第12話 借金王、口を滑らせる
「なんだ、この剣と鎧は?」
「へっへっへ、旦那〜。お芝居に使う小道具ですよ〜」
俺達は郊外の森に馬を隠し、旅芸人装束に着替えてブルゴーニュ公が治める城塞都市……ディジョンに潜入しようとしていた。城門を守る衛兵に俺は愛想笑いを浮かべ、そいつの手に銀貨をすべりこませる。衛兵は小さくうなずき、だまって通路を開けた。
「……ダリルさん、ずいぶん慣れてますね」
「まぁな。ダテに長年、冒険者やってねーよ」
あからさまな賄賂をとがめるようなジャンヌの視線を無視し、俺は周囲を見渡した。ブルゴーニュ公が治めるディジョンは大変な賑わいを見せていた。
「ずいぶんにぎやかでちね〜?」
「戦争は今のところ、イングランド側が圧倒的に優勢だからな。そっちについてる分、景気がいいんだろ」
「ダリル、不用意な会話を聞かれるなよ。……ここにするか」
手近な酒場に入ると、昼間からワインを飲んでいる兵士達がいた。クリスの目が獲物を見つけた鷹のように光る。
「ご一緒しても……いいかしら?」
彼女は襟元を広げて形のいい胸を半ばまであらわにしつつ、兵士達のテーブルに近づいた。たちまち男達の目は白い谷間に釘づけになり、顔がだらしなく緩む。俺はクリスに目で合図し、ジャンヌとアリーゼを連れて酒場の二階に部屋を取った。
部屋に入って落ち着くと、アリーゼがじっと俺とジャンヌの顔を覗きこんできた。
「ダリルっちとジャンヌっち、あとクリスっちもなんでちけど……ボクはキミ達と、どこかで会ったことはないでちか?」
「アリーゼはベルリンから来たばっかりだろ? 俺はイングランドとフランスから出たことねーよ。クリスもたぶん、俺と同じだぜ」
「私も、ずっと村にいましたから……」
「そうでちか……。どうもボクはダリルっちを見ると出来の悪い生徒を見るような気持ちに、ジャンヌっちを見ると幼い妹を見るような気持ちになるんでちよ」
「なんだよ、それ?」
「アリーゼさん、十五才って言ってましたよね? 私の方が一才年上で背も高いですよ?」
「し、身長のことは言わないで欲しいでちっ! もういいでち、忘れるでち!」
顔を真っ赤にしてアリーゼはそっぽを向いてしまった。どうも背が低いのがコンプレックスらしい。胸の大きさまで指摘したら魔法でカエルにされそうなので、もちろん俺は黙っていた。
そうこうしているうちにクリスが戻ってきた。
「王太子の状況がわかったぞ」
「よっ、名女優!」
「……ダリル。今の一言で、さらに銀貨二百枚が借金に追加された」
「なっ……!」
身もだえする俺を無視し、クリスは羊皮紙に地図を描き始めた。
「王太子が捕えられているのは東の塔の地下牢だ。明日にもパリに向かって護送されるらしい。この城の兵士達はもう戦争が終わったつもりで士気は緩み切っていた」
「……やるなら今夜だな。移動中はさすがに警戒するだろ。行けるか?」
「誰に向かって言っている?」
「ダリルさん、行きましょう!」
「いよいよボクの魔術を見せるときが来たようでちね」
そして夜は更けていき、満月が輝く深夜となった……。
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