葉通り、俺達に向かってきた巨石はアリーゼが杖を振った瞬間、ふらふらと軌道を変えていった。


「よし! ジャンヌ、行くぜ!」


俺は馬に拍車を当て、巨人達の潜む岩山へと突っ込んでいった。


そこは円卓の騎士と巨人の神話的な戦いの場だった。ベイリンが振るう黒い双剣は、巨人の振り下ろす棍棒を受け止めながら刃こぼれひとつ生じない。そして次々と巨人達の足を斬り裂き、倒していく。


またトリスタンが放つ矢は不規則に曲がる異様な軌道を描き、そのすべてが巨人達の眼や喉といった急所に突き刺さっていた。


そしてアーサー王の振るう聖剣エクスカリバー。刀身から放たれる光は戦場を圧倒し、巨人達は斬りつけられた瞬間、まっ二つになっていく。


だが、俺もその戦場に飛び込もうとした瞬間、薄い霧のような障壁に弾かれた。


「時の彼方から訪れし者よ。手出しはならぬ」

「あ、あんたは……」


傍にマーリンと呼ばれていた少女が立っていた。


「この時代で戦えるのは、この時代に生きる者のみ。ただ……見届けよ」


そう言ってマーリンは壁など無いかのように俺の前を取り過ぎた。

俺に追いついたクリスとアリーゼも障壁に阻まれ、先に進むことはできなかった。

俺達が見守るなか戦いは続き、円卓の騎士達は一人、また一人と倒れていく。


「これはかつて起きたこと……変えられない事実なんでちよ」


アリーゼがつぶやき、いよいよ最後の瞬間がやってきた。すべての巨人と騎士が倒れた戦場には巨人達を率いていた騎士……おそらくモードレットとアーサー王だけが残されていた。


果てしなく続くふたりの戦い……だが、ついに双方の剣が同時に彼らの身体を貫いた。両者がゆっくり倒れると同時に壁が消えさる。俺達は円卓の騎士達のもとへと走った。

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