第6話 借金王、謎の洞窟に向かう

翌日の正午。俺とジャンヌは目的の洞窟の前に到着していた。洞窟の奥からは澄んだ水が流れ出している。


「あの……クリスさんも来てますね?」

「俺の稼ぎを取り上げるためにな。なにも手伝っちゃくれねーよ」


少し離れたところにいるクリスをチラチラ振り返るジャンヌに、俺は肩をすくめてみせた。


角灯ランタンに火を入れて洞窟内に踏み込むと、ひんやりと湿った空気が頬をなでる。洞窟中央を流れる小川の両端に、ちょうど人が通れるほどの余地があった。流れる水の音は絶え間なく洞窟内に反響している。


角灯ランタンが照らす範囲より外は完全な暗闇だった。ジャンヌはピッタリと俺の背中に張り付くように歩いている。


「ダ、ダリルさん……。こ、怖くないんですか?」

「いや? 俺はこういう場所の方が……」


かえって落ち着く、と続けようとした瞬間。奥の暗がりから握りこぶしほどの石がふたつ、うなりをあげて飛んできた。


ひとつを鎧の篭手で弾き、もう一つを腹に力を込めて受け止める。ジャンヌの親父さんに借りた鎧(よく手入れされた鎖帷子だった)のおかげでダメージは無い。


続いて耳障りな絶叫と共に小柄な人影が三体、錆びた小剣を振り回しながら襲いかかってきた。緑の肌にボロボロの皮鎧。身長は俺の半分ほどの人型の怪物……ゴブリンだった。


「ジャンヌ、下がってな」


彼女を下がらせ、俺はゆっくりと腰に吊るした長剣を抜く。


左右からゴブリン達が飛びかかってきた。右側の一体を蹴り倒すと同時に左側の一体を空中で横薙ぎに斬り裂く。そして起き上がろうとするゴブリンにとどめの突きを食らわせた。


あたりに静寂が戻る。驚いたことに残りの一体はクリスの放った矢で息絶えていた。

振り返ると、クリスが弓を背負い直している。


「手は出さないんじゃなかったのか?」

〈商会〉ギルドからの新しい指示だ。私の支援一回につき、銀貨百枚がおまえの借金に追加される」

「な、なんだそりゃ!? 永久に借金が終わらねーぞ!? 」

「おまえに拒否する権利はない」


さらに抗議しようとする俺の腕に、ジャンヌが震える手でしがみついてきた。


「ダ、ダリルさん……。この生き物はいったい……?」

「ゴブリンはフランスじゃ珍しいのか? まぁ、雑魚ざこさ。どんどん行くぜ」


その後も何度かゴブリンと遭遇したものの、さしたる被害もなく探索は進み、やがていわくありげな両開き扉の前に俺達は到着した。


「待て」


さっそく蹴破ろうとする俺をクリスが止め、扉を調べ始める。そして仕掛けられていた罠を見つけ、慎重に解除しはじめた。昔の冒険を思い出し、思わずホロリとする。仲間がいるのはやっぱりいいもんだ。


「クリス、ありがとな」

「〈踏み込もうとしたのを止めた〉+〈罠の解除〉で銀貨二百枚が借金に追加されたのがそんなにうれしいか? ……よし、いいぞ」

「ひでぇな、おい! くそ……おぼえてやがれ!」


俺は八つ当たりをこめて扉を蹴り開けた。

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