第3話  剣道部を選んだ私

私が一目惚れをして狂おしく恋いこがれたのは紛れもなく同性で、剣道部の副部長をしている先輩だった。

体格的にも運動神経的にも体育系の部活は向いていない私が、剣道部に入ったのは

そういう不純な動機だった。


だけど、新入りで初心者の私には明けても暮れても竹刀の素振りばかりで、防具を着けて

華麗に舞う先輩の姿を横目で見つめるだけの日々が続いた。

思うに思春期は理屈に合わない状況をも簡単に乗り越えるができる反面、現実的な手だてとか手続きにはまるで疎いアンバランスが際だつ季節。



ただ先輩に認められたい、努力をほめてほしい一心で素振りに精を出した。

欲のからんだ執念とは恐ろしいもので、わずかの間に運動音痴の私でもサマになってきた。

練習の合間に、副部長や他の先輩が新入部員の練習を見回って声をかけてくれる。

「がんばってるわね、すごくいいよ。」といわれただけでうれしくて涙ぐみそうになる。

私の腕に手を添えて指導してくれる時に秋道先輩の真っ白な道着からは、甘い汗の匂いと洗剤の匂いが入り混じってクラクラした。


あっという間に中一の一学期が終わろうとしていた。

終業式の前日、私は激しい腹痛とともに初潮を迎えた。

中学校へ入学した頃からそんな予兆はあった。

おへその下あたりがシクシクいたんだり、下着が汚れたりしてたけれど、

成長の早い子は小学校四年生くらいでなってるのに、成長の遅い私は

クラスで一番遅かった。

それまで一度も休んだことがなかったのに、学校も部活も休むはめになった。

とりあえず母親には出血があったことを話した。

「あ、そう。トイレの棚にお母さんのナプキンが置いてあるからわかるよね。」

とだけ言って仕事に出かけてしまった。


ベッドの中で七転八倒していると秋道先輩から電話が入った。

昭和63年といえば、まだ携帯電話もなかった頃のことだ。

子宮を握りつぶされてるような痛みに耐えつつ、生理になって動けないことを説明した。

「そうなの、辛いわね。私も生理、重いからわかるよ。でも、病気じゃないからね。」

先輩の優しい声に泣きそうになった、っていうかほとんど泣いてた。


電話を切ってからも先輩の言葉を噛みしめていた。

そっか、先輩も生理が重いんだ・・・。

単純に共通項があったことがうれしかった。

親以外は誰も知らない秘密の話を秋道先輩と共有できたこともうれしかった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桜の木の下で 庭月野 知美 @blue-mountain-80

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ